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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『Mommy』

2018-05-12 | 映画レビュー(ま)

とにもかくにもグザヴィエ・ドランである。
わずか二十歳で監督デビューするやゲイである出自と母親への異様とも取れる愛憎が混在した作風が注目を集め、一躍映画界の風雲児として注目を集め始めた。その人気と期待の表れがカンヌ映画祭でのゴダールとの同点受賞だろう。本作『Mommy』は26歳の初期衝動のままの手法も大いに注目を浴びているが、驚くべきは熟練した演出手腕だ。百戦錬磨のアンヌ・ドルバルとスザンヌ・クレマンらを迎えたドランは本作をエネルギッシュな女性賛歌として謳いあげた。この無名の2女優を世に知らしめただけでも既に演出家冥利に尽きるではないか。

話題を集めている1:1の画面サイズ比は実際にやり過ぎた手法にも思える。感情をぶつけ合う3人を捉えたカメラには息苦しいほどの切迫感が充満し、暑苦しい。劇中2回だけ画面比が16:9へと文字通り押し広げられるのだが、この瞬間のエモーションはやはり映画としてのルックスが本来持つエネルギーであり、1:1にはどうしても“映画じゃないな”という違和感がつきまとってしまう。窮屈で息苦しい現実を表現するための画面比という手法は説明過多すぎやしないだろうか。

 終幕、あったかも知れない、あってほしい未来を夢想する16:9は儚く、痛切で、美しい。ドランは小細工に終始せずとも観客の心を揺り動かせる類稀な力を持った映画作家だ。さらなる感動を求め、今回はちょっと厳しめに採点しておこう。


『Mommy』14・加
監督 グザヴィエ・ドラン
出演 アンヌ・ドルバル、スザンヌ・クレマン、アントワン・オリビエ・ピロン
 

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