雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のミリ・フィクション「心霊写真」

2014-02-28 | ミリ・フィクション
 彼は心霊写真家である。 ただし、商売上、心霊写真家と名乗る訳にいかないらしく、彼の名刺には「写真家」と印刷してある。 作品は、偶然に奇怪なもの(モップの影や壁のシミなど)が写り込んだもの、人為的に写し込んだもの、写真に手を加えたものなどが有る。 販売対象は、テレビの「恐怖体験番組」などのほか、個人の悪戯用、プログやホームページへの張り付け用にネット販売をしている。 要望があれば、UFO写真や、動画なども作成するそうだ。

 テレビ番組用には、写真や動画の販売のほか、番組で写真を公開した折に、タイミングよく悲鳴をあげる通称「キャーギャル」の斡旋もしているらしい。 キャーギャルが一人居るだけで、スタジオに招いた若い女性などがつられて叫びをあげるので、番組が盛り上がるのだと彼は言っていた。

 私は医師であるが、もう一つの肩書は「心霊現象研究家」である。 世間は私のことを「スピリチュアルカウンセラー」だと思っているようだが、それは間違いだ。 私は心療内科医として、心霊現象に悩む人の心を研究し、心理カウンセリングを行っているのだ。

 彼は人伝に聞いて「奇怪な現象に悩んでいる」と私の所へ相談に来た。 写真を撮ると、どの写真にも同じ女性の顔が映り込むのだそうである。 カメラを替えようとも、ロケーションを替えようとも、やはり写り込んでしまう。 自分は心霊など信じたことが無かったのに、これはどうしたことかと今までの女が映り込んだ写真を差し出した。 写真をみて驚いている私の表情を、心配そうに覗き見て、    「この女性が誰なのか心当たりがないのです」と付け加えた。 姉に似ているような気もしないではないが、彼女はアメリカ人の青年と結婚をして、長年日本へは帰っていないという。 母は彼が生まれて間もなく亡くなっている。 彼は自分のことを「全く女性にモテない」と語る。 付き合った彼女は全くいないのだそうだ。

   「わかりました。 暫く女性が写った写真は全て私に預からせて下さい」
 彼は写真を集めると封筒に入れ、メモリーを添えて私に手渡した。 週一のカウンセリングを予約し、彼は帰って行った。 毎週のカウンセリングに、忘れずに除霊と称して催眠術をかけた。

 二か月後に、
   「もう大丈夫です。 あなたに憑いていた霊は成仏しました」と、言って写真を返した。
   「ご覧なさい、女性の顔は消えてしまいましたよ」
 彼は頷いた。
   「確かに消えています。 有難うございました」

    彼が帰ったあと、看護師が寄ってきて尋ねた。
   「どうして、写真に写り込んだ女性の顔が消えてしまったのですか?」
   「あれは、彼の未だ見ぬ母親の顔だったと思いますよ」 さらに付け加えた。
   「始めから写真に女性の顔は写っていませんでした」
 彼の心の深層に母親への憧れと、心霊を商売にしている自分に、少し罪意識を持っていたようだ。

(原稿用紙4枚)