今回は「マングローブ テロリストに乗っ取られたJR東日本の真実」という本です。サブタイトルが衝撃的ですが、その前に国鉄JRの労働組合について語っておかなければなりません。
JR東日本とJR東海・西日本の不仲というのは鉄道ファンの間ではもやは公然の秘密となっています。
少し前テレビでエキュート品川が特集されていましたが、その中で開業に向けたドキュメンタリーでこういうやりとりがありました。
ケーキ店を出店するテナントのパティシエがロールケーキの箱に、500系か700系が良いと言ったところ、JR東日本の担当者は「無理です。東海道新幹線は100%無理です」
それに対して「JR東海と仲悪いの?」とパティシエ。JR東日本の担当者、「・・・・」。つくづく、はっきり「はいそうです」と答えれば良いのにと思った次第で。
このJR東とJR海・西の対立は根深く、実に国鉄時代にさかのぼります。国鉄の労働組合が国鉄労働組合(国労)、鉄道労働組合(鉄労)、国鉄動力車労働組合(動労)の三組合あったのはよく知られたところですが、この三組合70年代のスト権ストや順法ストなどでたびたび対立してきました。
国鉄分割民営化の時、国労は最後まで反対しましたが、鉄労と動労は分割民営化に賛成して、多数の組合員がJRに採用され、多数派となりました。それに対して国労は、採用率が低く一気に第三組合までに組合員が減少しました。分割民営化は国労の解体をねらった、政治の陰謀とも言われています。
ちなみに国労は元々ある国鉄の労働組合で、社会党系の総評に所属し、ストライキなどどちらかというと労使対立路線の組合でした。その国労から分裂したのが動労と鉄労で、この2つの組合、全く性格が逆となっています。
鉄労は労使協調路線を取る穏健派の組合で、民社党系の同盟に加入していました。どちらかというと政治主義ではなく経済主義となっています。
動労も国労から分裂した組合で、こちらは運転士などの組合となっています。この動労、一応総評に加盟していましたが、社会党とのつながりはあまり無く、どちらかというと極左とつながりがあると言われていました。1970年代に起こった順法闘争など、過激な労働争議を起こしていました。
動労を語る上で欠かせないのが順法闘争で、これがなんぞやとならないと話が始まりません。動労は運転士主体の組合ですが、組合員は少数派で、ストライキを単独で行うことは難しいのです。しかし運転士主体の組合となると、列車の運行を自由にコントロールできるわけで、カーブや通過駅では必定以上に速度を落とし、踏切では一旦停止、道路との立体交差では徐行、線路上に鳥が入り込んだら停止など、ダイヤを乱す行動をするわけです。こうなると、鉄労や国労の運転士がいくら定時運転に心がけてもダイヤは大幅に乱れるわけで、経営陣に労働条件の向上のメッセージを送る事になります。
国鉄職員は見なし公務員扱いなので、労働争議が禁止されており、実際行われていたストライキは違法ストとなるわけですが、この順法闘争は合法となるわけです。
そんな状態ですので、ダイヤは極度に乱れ、ついには乗客が今風に言うとキレ、上尾事件や首都圏国電暴動が発生しました。
動労はその後、成田闘争の対応を巡って千葉地区が分裂し、千葉動労となっています。この千葉動労は分割民営化に最後まで反対し、現在でも時折ストライキを行っています。(いわゆる花見スト)
この2つの組合はJRの分割民営化の時、全日本鉄道労働組合総連合会(JR総連)という1つの組合になったのですが、水と油を混ぜるようなもの。うまくいかないのも当然で、1992年には分裂します。このときJR総連は旧動労系の運営だったため、スト権の委譲を各会社の組合からJR総連に委譲するように求めて、それがきっかけで、不満があった旧鉄労系が主体だったJR東海、西日本、四国、九州の各組合は相次いで、JR総連から離脱し、日本鉄道労働組合連合会(JR連合)を結成しました。
そのため、箱根の山を境にJR東日本とJR北海道、JR貨物が旧動労系のJR総連となり、JR東海、JR西日本、JR四国、JR九州が旧鉄労系のJR連合となったわけです。この時期、東海道新幹線に対する不可解な列車妨害が発生しており、この対立が影響していたのではと言われています。
JR東海や西日本にもJR総連系の組合が存在しますが、少数派となっています。JR東海のJR総連系の組合の場合、本部が東京にあるなど、JR東日本の影響を受けているのではないかと思われます。
ちなみにここからは余談ですが、JR東海からの直通特急が存在するJR東日本の長野支社、JR西日本からの直通特急が存在する新潟支社はどちらかというと現状でも鉄労系の組合が有り、一定の勢力を保っているそうで、これらの地区では比較的スムーズに会社間の直通列車が設定されている背景にもなっているようです。
さてJR総連の中核組合でありJR東日本の最大組合の東日本旅客鉄道労働組合(JR東労組)の問題を扱ったこの本、マングローブです。旧動労、現JR総連とJR東労組の実情と背後については後編へ。