2016年の米大統領選や、ブレグジットを問う英国民投票においてFacebookの会員データが分析会社に不正流出し、有権者の投票行動に影響を与えたとされる事件を思えば、この映画も決して絵空事とは言えないだろう。主人公メイは世界ナンバーワンのシェアを誇るSNS会社“サークル”に入社。ひょんなことから創業者であるベイリーの目に止まり、小型カメラを携帯して日常生活をシェアする新機能See Changeの試験者として世界的なインフルエンサーとなる。さらに彼女はサークルを有権者全員に登録させ、投票率の上昇を狙うのだが…。
実際に米テック企業に就職した事がある筆者の目から見ても、サークルの描写はリアルだ。会社の理念からマインドセットしていくトレーニング風景、従業員に対する手厚いホスピタリティ(バンドが来てライヴというのは本当にあった)、そして立場を問わず優秀な人間を抜擢する能力主義が柔軟に施行されていく様は日本企業に勤めているとなかなかお目にかかれないだろう。
サークルが過度なサービス向上により全体主義化していく中盤以後の展開は主演エマ・ワトソンの実力不足もあってか、映画のスタンスが曖昧に見えてしまう。乏しい表情演技からは果たしてメイが内心ではサークルに対して疑問を抱いているのか、心酔しているのかがわからないのだ(親友役のカレン・ギランと並ぶとその実力不足は明らかである)。スティーヴ・ジョブズのモノマネ芸みたいなトム・ハンクス、結局なんの役割も果たさないジョン・ボイエガらキャストに見合った配役、掘り下げがされているとも言い難い。
結局、当のFacebookも衰退を始めており、『ザ・サークル』はSNS時代の10年をハイライトで見せてもその未来は描く事なく終わってしまった。僕はこれといった危惧も抱かず、今日もTwitter等々を使っているワケである。
『ザ・サークル』17・米
監督 ジェームズ・ボンソルト
出演 エマ・ワトソン、トム・ハンクス、ジョン・ボイエガ、カレン・ギラン、エラー・コルトレーン、パットン・オズワルド
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