雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のエッセイ「股旅演歌」 一宿一飯

2016-06-14 | エッセイ
 「一宿一飯」とは、逃走などの理由で旅をする旅鴉が、ヤクザ一家に無料で食事と宿泊させて貰うことである。ただで恩義をうけられるとは何と都合のよい習慣だと猫爺が杖をついて一家の門口に立ち、「お控えなすって…」と、暗記した口上をスラスラ述べたところで、到底恩義を受けることは出来ない。仁義を切るとは、ただの挨拶ではないのだ。

 仁義とは、面接試験のようなもので、ヤクザの旅鴉なのか、ただで一宿一飯に有り付こうとする騙りなのかを見極められるのである。もし、「此奴は騙りだ」と見破られると、殴る蹴るの暴行を受け、場合によって簀巻きにして重石をつけられ、大川に投げ込まれるかも知れないのだ。無事に一宿一飯の恩義がうけられたとしても、こんどは親分の命令を断ることができない。

 股旅演歌で「沓掛の時次郎」というのがある。

 ある日、時次郎は下総(しもふさ)は鴻巣(こうのす)というところの鴻巣一家に草鞋を脱ぎ一宿一飯の恩を受ける。この鴻巣一家は、中野川一家の縄張りを奪うために子分たちの命を奪い、ただ一人の生き残った子分、六ツ田の三蔵が孤軍奮闘で中野川一家を守り通していた。
 鴻巣一家の親分は、時次郎にこの六ツ田の三蔵を殺せと命じる。一宿一飯の掟の為に断ることが出来ないので、時次郎は一騎打ちで、何の恨みも無い六ツ田の三蔵を倒す。三蔵は苦しい息の下で、身重の妻と倅の太郎吉を頼むと時次郎に言い遺す。

 脚本によって可成り物語は違っているが、猫爺は坂本(冬)さんの浪曲入り股旅演歌が気に入っている。素晴らしい名演技なので、猫爺が全てに字幕を入れた。興味が湧けばクリックして戴きたい。

  YouTube 歌謡浪曲「沓掛の時次郎」全字幕版