デビュー作で本屋大賞を受賞した宮島未奈さんの「成瀬は天下を取りにいく」とその続編「成瀬は信じた道をいく」。この作品は2作とも短編集で、全作品が主人公の成瀬あかりの中学2年から大学1年までの物語で、友人や家族などの関係者の視点で語られています。
ただ1作目の3本目の「階段は走らない」には成瀬あかりは主役ではありません。これは1本目の「さよなら西武大津店」と3本目の「階段は走らない」が対になっていて、2020年8月に閉店した西武百貨店大津店の閉店前1ヶ月の物語となっていています。
物語の舞台の大津市は、浜大津に車を止めて京阪で京都市内へ行く場合や、三井寺や京阪電車そのものを目的にして何度も訪れています。そのため、親近感がある土地でもあり、本屋大賞受賞直後から当初から気になっていました。西武大津店は訪れたことはありませんが、作中に出てくるファミレスやはあそこだろうなと思えるところが数か所あります。
というわけで、本屋大賞受賞後、大津市内には「成瀬は天下を取りにいく」と「成瀬は信じた道を」のラッピング電車が走り始め、大津市のイベントのポスターには成瀬シリーズが使われるようになっています。
以下余談ですが、有名な文学賞は、たいてい1回しか受賞できません。もっとも権威のある芥川賞直木賞は、どちらか一方を受賞すると、それ以降その作家はノミネートから外されます。既存の文学賞は新人賞である面が大きいためようです。
ただ本屋大賞は、書店員の投票によって決まるので、同じ作家が複数回受賞できて、実際に2回受賞した例もあります(2005年2017年恩田隆・2020年2023年凪良ゆう)。他にも複数回受賞できる文学賞はあると思いますが、現状では本屋大賞がもっとも有名な複数回受賞できる文学賞です。本屋大賞はある意味、本のアカデミー賞か、カー・オブ・ザ・イヤーといった賞ではないかと思います。