雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のエッセイ「ご先祖さまに感謝を」

2014-09-15 | エッセイ
 世の善男善女は、朝な夕な、ご先祖さまに感謝の意を表してお祈り捧げるのだそうである。立派な家柄に生まれ、素晴らしいご先祖ばかりのお人はそれで宜しかろう。だが、私の先祖のように、どこの馬の骨か犬の無骨かわからない先祖を持つ者にとって、どうも感謝する気が起きない。

   「お代官様、どうぞそればかりはお許しを」
   「そう申すな、そなたは仰向けに寝転んで、天井の節目を数えておれば直ぐに済む」
   「わたくしには、将来を言い交わしたお人がいます」
   「黙って嫁になれば分からぬわ」
   「そんなことは出来ません、あれーっ、ご無体な」

 そんな風にして生まれたご先祖さまも居ます。

   「きゃーっ、痴漢」
   「静かにしておれば、命までは取らん」
 麦畑に連れ込まれて、
   「あーっ、やめてください、私はまだ子供です」
   「その方が萌えるわ」
   「助けてーっ、あっ痛い」

 そんな風にして生まれたご先祖さまも居ます。

   「ごめんね、貧しくて育てられないのだよ」
 そして、お地蔵さんの前に捨てられているのを、狼が見つけて引きずって巣へ持ち帰り、狼として育てられたご先祖さまも居ます。

   「嬶、今けえったぜ」
   「お前さん、お帰り、今、食事の用意します」
   「今夜はいらねえ、直ぐに布団を敷け」
   「嫌ですよ、お前さん酒臭い」
   「それは、酒を飲んできたのだから、あたりめえよ」
   「じゃあ、今夜はなにもせずに、大人しく寝てくださいな」
   「喧しい、亭主が女房に何をしょうと勝っ手じゃねえか」
   「だって、酔っ払っているときは、必ず避妊に失敗するのだから、うちはもう五人も子供が居るのですよ」
   「だまれ、さっさと布団を敷いて横になれ」
   「もう、言い出したら聞かないのだから…」

 六人目の子供に生まれて、泣く泣く育てられたご先祖さまも居ます。

 
   「ご先祖さま、ありがとうございました」
 こんなご先祖さまに手を合わせて拝むのは、何だかご先祖さまに対して、嫌味ではないでしょうか。