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にしみの鉄道情報局付属ブログ

狭軌と標準軌

2011-07-30 | 鉄道技術

日本の国鉄JRの在来線は、原則レールの幅が1,067mmの狭軌、新幹線は1,435mmの標準軌を採用しています。明治時代から改軌論争がありました。
これは標準軌の方がスピードや輸送力で狭軌より優っていると考えられたからです。しかし自分は日本の鉄道が狭軌のため輸送力や速度の面が劣っていたかというと、かなりの疑問があります。

まず、輸送力の面ですが、国鉄の在来線の車体規格は狭軌の鉄道としてはかなり大きく、バブル期にオリエント急行が来日した際、ほとんどそのまま走行可能だったことからも分かるように、標準軌を採用する欧州の鉄道に近いサイズです。車両の大きさという面でのハンディは、少なくとも昭和に入ってからは無かったと思われます。日本の在来線の車両限界は全幅3,000mm、全高4,100mm、欧州の鉄道は全幅3,150mm、全高4,280mmで遜色はありません。
ただし、標準軌よりもさらに広い広軌を採用してるシベリア鉄道などでは、かなり大きい車両が使われています。
余談ですけど、日本の新幹線は全幅3,400mm、全高4,500mmという大きい車両限界ですが、これは戦前日本の技術で作られた南満州鉄道で採用されていた車両限界から受け継がれたものです。ユーロトンネルを除くと標準軌では最も大きい車両限界になります。この車両限界は南満州鉄道から中国大陸や朝鮮半島の鉄道にも受け継がれています。

蒸気機関車の時代は、このレールの幅が重要な意味を持ちました。蒸気機関車の場合、火室の面積が動輪の幅で決まってきます。火室は石炭を燃やすところで、この面積が蒸気機関車の出力を決めている面があります。狭軌の場合、火室の面積に制限があり、高出力の蒸気機関車が作れなかったとされています。車輪の間に火室があるため、広い面積が取れないわけです。
日本の鉄道の場合、C51形では機関車の重心が高くなることを承知の上で、火室の位置が上げられ、後方に伸ばされました。これによって、狭軌でもある程度広い火室が確保できて、1750mm動輪の採用と合わせて、性能的には標準軌に近い機関車が可能になりました。
ただ、火室が動輪よりも後ろに伸ばされていったため、いろいろ弊害も出てきました。C59が代表な的な例なのですが、重心が車両後方に偏ったため、従台車に過大な力が掛かるという問題がありました。そのため、従台車の車輪破損が多発したそうです。戦後根本的対策として、旅客用機関車は従台車を1軸のいわゆるパシフィック形から、2軸のハドソン形にする設計変更が行われC61、C62が登場しています。またC59形も従台車を2軸に改造して、C60形になっています。
結局、蒸気機関車の時代では、標準軌の優位性は、3シリンダーが容易だったぐらいしか無いようです。戦前の日本の鉄道のスピード面ではレール幅よりもむしろ軌道側が大きな問題で、東海道本線ですら路盤が貧弱なところがたくさんありました。そのため、機関車の軸重を16.8t以上に引き上げることも困難だったようです。


電車の場合、車輪の間にモータを設置するため、線路幅が広いほうが出力の大きいモータを使え、スピードアップに対して有利と言われています。
戦前の関西私鉄の名車、新京阪鉄道のP-6形(後の阪急100形)や、参宮急行電鉄2200系などは標準軌ならではの150kW級の大出力モータを用いて100km/h超の高速運転を行っていました。
もっとも、自分は標準軌が出力面でスピードアップに貢献したのか疑問で、阪和電気鉄道のいわゆる阪和形電車(後の国鉄クモハ20・クハ25)は狭軌ながら150kW級の大出力モータを採用しており、100km/h超の高速運転を行っています。
国鉄も戦後になると、80系電車でこれらに近い高速運転を行っていますから、必ずしも狭軌が不利ではなかったと思います。

しかし、いわゆる1950年代以降のカルダン駆動、いわゆる新性能電車の世の中になって、レール幅が狭い狭軌は不利になります。カルダン駆動は台車にモータを固定して、車軸とモータの変位を継手で吸収し、歯車に無理な力がかからなくした方式です。この継手の設計で数種類の方式があり、ここで狭軌と標準軌では決定的な差が発生しました。
標準軌の場合、車輪間の幅に余裕があるため、歯車とモーターの間に継手を入れることが出来ました。この方式が、たわみ歯車継手を用いたWN駆動方式と言われる方式です。WN駆動は厳密にはカルダン駆動とは言えないのですが、日本国内ではカルダン駆動の一種という扱いになっています。
狭軌の場合、カルダン駆動を実現するためにはかなりの工夫が必用でした。モーターの軸を中空にして、この中にたわみ板を通すいわゆる中空軸平行カルダン方式が普及することになりました。中空軸平行カルダン方式はモーターの幅こそ狭くすることが出来ますが、構造が複雑になりモータの直径も大きくなります。
0系新幹線は180kWという大出力モータを採用しており、当時の技術では標準軌や強度に余裕のあるWN継手でないと新幹線の実現は実現は難しかったのではないかと思います。これは日本の鉄道で初めて、標準軌が決定的に有利になった点ではないかと思います。

近鉄の12000系以降の特急車は、0系新幹線と同じ出力の180kWという大出力モータを採用しています。これはMT同数の編成で、33‰の上り急勾配区間を100km/hで走行することが求められたためです。結局、急勾配を高速で走行することが求められる近鉄特急のような特殊事情を除くと、日本の在来線の速度域では性能的にこれといった差は無いようです。近鉄以外では勾配区間や地下鉄乗り入れなどで編成出力が必要な場合は、国鉄私鉄ともMT比の向上、つまり編成中の電動車比率を上げることで対応した面もあります。

インバータ制御が普及すると、小型の交流誘導モータになり、狭軌でも十分な出力のモータが搭載されるようになりました。またスペース的にも余裕ができたため、狭軌の車両でもWN駆動方式やTD平行カルダン駆動方式を採用することが出来ました。

曲線通過性能では脱線係数で標準軌のほうが、有利と言われています。しかし高速曲線では、脱線係数の上限よりも先に乗り心地限界が来るので、低中速区間での曲線通過が速いぐらいしか、線路幅が広いメリットはないのではと思います。日本の在来線や私鉄の規格ではこの点ぐらいしか、標準軌のほうが有利な点は見つかりません。
さて狭軌鉄道はどこまでスピードアップ出来るかですが、これは実際のところよく分かりません。現状では北越急行の最高速度160km/hが限界という説もありますが、直流1500Vではこの速度ぐらいが安定して集電できる限界なためです。標準軌を採用している成田スカイアクセスのスカイライナーも、直流1500Vなので電力面から最高速度160km/hが限界と言われています。狭軌で交流20000Vを採用すれば、もう少し高速運転が出来るかもしれません。

現在300km/hで走行する新幹線ですが、現在の技術ではこれぐらいの速度にならないと、標準軌の有利な所は出てこないのではないかと思います。
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3 コメント

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Unknown (中山道本線)
2011-08-02 21:29:09
 東海道本線の別線、つまり現在の新幹線を、標準軌にするしないで議論があったとき、標準軌側の論旨に、将来、原子力を動力とする可能性がでたとき、標準軌の方が有利ではないかというのがあったとか。当時の人々の技術進歩への見方を窺い知ることができますね。
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Unknown (小野利晃)
2015-03-23 00:42:32
sncfフランス国鉄の実情を何も知らないみたいですね。
フランスではdc1500V区間では時速220キロで走れます。
日本の変電所のインフラはどこでも脆弱ですから1500V区間で6000kwの機関車がまともに走れませんから(EF200のことです)仏の世界速度記録1955年の機関車の時速331キロの記録もDC1500V区間での記録です。
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Unknown (mynalcsmuse)
2016-03-22 01:44:31
標準軌のおんぼろ車両より狭軌の最新型車両の方が乗り心地でも安定性でもその他性能でも優れているように思われます。特に鉄道に詳しい人でなければ線路の幅は標準軌は新幹線だけでそれ以外の鉄道はみんな狭軌だと思っているのでしょうか。
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