リッスン・トゥ・ハー

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若返るオーケストラ

2008-09-06 | リッスン・トゥ・ハー
ホルンはふるんと腕を震わせて必死、息を吹き込めば吹き込むほど、皮膚の張りはよくなり、色艶が出てきて、なんだか髪の毛も濃く多くなったようである。ホルンが老化現象を吸い取っているようだ。どの楽器もそうである。オーケストラが盛り上がる、第三楽章の中ほど、ほとんどの楽器がかき鳴らされて、会場は音で溢れかえる頃、まさに若人達の演奏会となった、オーケストラをしかし未だ初老の指揮者が、確実に導いていく。老化現象が鳴っている、燃えている。燃えて、燃やし尽くした音は、素晴らしい、というしかいいようがなく。それは、はさみで皮膚を切り裂き、つるんとした中身が出てきて、その中身に触っているような、はかない痛さと甘さ、酸っぱさ、をかねそろえた味、といっても過言ではなかった。しばらく聞いていると、様々な映像が見えた、オーケストラのメンバーの人生の一場面一場面であった。つまらない映像であった。時に猥雑な映像であった。ええ、あんな真面目そうな人が、的な映像も含まれていた。赤面しっぱなしの人もいた、しかしそれも確実に人生であった。それなしでは語ることなど出来ないのだ。走馬灯、だれもがそう感じていた。おそらく走馬灯はこのような映像、音、匂い、感触になるのだろう。退屈で退屈でしょうがなかったが、嫌ではなかった。心地よさは常にあったそれが老化現象を燃やす代償として、保証された完成度であった。オーケストラは同時に突然鳴り止む。進化の過程をさかのぼり始めたのだ。