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長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『グッド・タイム』

2020-03-12 | 映画レビュー(く)

 またまた新しい兄弟クリエイターの登場だ。ジョシュア&ベニーのサフディ兄弟は2014年の『神様なんかくそくらえ』で長編デビュー(まさかの東京国際映画祭がグランプリと監督賞を与えている)。続く本作『グッド・タイム』は早くもカンヌ映画祭コンペティション部門に選出され、そして2019年にアダム・サンドラー主演『アンカット・ダイヤモンド』が批評家賞を席巻するという躍進ぶりだ。

 逮捕された弟を救うべく奔走する兄を描いた本作はそんな気鋭2人ならではの血気盛んな1本だ。強盗を決行する冒頭部から映画はアクセル全開。今や怪優として頼もしいキャリアを形成する兄役ロバート・パティンソンは熱量たっぷりに映画を牽引する。ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーによるサウンドトラックはまるで『ヒート』におけるマイケル・マンとエリオット・ゴールデンサルのようなケミカルでこのクライムドラマにヒリヒリするようなテンションを与えている。

 多少の寄り道はあれど、映画はこの勢いで100分間を突っ走り、そこには愛する弟を助け出すという以外に一切の情緒も存在しない。行き当たりばったりで向こう見ずな兄をバッサリと断罪する無常な幕切れのドライさには70年代ニューシネマも彷彿とした。これは見逃せない作家の登場だ!


『グッド・タイム』17・米
監督 ジョシュア&ベニー・サフディ
出演 ロバート・パティンソン

 
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『クロース』

2020-03-11 | 映画レビュー(く)

 常勝ピクサーによる『トイ・ストーリー4』のオスカー獲得によって幕を閉じた2019年の長編アニメ賞レースだが、印象に残ったのは新興勢力の台頭だった。ゴールデングローブ賞を獲ったのはストップモーションアニメの名門LIKAによる『Missing Link』。ディズニーによる大ヒット作続編『アナと雪の女王2』は野心的ストーリーながらオスカー候補から落選し、代わってノミネートされたのはカンヌ映画祭で絶賛されたフランス産『失くした体』、そしてアニー賞を席巻したスペイン産『クロース』とNetflix配給による2作品だった。

 主人公ジェスパーは親の七光りでぐうたら暮らすポストマン見習い。将来を危惧した親によって北方の寒村へ唯一の郵便局員として派遣される。そこは2つの部族が争いを繰り広げる無法地帯だった。一通も受託できない郵便事情に肩を落とすジェスパーだったが、町外れに住む孤独なおもちゃ職人クロースと出会いによって事態は大きく変わっていく。

 セルジオ・パブロス監督は現代的な視座でサンタクロースの物語を再構築しており、それはサンタを信じる子供を描く事でもある。既に憎しみの理由すらわかっていない大人たちを尻目に、プレゼントが欲しい子供たちはまず壁を取り払って隣人へ親切を働き、サンタへ手紙を書くため自ら学校に通い、奪われた教育を取り戻す。やがてその無邪気さは社会に健全さを取り戻すのだ。危機に際して子供の権利から制限するような社会に生きる僕たち大人がこの映画から得るものは大きい。子供を大切にできない社会に未来があるだろうか。

 近年、珍しくなった手書きアニメーションの優しいタッチはユーモラスでいて時にスリリング、そして神秘的な瞬間を描出することに成功しており、本作を忘れ難いクリスマスストーリーとしている。今後、アニメスタジオとしてもNetflixは躍進していく事だろう。


『クロース』19・スペイン
監督 セルジオ・パブロス
出演 ジェイソン・シュワルツマン、J・K・シモンズ、ラシダ・ジョーンズ
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『グリーンブック』

2019-04-01 | 映画レビュー(く)

 

今年のアカデミー作品賞受賞作。

賞レース中からも本作への批判は尽きなかったが、授賞式をきっかけについに爆発した感がある。"白人が上から目線で語った人種差別映画”等、その製作スタンスが槍玉に上げられ、挙句の果てには"『クラッシュ』以来最低のアカデミー作品賞”とまで言われている始末だ。

映画を見ればそんな批判、と言うより彼らの”落胆”もある程度は理解ができる。2018年はハリウッドにとって大きな変革の1年だった。『ブラックパンサー』『クレイジー・リッチ!』ら白人以外の人種が主演するスタジオ作品が大ヒットし、オスカーではメキシコを舞台にした外国語映画『ROMA』が最多ノミネートを獲得。変容の年の締めくくりとして例年にない大きな期待がかけられたアカデミー賞だったのだ。

 

『グリーンブック』は新しくないし、このジャンルの映画として傑出しているとも思えないが、多くの人から愛される何とも人好きのする映画だ。脚本を務めたニック・ヴァレロンガが幼少期に父から聞いた話を基にしたという極私的な映画であり、そういう意味で『ROMA』と通ずるものもある。これをポリコレ棒で叩くのは筋違いだろう。

舞台は未だ黒人差別が根深い1962年。主人公トニー・ヴァレロンガは黒人ピアニスト、ドクター・シャーリーの運転手兼用心棒として雇われ、南部巡業の旅に同行する。当時の世間一般の白人男性と同じように根拠のない差別意識で凝り固まったトニーと、カーネギーホールの上に住み、まるで王侯貴族のような暮らしをするドクター・シャーリーという水と油ほども違う2人が珍道中を繰り広げながら、やがて強い絆で結ばれていく。

アメリカ映画はこれまで何度も人種差別という負の歴史と健やかに向き合ってきたが、『グリーンブック』もこの系譜に連なる作品だ。主演2人の素晴らしいケミストリー、豊かなユーモアセンス、おまけに『素晴らしき哉、人生!』よろしくクリスマス映画でもある。無教養なヤクザ者は哲人ノマド俳優ヴィゴ・モーテンセンに正直ミスマッチな感も否めないが(もちろんヴィゴは何の造作もなく演じている)、マハーシャラ・アリはエレガントでカリスマチックにシャーリーを好演。『ムーンライト』に続き、アカデミー助演男優賞に輝いた。ソ連育ちの天才ピアニストでアメリカの黒人差別を知らない黒人、という複雑な出自はアリの演技力の御陰でもっと掘り下げて描いて欲しいと思わずにはいられなかった。

トニーのシャーリーに対する差別だけではなく、劇中のあらゆる人物が互いにレイシャル・プロファイリング(人種による決めつけ)をしているのが本作の特徴だ。トニーはシャーリーとトリオを組むミュージシャンに対してすら”ドイツ人はこすからい”と因縁をつけるが、所変われば彼もイタリア野郎と蔑まされる。そんな彼らが互いを知る事で人間の本質に気付いていく“人は見た目とは違う”というテーマこそ監督ピーター・ファレリーが何度も手掛けてきた主題であり、本作は彼の集大成と言っていいだろう。

南部ツアー中の一行は「(黒人の)好物でしょうから」とフライドチキンを振る舞われる。かつて黒人奴隷達がわずかに残った鳥の足から作り出したこの料理が、そんなルーツを満足に知らないトニーとシャーリーを結びつける。歴史的背景にビクつく必要なんてない。それを知った上で、僕らが同じメシを食べて美味しいと言い合える仲になれば、世界はもっと良くなるのではないか。やっぱり好きだな、と思えてしまう映画である。

 

『グリーンブック』18・米

監督 ピーター・ファレリー

出演 ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ

 
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『クリード 炎の宿敵』

2019-03-11 | 映画レビュー(く)

大ヒットを記録し、批評家からも大絶賛された前作はシルヴェスター・スタローンを40年ぶりにアカデミー賞の舞台へ送り出し、監督のライアン・クーグラー、主演のマイケル・B・ジョーダンはマーヴェルに一本釣りされて『ブラックパンサー』を製作。その後の活躍は知っての通りだ。スタローンが脚本を手掛けた第2弾は自身の出番はそこそこにスターバリューを増したジョーダン、テッサ・トンプソンへ見せ場を譲ってシリーズの継承を行っている。今回の敵は『ロッキー4 炎の友情』でアドニスの父アポロを殺したロシアの殺人ボクサー、ドラゴとその息子。まさに乗り越えなければシリーズリブートはあり得ない倒すべき宿敵だ。

古風な筋立てだが、ドラゴ役ドルフ・ラングレンの年輪のような深い皺が思いがけない深みを生み出している。かつてロッキーを苦しめたドラゴは国家に見捨てられ唯一、残った息子を究極のボクシングマシーンへと育て上げていた。それは自ずとスタローンに見初められ、『ロッキー4』でメジャーデビューしながらも決して順風満帆とは言えない俳優人生を送ったラングレン自身のキャリアとダブる。相変わらずセリフはほとんどないが、クライマックスはその表情が行間を生み、泣かされてしまった(ドラゴJR.をラングレンの実息と錯覚してしまった程だ!)。

前作を機に大ブレイクしたジョーダンとトンプソンはシリーズをすっかり自分のモノにして頼もしい主演っぷりだ。シリーズ史上最強の敵を前に苦戦に陥るクリードをジョーダンはたぎるような怒りを持って熱演。隠し切れない品の良さ、優しさと共存するパンクさが彼の魅力だろう。
そんなジョーダンに対して“姉さん”風情のトンプソンは得意の歌声も披露。かつてのエイドリアンのような内助の功ではなく、共に人生を歩む戦友としてボーイッシュな格好良さだ。そんな二人が親になる事を前に戸惑うシーンがいい。そう、スタローンはこんな繊細な描写もできる人だよな、と思い出した。

 アポロの仇討も済んでシリーズの継承はついに完成。いよいよクリード伝説が始まるであろう次回作が楽しみだ。


『クリード 炎の宿敵』18・米
監督 スティーブン・ケイブルJr.
出演 マイケル・B・ジョーダン、シルヴェスター・スタローン、テッサ・トンプソン、フロリアン・ムンテアヌ、ブリジット・ニールセン、ドルフ・ラングレン
 
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『くるみ割り人形と秘密の王国』

2019-01-16 | 映画レビュー(く)

E・T・Aホフマン原作、チャイコフスキーによるバレエも有名な『くるみ割人形』の映画化。今更こんな古典をろくな翻案もなしに映像化する所にハリウッドの深刻な企画不足が伺えるが、ディズニーは惜しげもなく1億2千万ドルもの製作費を投入。結果、批評興行共に大惨敗に終わった。スター・ウォーズやマーヴェルを抱えて一見好調に見えるディズニーだが、オリジナル作品については不振が際立つ。監督はラッセ・ハルストレム、ジョー・ジョンストンという異例の2人体制が敷かれたが、残念ながら作品を救うには至らなかった。

 鑑賞を予定していなかった僕の腰を上げさせたのが主演マッケンジー・フォイの存在だ。
『インターステラー』で宇宙の果てから帰還するには十分な理由だった愛らしい子役も18歳になり、その美少女っぷりに磨きがかかっている。ドレス姿もいいが、すらりと伸びた手足が覗くくるみ割りルックでのアクションがよりキュートだ。だが、ディズニー製作のアドベンチャー映画で主役を張るにはいささかシリアス過ぎる美貌なのか、これだけで映画はもたないのである。ブラッド・バード監督『トゥモローランド』のラフィー・キャシディ嬢のようなチャーム(愛嬌とでも言うべきか)がこの手の映画には必要ではないか。18歳にしてディズニー映画よりもノーラン映画の方が似合う個性は何とも頼もしく今後、演出に恵まれれば大人の女優への脱皮も可能だろう…と、美少女研究家はうんちく考えながら見てしまったのである!


『くるみ割り人形と秘密の王国』18・米
監督 ジョー・ジョンストン、ラッセ・ハルストレム
出演 マッケンジー・フォイ、キーラ・ナイトレイ、ヘレン・ミレン、モーガン・フリーマン
 
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