長内那由多のMovie Note

映画や海外ドラマのレビューを中心としたブログ

『インターステラー』

2020-09-16 | 映画レビュー(い)

 デビュー当初こそ“人生経験のない自分が通用するのはサスペンスだ”と公言していたクリストファー・ノーランだが、『ダークナイト』で頂点を極めて以後、同じサスペンス・SFジャンルでもそのテーマ性は深化してきた。初のオスカー監督賞にノミネートされた『ダンケルク』ではタイムリミットサスペンスに自身のルーツであるブリティッシュイズムと、排外主義へのプロテストを潜ませ、それに先駆ける2014年の本作は今のところ彼のキャリアで唯一の非サスペンス映画であり、親子愛のドラマである。今回、IMAXスクリーンで再見し、改めてその溢れんばかりのエモーションに圧倒されてしまった。

 オスカー受賞後も正統派に戻らなかったマシュー・マコノヒーの“体臭”が映画を支え(それは時折、ノーランの演出を超えたりもする)、美少女子役マッケンジー・フォイとの親子愛は感動的だ。ノーラン組ハンス・ジマーの神秘的なスコアは星の彼方へと僕らを誘い、繰り返し詠われるディラン・トマスの詩が僕らをたぎらせる。絶対不可能に「でもやるんだよ!」と立ち向かう展開には胸が熱くなってしまった。観客を問答無用で映画銀河の彼方へと打ち上げるノーラン演出は圧巻だ。

また今回の再見では内臓に響くような劇場の音圧に驚かされた。終幕のブラックホールシーンは息を呑む体験であり、ノーラン映画の魅力を最大限に引き出せるのが映画館である事がよくわかる。コロナ禍において新作『テネット』の劇場公開にこだわった彼が如何に“劇場体験”を重要視しているのか改めて理解できた。

 主人公と娘の親子愛ドラマの影で、息子との関係性は何度見ても寒々しく、そこにスピルバーグの初期作『未知との遭遇』を思い出す。家族を捨てた父との確執は後のスピルバーグ映画にも度々影を落とした。そんな彼が『シンドラーのリスト』で映画作家として1つの到達点に達したように、クリストファー・ノーランもヒューマンドラマで転換点を迎えるのではないだろうか。彼が初めて情感的になった『インターステラー』は後にキャリアの試金石として語られる作品になるだろう。


『インターステラー』14・米
監督 クリストファー・ノーラン
出演 マシュー・マコノヒー、アン・ハサウェイ、ジェシカ・チャステイン、マイケル・ケイン、マッケンジー・フォイ、ウェス・ベントリー、マット・デイモン、エレン・バースティン、ビル・アーウィン、ケイシー・アフレック、ティモシー・シャラメ、ジョン・リスゴー、トファー・グレイス


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