長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『美女と野獣』(2017年)

2017-05-23 | 映画レビュー(ひ)

 全世界で爆発的大ヒットを飛ばしている本作は、基本的には91年のアニメ版に忠実な“実写リメイク”だが、この再演に合わせて時勢を反映した新たな演出が施されているのが特徴だ。
フランスを舞台にした古典文学に現代の多様性が持ち込まれ、中でも悪役ガストンの腰巾着ラ・フゥは明らかにゲイとして描かれており、ガストンが好きなばかりに追従しているのがわかる(なんてこった、これじゃスネ夫はじめ世の腰巾着キャラみんなにゲイの再解釈ができてしまうじゃないか!)。
またアニメ版では“自意識が高すぎるちょっと迷惑なイケメン”くらいにしか見えなかったガストンだが、ベルの父親を亡き者にしようとするなど完全に悪役として再設定されていた。とりわけ“Kill The Beast!”と高らかに村人たちを扇動する姿には、昨今のトランプはじめとしたデマゴーグ達の姿が反映されているようにも思う。愛に疑念が生まれてしまったル・フゥの「ここにも怪物が」というセリフは、本作の決して多くはない重要なアレンジポイントの1つだ。

同様のコンセプトで、黒人キャストも多く配役されている。
これは近年、アメリカ独立戦争期の政界を黒人キャストのみで演じたミュージカル『ハミルトン』によって顕著になりつつあるキャスティングのダイバーシティ化で、時代が進めばいずれはベルを黒人女優が演じる日も来るかもしれない。個人的には知名度はともかく、女優としては発展途上であり、猫背なエマ・ワトソンよりもプリュメット役ググ・バサ=ローでベルを見てみたいのが僕の妄想である(ちなみにワトソンは91年版より1つも2つもキーが低く聞こえる)。

登場人物のほとんどが調度品に変えられているためイマイチわかりにくいのだが、大作映画らしいオールスターキャストになっているのが映画ファンにとっての楽しみ所だ。MVPは燭台のリュミエール役で久々に美声を聞かせてくれるユアン・マクレガーと、まるでアニメから抜け出したかのようにそっくりなガストン役ルーク・エヴァンスだろう。

 ディズニーは今後、
『ムーラン』の実写化も検討中という。多くのアジア人がキャスティングされ、より時代に添った再演出がされると思うが、願わくばリメイクに留まらない大胆さと飛躍を期待したい。


『美女と野獣』17・米
監督 ビル・コンドン
出演 エマ・ワトソン、ダン・スティーブンス、イアン・マッケラン、ユアン・マクレガー、エマ・トンプソン、ルーク・エヴァンス、クリス・クライン、ググ・バサ=ロー
 

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