長内那由多のMovie Note

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『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』

2021-06-15 | 映画レビュー(き)

ガンオタとして実に感慨深い。まさか『閃光のハサウェイ』が劇場長編アニメとして公開される日が来るとは。シリーズの生みの親である富野由悠季によって原作小説が上梓されたのは1990年。その後、ゲーム等でオーディオドラマのような再現がされているものの、実に30年越しの映像化である(2000年に発売されたプレイステーション専用ゲーム『SDガンダム GGENERATION-F』では『逆襲のシャア』からハサウェイ役で佐々木望が続投し、林原めぐみがギギを演じた)。

 富野御大による一連のガンダム小説が人間ドラマに重きを置いており、シリーズの売りであるMS(モビルスーツ)同士のアクションがメインにならないことはもとより、その悲劇的な結末によって長らく”映像化不可能”と言われてきた作品である。本作が劇場3部作として映像化されることに、40年ものフランチャイズを展開するガンダムシリーズの充実がある。ここにはプラモデルの売上を目的にしたトキシックな描写がなく、夜間戦闘シーンはろくにモビルスーツのディテールも見えない。登場人物は安易な共感を呼ばず、テロ組織のリーダーを主人公にしたストーリーラインは決してわかりやすくはない。

 そして暴力描写だ。巻頭のハイジャックシーンに始まり、地球連邦政府による不法在留者に対する弾圧、そしてMSによる殺戮に目を見張る。ロボットが空から落ちれば建物を潰し、バーニアを吹かせば人は焼失する。火花を散らせばそれ1つで人間は丸焦げになる。人間とモビルスーツの大きさが徹底的に対比され、その暴力性が際立つリアルな演出は長いガンダムの歴史においても非常に珍しい。そしてこれが描かれなければあの悲痛な結末には到達できないだろう。主人公ハサウェイの目的はテロによる地球の浄化なのだ。

 そう、『閃光のハサウェイ』は現在もなお地球を圧し潰そうとする人間のエゴを描くのではないか。昨年、スクリーンで『風の谷のナウシカ』を見た時にもその現代性に驚かされたが、富野御大による原作小説もまた古びていない。地球環境問題、政治権力への不信…そしてガンダム史上屈指のファムファタルであるギギの現代性だ。「(女を性的に扱うことに)慣れた物言い、好きではありませんわ」と言い放つ彼女は、これまで富野作品で何度も描かれてきた男の思い通りにならない女性像であり、彼女を前に男たちは滅んでいくことになる。原作小説に対して語りの速度が的確かは後の2作を見るまで結論付けられないし、アクションのヌケの悪さも気になるが、30年前の言葉をもってガンダムがいかに時代を更新するか、僕たちは見届けなくてはならない。


『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』21・日
監督 村瀬修功
出演 小野賢章、上田麗奈、諏訪部順一
 
 
 

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3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
楽しみですね (ナオさん)
2021-06-16 23:58:02
はじめまして、ランキングからきました。
閃光のハサウェイ、初の映像化ということでとても楽しみに待っていました。
延期の連続で待ちくたびれ感はありますが、劇場に足を運んでしっかり観てきたいです。
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Unknown (nayutagp01fb-zephyranthes)
2021-06-17 11:48:25
コメントありがとうございます。ぜひ劇場でご覧になって下さい。本文には書きそびれましたが、これまでのガンダムにはなかった音の演出にも驚かされましたよ!
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Unknown (ななしさん)
2021-06-19 11:00:32
日本神話と機動戦士ガンダム
 既出記事からガンダムのキャラ設定が日本神話などに由来するということは書いてきた。アムロは饒速日(男神アマテラス、シャアはスサノオ、アルテイシア(セイラ)はツクヨミ、そしてベルトーチカは五十鈴姫である。
https://blog.goo.ne.jp/tajikaraonokami/e/40ff20a421ed9dfc3fd5cfaacaaa955b
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