長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『ビッグ・アイズ』

2019-08-13 | 映画レビュー(ひ)

1950年代に一世を風靡した大きな瞳の寂しげな女の子の絵“ビッグ・アイズ”。当時、画家ウォルター・キーンによる作品と認知されていたそれは妻マーガレット・キーンが描いたものだった…ティム・バートン監督による本作は実に現代的なテーマであり、ネオウーマンリヴを先駆けている。1950年代当時、女が独立して生計を立てる術はなく、バツイチだったマーガレットも多分に漏れず世間を知らなかった。詐欺同然の贋作商売をしていたウォルターに口八丁手八丁で丸め込まれ、彼女はゴーストライターとしてビッグ・アイズを描き続けることになる。モラハラ夫によって気力も判断力も奪われてしまう精神的DVは今でこそ世間に認知されているが、マーガレットにはなす術のない事だ。絵画というアイデンティティを奪われたマーガレットの哀しみをエイミー・アダムスは好演。前年の『アメリカン・ハッスル』から翌年の『メッセージ』へと連なる主演女優移行期の充実のパフォーマンスだ。

近年『ダンボ』など、精彩に欠く印象のティム・バートンだが、本作ではトレードマークと言える暗く奇抜な映像表現を封印。ブリュノ・デルボネルによる印象派絵画のような美しいカメラを得て、ベテラン監督ならではの職人的ストーリーテリングを発揮している。これまで社会のはみ出し者へ向けられていた視線はマーガレットというマイノリティへ愛を持って向けられており、社会から隔絶され、アトリエで自身の哀しみをキャンバスに描き続けてきた彼女は長い時を経て“声”を手に入れる事となる。それは少年時代にいじめられ、映画と絵画でアイデンティティを形成したティム・バートン自身の姿ともダブる。これが本作を手がけた大きな理由の1つだろう。


『ビッグ・アイズ』14・米
監督 ティム・バートン
出演 エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ、ダニー・ヒューストン、クリステン・リッター、ジェイソン・シュワルツマン、テレンス・スタンプ
 

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