雑文の旅

猫爺の長編小説、短編小説、掌編小説、随筆、日記の投稿用ブログ

嬉しい気転

2013-01-25 | 日記
 昨日の天気予報では、今日から日本列島はすっぽり寒気に覆われて、寒い日が続くと報じられていた。 しかし、風が冷たいものの快晴であった為にかなり暖かかった。 いつもなら、外側が厚いビニールのジャンパーを着て外出するのだが、今日は薄手のシャツの上に、ダウンも合繊綿も入っていない合い物のブルゾンで充分だった。

 おまけに、ちょっと嬉しいことがあった。 スーパーの駐車所で通路いっぱいに広がってふざけたり立ち話をしている二十歳前後の若者たちがいた。 その間をすり抜けなければならず、「ドンと当たってこられて、よろけなければいいが…」と懸念していると、ひとりの女性が「通行の邪魔になるよ」と、連れの人達を促してくれ、私に軽く会釈してくれた。 「よく気が付く清々しいお嬢さんだ」と感心した。 それくらい何でもない行為だと思われるかもしれないが、こういう時、大概の若者は年寄りを蔑んだ目で「ジロッ」と見て、完全に無視するのが常である。 この場で彼らに当りでもすると、若者たちの方が「じゃまっけなおじん」とばかり嫌悪の表情を顕にする。 そんなことは覚悟のうえで生きている年寄りにとって、このお嬢さんの気転が本当に嬉しかった。 

 先週、「ここ当分野菜が高くなる」みたいなことをテレビで報じていたが、現に高かった。 レタスなど、安い時は一玉88円くらいなのが、300円になっていた。 今日行ってみると、レタスは値上がりしたままだったが、他の野菜は普段の値段に戻っていた。 奇麗な大根、ニラ、パプリカなどを買ってきた。 大きなリンゴも一個88円だったので、2個買った。 去年の冬は、姫リンゴかと思われるような小さいのが、200円はしていたと記憶する。「高い時は見るだけにして、安い時にどっさり食べよう」というのが私の方針。 (単にせこいだけか?)
 

猫爺のミリ・フィクション「托卵王子」

2013-01-25 | ミリ・フィクション
 閑静な住宅街を、学校帰りの少年が近道を通るために緑地公園に入り込んだ。その時、突然4人の男が近付いてきたので、少年は「カツアゲか?」と身構えたが、男たちは恭(うやうやし)く、跪(ひざま)づいた。その 中の侍従らしき男が、少年に言葉をかけた。 
  「王子様にはご機嫌宜しく、恐悦至極に存じ上げます」
  「え、王子様? 俺はハンカチ王子でも、ハニカミ王子でもないぞ」
  「そうではなくて、貴方様は本物の王子様です」
  「俺は遠藤聯(えんどう・れん)という高校生だが、父はサラリーマンだ、王ではない」
  「よく存じて上げております、ですが、貴方様はこの星のお方ではありません」
  「どこの星の王子だというのだ」
  「ここ地球から1億光年離れた、地球ほどの小さな星の王子様です、まだ地球の学者達には発見されていません」
  「そうか、それで俺をどうしょうと言うのだい」
  「訳を申し上げますが、私達の星ではどうしても男の子が育ちません、そこで、光速の1億倍の速度が出る宇宙艇で地球に飛来して地球で生まれた子供と取替ます」
  「なんだか、カッコウの托卵のようだな」
  「そうです。取り換えた地球の子供の細胞を採取して、その遺伝子を我が星の子供に植えつけます、その子供は、やがて地球の子供となって育つのです」
  「それで、その細胞を採取された地球の子供はどうなるのだ?」
  「大丈夫です、地球の男の子は、私たちの星でも育つのです」
  「そのまま、地球人として育つのだな」
  「はい、王子様の場合は、王子様そっくりな地球人として立派な成人になられました」
  「そうか、だが俺はまだ16才だぞ」
  「地球の16才は、我が星では立派な成人です」
  「それと、俺には好き合った恋人がいる。俺は彼女に恋をしているのだ」
  「それは私どもにお任せ下さい、決して悪いようにはしません、我が星には、美しい女がごまんといます。その女は、王子様の思いのままです」
  「嫌だ、そんな女は、戻りたくないよ」
 王子の言葉を無視して、それでは5日後にお迎えに上がりますと言うと、男たちはさっさと立ち去った。 
 聯は彼女を置いて地球を去る気はない。彼女と愛を確かめ合って、迎えの男たちにきっぱりと他の星などに行く気がないことを伝えよう。そう決心して、愛し合っていることを男たちに知らしめるために、彼女とデートの約束をした。
 約束の日、街角で彼女が来るのを待っていると、彼女は聯にそっくりな男と腕を組んで、楽しげに語らいながら聯の前を通り過ぎて行った。

 再び迎えの男たちが聯の前に姿を現した。 男たちは暴れる聯を優しく宥(なだ)め、抱きかかえると、聯は急に温和しくなった。持ってきたカプセルに丁寧に聯を入れ、どこへともなくカプセルを運んでいった。カプセルの窓が開かれたのは、それから間もなくのことであった。宇宙艇の中らしく、眩い光がカプセルの窓から差し込んだ。

  「お前たち、俺の彼女に何をしたんだ。あの俺とそっくりな男は誰なのだ」
  「我が星で育った聯さんです、彼には地球での王子様の記憶を総てコピーしてあります」
  「俺の記憶はどうなるのだ」
  「王子様には、これから1年間カプセルの中で眠っていただきます、1年経つと、王子様はご自分でカプセルを破って出てこられます、その時は、身も心もすっかり我が星の王子様になっておられるのです」
  「嫌だ、いやだ! 俺は毛虫ではない、繭を破って蛾にはなるものか」
 聯は、暫くは騒いでいたが、やがて静かになった。そして、1年後…

  「王子様は、すっかりこの星の人間になられましたな」
  「はい、あれ程嫌がっていた、この星の女を追いかけまわして子作りに励んでいらっしゃる」
  「ちょっとスケベすぎるところは、地球の男が少し残っていらっしゃるようですね」
  「地球から連れてきた他の子供達も皆あの調子ですよ」
  「時が経てば、落ち着きましょうか」
  「このままでは、我々の仲間は忙しくなる一方ですからな」 
  「王様に言って出張手当を上げて頂きましょうよ、何しろ片道でも1年かかるのですから」

 この星もまた青かった。
  
   (改稿)  (原稿用紙6枚)

  

猫爺のミリ・フィクション「オレオレ強盗」

2013-01-25 | ミリ・フィクション
   「ピンポーン」と、インタホンのチャイムがなった。
   「お婆ちゃん、ボクです」
   「え?あの韓国の朴さんですか?」
   「なんでやねん、違う、オレだよ、オレオレ」
   「あ、はい、サッカーの?」
   「サポーターじゃないよ、お婆ちゃんの孫だよ」
   「は? 正男かい? 正男どうしたんだい、随分顔を見せなかったね」
   「そうそう、その正男だよ、悪いやつらに追われているのだよ、匿ってくれよ」
   「はいはい、今開けるからね、ちょっと待っておくれよ」
   「早くしてよ、悪いやつらが来てしまうよ」
   「年をとると動きが鈍っていけないよ、ところで正男」
   「まだインタホンのところにいるのか、なんだよ」
   「よく考えると、わたしには正男っていう孫はいなかったよ。ワサ男じゃないかえ」
   「そうだよ、ワサ男だよ。早くしてくれよ」
   「バカだねえ、お前、ワサ男は、ブスカワの犬だよ」
   「クソババア、俺をなめとるのか、なめたらあかんぜ!」
   「わかった、あんたVC3000喉アメですやろ」
   「そうそう、♪なめたらあかん…♪ 違うやろ、喉アメが服を着てドアを叩くのか!」
   「おや、あんた服を着ているのかい?」
   「当たり前だろ!」
   「わたしゃまた、ドアを開けたら裸の男が立っていればどうしょうかとドキドキしたよ」
   「なんだよ、この色気ばばあ!」
   「色気ばばあなんてひどい。乙女の恥じらいと言っておくれよ」
   「どうでもいいから、早くここを開けてくれよ。ねえ、お婆ちゃん」
   「(ガチャ)はい、開けましたよ」
   「このくそばばあ、よくも俺をバカにしてくれたな。ブッ殺してやる!」
   「そ、そんな興奮しないで、ナイフは仕舞っておくれよ」
  
 そこへ、裏口から入ってきていた警官が

   「只今午後8時24分、強盗並びに殺人未遂の現行犯で逮捕する(ガチャ・手錠をかける音)」
   「な、なんでここに警官がいるのだよ」
   「ボタンを押せば、婆の声が全部吉田沙保里さんに届き、警察に連絡してくれるのだよ。便利な世の中だねえ」

   (改稿)  (原稿用紙3)