雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

猫爺のミリ・フィクション「誤算」

2014-02-25 | ショート・ショート
 佐伯叶作(きょうさく)は、若き宇宙工学博士(はくし)である。宇宙工学の大学院で研究に没頭していたが、大富豪の父親が巨万の富を遺して死んだことから、大学院を終了後、私財をなげうって研究所を設立した。
 
 叶作の夢は、この小さい地球を飛び出し、宇宙の彼方で知的生命体と遭遇することである。叶作は、巨額をかけて叶作一人が乗れる宇宙船を完成させた。この宇宙船は、光速の2倍の速度で推進するが、1年かけても高だか2光年の距離にしか達することが出来ない。そこで無重力圏に達すると、自分を冷凍して生命を維持することが出来、知的生命体センサーにより目的の惑星に到着すると解凍するように設計したのである。

 操縦はコンピューターに任せ、障害物や恒星を避け、惑星であっても高温や低温過ぎるものを察知して避ける。実は、この宇宙船は、地球へ戻ることは考えていないので、水や食料などは積んでいない。

 
 叶作は宇宙に飛立った。やがて眠りに就き、叶作のからだは冷凍された。冷凍の間は時間が無いので、叶作の宇宙船は「あっ」と言う間に惑星の海に浮かんだ。
 やがて地球の海上巡視艇にそっくりな船が近づき、拡声器で何やら叫んでいる。叶作は宇宙船のハッチを開き外へ出てみた。
   「おーい、そこの兄ちゃん、大丈夫か、どこから来たんや」
 日本語で、しかも大阪弁である。
   「あれっ、ここは地球ですか?」
   「兄ちゃん、当たり前や、地球やで」
 まるで「猿の惑星」である。叶作の宇宙船は、後戻りして地球に戻っていたのだ。
   「そうか、知的生命体センサーは付けたが、地球を標的から外すのを忘れていた」

 二度目は準備万端、これで何処までも進めると、叶作は納得がいくまで機能を追加し、点検をした。地球を出発し、大気圏を突破すると、叶作は眠りに就いた。


   「もしもし、お兄さん起きておくなはれ」
 また、大阪弁だ。あれだけ納得をして発射したのに「またもや失敗か」と、叶作はがっかりした。
   「ここは地球ですよね」
   「いいえ、違います」
   「地球ではない? では、地球にそっくりな惑星かな?」
 叶作は、心が躍った。
   「いいえ、惑星とは違います」
   「では、何処なのです?」
   「兄さん、ここは極楽浄土です」
   「ええっ、私は死んだのですか?」
   「はい、そんなご大層な乗り物に乗って来んでも、死んだらスーパーテレポーテーション(瞬間移動)で、易々とここに来ることが出来ますのに」

(修正)  (原稿用紙4枚)