長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』

2022-01-09 | 映画レビュー(さ)

 1969年夏、世界がウッドストックに熱狂していた頃、そこから160キロ先のNYハーレムでも歴史的な音楽フェスティバルが開催されていた。若き日のスティーヴィー・ワンダー、ド級のマヘリア・ジャクソン、そして“アフリカの女王”とも言うべき絶頂のニーナ・シモンらブラックミュージックの大スターが集結し、延べ30万人以上を集客したと言われる「ハーレム・カルチュラル・フェスティバル」だ。しかし、今やその存在を知る者はほとんどいない。余す所なく映像に収めながらも、信じがたいことにそれから約50年もの間、陽の目を見ることはなかったのだ。公民権運動が盛んさを増し、ブラックパンサー党が武装蜂起を訴え、反戦運動とカウンターカルチャーが隆盛した時代に黒人の美しさと力を謳ったこの革命的フェスは文字通り“抹殺”されたのである。

 今年のアカデミー長編ドキュメンタリー賞の最有力候補と目される本作は文化史的な意味でも非常に重要な1本だ。監督を務めたクエストラブは余計な演出はほとんど施さず、このライブを目撃した人々の証言と奇跡的にほとんど無傷だったというライブフィルムで構成し、僕達にこの歴史的瞬間を追体験させる。照明費を節約するため西側に向けて作られた会場で、陽の光を浴びながら熱狂する観客たち…ありのままを撮らえたフィルムからは白人ミュージシャンがブラックミュージックに薫陶を受け、リスペクトし、共存している姿を目撃する。そして大トリを務めるニーナ・シモンの圧巻のパフォーマンスに僕らはこの時、この場所で確かに革命が起き、今再びその夏の息吹が甦ることを知るのである。


『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』21・米
監督 アミール・“クエストラブ”・トンプソン
出演 スティーヴィー・ワンダー、B・B・キング、ザ・フィフスディメンション、マヘリア・ジャクソン、ニーナ・シモン

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