長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『永遠の門 ゴッホの見た未来』

2019-12-05 | 映画レビュー(え)

 自身も画家であるジュリアン・シュナーベル監督がデビュー作『バスキア』に続いて画家の映画を撮った。それもゴッホだ。これまでも多くの映画作家がその創作に迫り、一昨年前にも全編をゴッホの油絵のタッチで描いた傑作アニメ『ゴッホ 最期の手紙』が公開されたばかりである。これ以上、語るべき物語があるのか?

 これまでの諸作同様、本作もゴッホの最晩年が描かれる。ゴーギャンとの出会いからアルル地方へ移住したゴッホは多くの傑作を描き上げるが、精神疾患に苦しみ、村人とのトラブルは絶えず、やがて孤立を深めていく。シュナーベルはそんな特殊な精神状態にある人物の視点から世界を映し、ゴッホがアルル地方から得たインスピレーションを観客へ追体験させていく。心地よい空気の冷涼さ、陽光のぬくもり、肌を撫でる風…ウィレム・デフォーはゴッホの感動や苦しみを大仰に演じる事なく、痩身と顔に刻まれた深い皺でそれを体現し、このアメリカ映画を代表する性格俳優がいよいよ円熟の極みに達している事がわかる。

 デフォーという最良の“被写体”を得ながらも、シュナーベルのゴッホ評伝は説明的過ぎるきらいがある。耳鳴りのように自身の声がオーバーラップし、視野狭窄的に画面下がボヤけ、ゴッホをセリフで評する場面が続く。前述『ゴッホ 最期の手紙』のような、彼の創作宇宙を浮かび上がらせるような大胆なアプローチがもっと見たかった。


『永遠の門 ゴッホの見た未来』18・仏、米
監督 ジュリアン・シュナーベル
出演 ウィレム・デフォー、オスカー・アイザック、マッツ・ミケルセン、マチュー・アマルリック、ルパート・フレンド、エマニュエル・セニエ、ニエル・アレストリュプ
 
 

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