長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『007/スペクター』

2017-05-23 | 映画レビュー(す)

 さながらシリーズ最終作のような趣だった傑作『スカイフォール』の後ではこれしかやりようがなかったのではないか。
監督サム・メンデスが今一度、ジェームズ・ボンドというアイコンを再定義した後に本作で行ったのはかつて少年時代に見た“007らしさ”の再定義だ。リアル&ハード路線のダニエル・クレイグ版でも踏襲されてきたゴージャスなロケ撮影、派手なアクションはもちろん、ようやっとユーモア(ギャグ)のさじ加減が増え、敵は悪の秘密結社スペクターだ。世界情勢を如実に反映し過ぎたテロリスト達の陰湿な存在は一旦、脇に置き、“悪の秘密結社”を大マジメに演出して007特有の荒唐無稽さを是とする。もはや稀代の悪役俳優となったクリストフ・ヴァルツの憎々しげなブロフェルドには「悪の首領はこうでなくちゃ!」と嬉しくなってしまった。もちろん、戦闘服のようにトム・フォードを着こなすクレイグ版ボンドのエレガンスこそ、メンデスは007映画が大英帝国が誇る唯一無二のコンテンツであると心得ている。『スカイフォール』で圧巻のシネマトグラフィーを披露したロジャー・ディーキンスは降板したものの、代打ホイテ・ヴァン・ホイテマによるゾクゾクするほど流麗なオープニングシーンの長回しはシリーズ屈指の名アヴァンタイトルだ。

そして面白いことにメンデスはベストアルバムさながらに過去作からの引用、オマージュを散りばめながらもおそらく意図的に007映画特有のダルさ(間延び、中だるみ)を再現している。英国アカデミー賞にまで上り詰めてしまった『スカイフォール』の文学性から一転、あくまで007映画は大衆娯楽映画の王道であるとする姿勢は『ダークナイト』以後のフランチャイズ映画が傾倒したシリアス・ハード路線ブームの終止符にも思えた。
故に『スペクター』の終盤のグダグダさはなかなかキビシイのだが、そんな部分も含めてクレイグ版ボンドの中では最も007映画を見ているな、と満腹感も得られてしまったのだから可笑しい。

それにしてもクレイグ版は圧倒的にお色気に乏しい。
あのモニカ・ベルッチが脱ぎ要員に過ぎず、パルムドールまで獲ったレア・セドゥの美尻も美乳も出し惜しみ。この“女嫌い”は歴代ボンドの中でも際立ったクレイグ・ボンドの個性である。

『007/スペクター』15・米
監督 サム・メンデス
出演 ダニエル・クレイグ、レア・セドゥ、クリストフ・ヴァルツ、レイフ・ファインズ、モニカ・ベルッチ、ベン・ウィショー、ナオミ・ハリス、デビッド・バウティスタ
 

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