靴下にはそっとオレンジを忍ばせて

南米出身の夫とアラスカで二男三女を育てる日々、書き留めておきたいこと。

「タイガーママ」に思う学ぶ

2011-11-09 01:45:44 | 子育てノート
一昨日のOYABAKAさんのコメントにあった「タイガーママ」ことAmy Chua氏の記事やインタビューにいくつか目を通してみた。

アメリカで主流の子どもの「自尊心・自己評価(self-esteem)」を大切にしようとする風潮からはかけ離れた教育方針。後ろからガツンと殴られたような爽快感(笑)があった。

中国から移民してきた両親に育てられたChua氏、貧乏で暖房を入れる余裕も無く毛布に包まり冬を越すような生活、3人の妹たちと共に「中国式」の厳しいスパルタ教育で育てられた。OYABAKAさんのコメントにもあったように、学校の歴史コンテストで二位だった彼女に数学研究者だった父親が「二度と私を辱める(disgrace) な」と言ったといわれている。Chua氏自身も2人の娘を同じようなスパルタ方針で育てる。幼い頃から毎日2、3時間バイオリンとピアノの練習。その間水も飲ませずトイレにも行かせず、うまくできないとお気に入りの玩具を捨てると言い。プレイデイ、スリープオーバー(こちらでは幼い頃から友達同士宿泊しあうことが多い)、テレビ、コンピューターゲーム、習い事を自ら選ぶこと、A以外の成績、体育と劇以外で2位以下の成績は許されない。娘の成績表には「Aプラス」が並ぶ。「一度だけAマイナスをとったことがある」とインタビューで長女(成績はAからDまで、落第はFで表される)。Chua氏自身も長女もハーバード大学へ、Chua氏は現在エール大学教授。

「いい大学いい仕事」を必死で目指す一昔前の日本のよう、今はもうそんなものが「幸せ」というような価値観から揺らいでいる、とも言ってしまえるけれど、Chua氏の話すことから様々学ぶべきことがあった。

歴史コンテストで父親に「二度と二位などとるな」と言われたとき、Chua氏は父親が自分の力を信じてくれていると感じたと言う。おまえならもっとできるという父親の愛情を感じたと。「Aじゃないなら愛さないとかうまくピアノがひけないなら愛さないとかいうような条件つきの愛なら間違っています、そうではなく、あなたならもっとできるんだと子どもの可能性を信じ伝え続けることを言っているんです。96パーセントなら残りの4パーセントがどうしてできなかったのか見て改善していこう、私も一緒にいるからという姿勢が必要なのです。私は両親からの無条件の愛を一身に感じています」

「これほど学力・モラルの低下しているアメリカ、もう少しやり方を見直した方がいいのじゃないでしょうか。小さな頃から様々な選択を自由にさせ好きなことをさせ、高校くらいからいきなり容赦なく成績で進路が決まる世界へ放り投げる、実際の社会は厳しいものです、どうやって子ども達は生き抜いていけるのでしょうか」

「人のせいにしない」「ハードワーク」を価値観(value)としてあげるChua氏、「これらの価値観は中国だけでなくアメリカの昔からあった価値観。生まれながらにして能力が決まっているなんて信じません。ハードワークを通して伸ばしていくことができるんです」

Chua氏の妹はダウン症で、Chua氏の両親は靴のひもの結び方からピアノまで毎日毎日教え続けたという。今その妹は大手スーパーで働きながらピアノも弾き幸せに暮らしているという。「私の両親は彼女に博士になれといっていたわけではない。その子自身が最大限の力を発揮すること、それを目指していたのです」

「子どもの可能性を信じた親の献身」「地に足のついたハードワーク・努力の継続」、学ぶべき姿勢だと感じた。


他にもいくつか興味深い点:

Chua氏は13歳となった次女の反抗にあい、こうして親として表舞台に出るきっかけとなった自身の親そして自身の子育てを綴った著書「Battle Hymn of the Tiger Mother」を書き始めたという。アメリカ国内でその極端な厳しさで議論を呼んだChua氏の著書、中国では西洋を見習い「Chua氏のようにもう少し自由に緩くするべきだ」という論調で受け入れられているという。2009年PISA調査(全世界の子どもの学力をはかったもの)では上海が全部門(科学読解数学)1位。都市部の子ども達は遊ぶ時間もなく寝る間も惜しんで勉強。こちらの中国人の友人が「こちらでの宿題が多すぎるとかもっと遊ばせようとかいう議論、中国国内の状況知ったら皆卒倒するだろうな」と言っていたのを思い出す。

インタビュアーの「中国からノーベル賞がほとんど出ていない、果たして『中国式』で創造性は育つのだろうか」という疑問に「確かに」と頷くChua氏。「強力な親の言いなりになって育てられ、権威(authority)への挑戦、疑う姿勢など身につくだろうか」という疑問に、「自身が大学に入ってみて、確かにそういった権威(authority)への挑戦、疑う姿勢というようなものに慣れておらず得意でないことに気がついた。それでもすぐに学ぶことができました。そういった姿勢はもうアメリカ社会に溢れているので、敢えて家庭内で教える必要などないのではないでしょうか」と。

参照:Amy Chua (Wikipedia)
Amy Chua, Battle Hymn of the Tiger Mother (Web)
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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2011-11-20 14:12:53
かなり遅くなってしまいましたが。。。。

コメントに対してこんなに真剣に考えてもらえて光栄です。
それに関連サイト掲載してくれてありがとう。NBCのインタビューは私も見ていましたが、チャーリーローズとのものは知りませんでした。興味深かった。Today's showももう一度見直してみたら、以前とは違った印象を感じました。

以前、マチカさんのブログのコメントにも書いた様に、その時点ではかなりの点で彼女の考え方に反感を感じていました。が、今回観直してみて考えさせられる点が以前よりも増えていた様に思います。私も子供の可能性を信じ、その力を引っ張りだす様に導くことは確かに大切だと思う。

ただ、彼女の方針でひとつ強く疑問に思ったことは(実は夫がこの話題について私と話している時に言ったことですが)、"子供がフェイルした時のこと” 
人間いつか必ず何かの形でフェイリングに直面することがあると思うけど、彼女の方針では、子供が自分の失敗を受け入れることができる様に育てられているのだろうか。。。。言葉を換えると、子供が失敗することができるだろうか、失敗してもここまでやったんだからいいよ、それはそれでよかったんだと親も子もその事実を受け入れられて次へ進んでいくことができるだろうかということ。Amy Chunの考え方では、“フェイル”という言葉が許容されていないのでは、、、、と疑問に感じました。

フェイリングは悪いことではないと思う。
むしろ人は失敗して大きく成長していくのでは。。。。
Mrs. Chunの考え方からは、失敗は許されない、いつも完璧である様に子供に求めている様に思うのだけど。。。それでは、余裕のある人格に育たないんじゃ?って思いますけどね。
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OYABAKAさんへ、コメントありがとうございます! (マチカ)
2011-11-22 01:07:58
こちらこそ、調べたり考えたりするきっかけをありがとう。私もいくつかのインタビューや記事を見て、初めの印象と随分と変わりました。巷に出ている「タイガーママ」のイメージ、「なぜ中国式はより優れているか」というようなあの本に書き添えられた言葉(出版社が書き添えたと本人は言ってましたが)かなり誤解もうけたんでしょうね。

彼女の教育に対する献身ぶり、「うまくやれ」と言うだけでなく、子どもが力を出し切れるよう実際にかなりの時間とエネルギーを費やしている様子、などは自身を見直し姿勢が伸びました。「ハードワーク」「人のせいにしない」なども同意する価値観です。

OYABAKAさんとHさんの言う、「失敗」を受け入れるということができない、子供と共に失敗を乗り越えられていけなのじゃないか、ということ、あれだけ世間的に言う「成功」の条件が揃っていると彼女の辞書の中に「失敗」という文字がないように思えるよね。確かに子供の「失敗」に対する受け入れ忍耐力ゼロなのだと私も思う。ただもし「失敗」したとしたら彼女は「諦める」よりは「何が何でも這い上がらせる」のじゃないかな、とも思います、受け入れられないし耐えられないからこそ。

あと「基準を高く設定する」と言っていたので、多分その高い基準には届かない細かな失敗は何度もしているのかもしれないとも思います。ただその失敗のレベルが100のところが97というような世間的にみると「成功」の域に入る範囲ということで、「少しの失敗」が一大事で何度も「失敗」を通して共に学んでいるけれどそう見えないということもあるかと。

娘さん周りの献身的なサポートでここまできて、これからですよね。親元を離れ自身で様々な体験、世間的な「失敗」もするかもしれない、それらを培われたハードワークでうまく乗りこえられていくといいなと思ってます。

学ぶべきことは確かにあるけれど、このタイガーママと同じような方針で傷を負い潰れていった子ども達もたくさんいるのだと思う。極端な「成功例」しか表には出てこないけれど、見えない水面下に膨大な「失敗例」が横たわっているように思ってます。

「中国の母親は自分の子が一位、オールAでないとおかしいと思うもので」というようなことを言っていてそうなるようとてつもない献身でサポートしていくわけだけれど。私自身は「その子の力をハードワークで最大限引き出す」というのには賛成だけれど、それが必ずしも「一位、オールA」というようなものに重なるとは限らないと思ってます。世間的なものさしで測れるものなんて本当に一部のことで、「最大限の力」はそんなものに集約されるものじゃないと。

OYABAKAさんの考えをシェアしてくださってありがとう。Hさんにもよろしくお伝えください。とても考えさせられました。よい感謝祭を!
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