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国会事務局-その3

○国会法第16条  

各議院の役員は、左の通りとする。一 議長 二 副議長 三 仮議長 四 常任委員長 五 事務総長

○国会法第27条

事務総長は、各議院において国会議員以外の者からこれを選挙する。

先日、「国会事務局-その2」で「強い中立」と「弱い中立」について紹介し、国会事務局は「強い中立」を貫くべきとした、昭和32年11月1日の参議院事務総長就任挨拶を紹介しました。

今回は、衆議院事務総長の辞職願の扱いを巡り、議運委員会で議長、議運委員長、各党委員から強い慰留をされてなお、辞職した衆議院事務総長を紹介します。

各会派の中間を辿ろうとする「弱い中立」ではなく、法規・先例に基づく議会運営に尽力し「強い中立」を貫いた事務総長だったからこそ、与野党双方からその辞職を惜しむ声が上がったことは言うまでもありません。

長くなりますが、当該会議録を引用します。

[衆議院議院運営委員会(昭和35年7月22日)]

○衆院議長 

本日、多年衆議院の運営に功労のありました事務総長鈴木隆夫君より辞職願が提出されました。簡単でありまするから、全文を朗読してみます。

辞職願
私儀、かねてより一身上の都合により辞職したい念願でございましたので、何とぞ特別の御詮議をもって御許可下さるようお願い申します。昭和35年7月22日 衆議院事務総長 鈴木隆夫

これをいかに取り計らうべきか、御協議をお願いいたします。

○議運委員長 

ただいま議長から御報告のありました鈴木事務総長辞任の件の取り扱いについて御協議を願います。

○柳田委員 

事務総長鈴木隆夫君が、長年国会の事務職員として議会運営のために尽瘁されたことは、われわれ野党もこれを多とするものであります。しかし、今回一身上の御都合でおやめになる。実は昨年そういうようなお申し出がありましたときには、健康上の御理由もありましたので、われわれ御慰留申し上げたわけでありますが、今回承りますと、議長、副議長の方でも再三慰留されたそうでありますが、非常に辞意もかたいようでありますし、まことに情においても忍びないものがありますが、この際、人間の出処進退というものは、やはり御本人が一番深く期し、深く考えておられることと思いますので、しいてわれわれが御意思に逆らうこともどうかと思いますから、まことに鈴木君に対してはわれわれも惜しむものでありますけれども、やむを得ざるものとして認めたいと思います。

○菅家委員 

ただいま議長からの御報告の鈴木事務総長の辞任の件でありますが、同君は、御承知の通り、多年この国会において事務総長として、あるいは国会の役員として非常に功労の多かった人でございます。

はっきり言えば、国会運営の生き字引のような、得がたき存在でありまして、でき得べくんば長くとどまってもらって――国会正常化の問題、その他議事規則、国会法、それらについてこれから検討が行なわれるという時期でありますから、とどまってもらいたいということは、おそらく全議員の一致した考え方だろうと思う。しかし、同君はしばしば一身上の都合により辞意を漏らされておる。

この上これを引きとめるということは、同君の功労に対して報いる道でないと考えますので、まことに惜しい一人でありますが、やはり同君の辞意を認めてやることが、この段階において適当だと思いますので、これを承認することにいたしたいと思います。

○池田(禎)委員 

昨年の国会の混乱のときに、事務総長が辞表を提出されたときには、3党の全会一致の決定として慰留をし、本人も非常に感激をいたしまして辞表を撤回いたしました。今回の辞表については、牢固たる決意であるし、委員長初め、正副議長初め皆さんの、翻意を促された誠意もついにいれられず、どうしてもこの際辞任をいたしたいという決意につきまして、私どもはもはや言うべき言葉がありません。

先ほどの理事会において、自由民主党の長谷川峻君から、日本では初めての列国議会同盟会議が本年の9月に行なわれるのであるから、せめてそれまで職にとどまって、この国際的な行事というものに最後を飾ってもらいたいという、情理かね備わる発言がありましたけれども、やはりそれをも事務総長は、それは新しい後任者が行なうことであって、私のすべき任務でないという、非常にかたい決意でありました。

私もこの決意を伺って、もはや申すべき言葉がありません。国会の役員であることは事実でありますが、鈴木君そのものは事務職員であることは、ごうまつも変わりありません。ただ、その出処進退がまことにあっぱれなことは、私は人間として高くその人を評価し、かつ、30年国会に籍を置き、その人が去っていくときの感慨というものはひとしおなものがあろう、私はこういうことを感じ、この際は、いたずらに彼の功績に執着して引きとめるのみが最善の策ではなかろう、やはりそのりっぱな態度を生かして、進んで辞表を受理すべきである、こういうことを私は理事会において申し上げました。

さらに、理事会における各党の要請であった、列国議会同盟会議において、鈴木君の長い間の経験をどういうふうに生かすか、あるいは本年秋に行なわれる議会制度70周年記念式典の行事とか、そういうものについて、多年の功労者に対して何らかの形をもって報いるためにも、その力をかりるということにしたらどうか、こういう理事会の申し合わせにつきまして、一言この際これを私は申し述べて、これはいかなる形において行なわれるか、正副議長から出されるか、あるいは議院運営委員長からそういうことをお諮りになるか、その順序、方法等につきましてはよくわきまえておりませんけれども、こういう方法をもってその人の力をぜひとも将来の国会運営においてもおかりする、こういうことを一つこの際私は申し上げて、皆さんの御同意を得たいと思うのであります。

○議運委員長 

各党からそれぞれ御意見がございましたが、ただいま池田君から御発言のあった通り、私も議院運営委員長といたしまして、辞意を漏らされた点につきまして、翻意するようにということをしばしば鈴木事務総長に申し上げましたが、その御意思がかたいようでございます。

同時に、それなれば、日本で初めての列国議会同盟会議及び今秋における議会制度70周年記念、この2つの行事だけでも済まして辞任されることにしたらどうかという気持も私から申し上げましたところが、御本人は、そういう行事こそ新しい事務総長に譲るべきだというようなりっぱな御精神でありまして、私どもほんとうに感激したような次第でございます。従いまして、各党の御意見にありました通り、この際鈴木事務総長の辞任を許可することとして、本日の本会議においてこれを決定することにしたいと思いますが、御異議ございませんか。

   〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕

○議運委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決定いたしました。

   (中略)

○鈴木前事務総長 

一言ごあいさつ申し上げます。このたび一身上の都合によりまして辞職いたしたい旨願い出ましたとろ、皆様方のお許しを得まして、ここに退任いたすことに相なりました。思えば、約29年余にわたりまして私はこの国会にはぐくまれたわけでございます。いわば人生上におけるわが生家でもあり、また、人間完成への神聖なる修練場とも考えております。

今その住みなれた生家を去るにあたりまして、万感こもごも起こりまして、とうてい言葉には言い尽くせないのでございますが、ただ浮かんで参りますことは、歴代の正副議長並びに歴代の委員長様方はもちろんでございますけれども、特に当委員会の皆様方にあたたかい御指導と御厚情をいただきましたその温情が、どうしても忘れられないのであります。

私は不徳浅才の者でありますが、今日まで事務総長の職責を果たし得たのは、皆様方のあたたかい心の底からの御支援があったからと考えおります。ほんとうに御無理を申し上げたり、御迷惑をおかけしたり、全く御期待に反することのみでございまして、皆様方のあたたかい御厚情の万一にも報いることなく退職いたしますことは、私としてもまことに残念に考えております。しかし、今回の私の辞任につきましては、最後の最後まで皆様にわがままを申し上げ、それにもかかわらず、あたたかい御温情によりまして、どうやら円満裏に退任することができましたことを深く感謝いたすとともに、日ごろの私の在職中のふなれないろいろの点について深くおわびを申し上げる次第でございます。今後ともどうぞよろしく御指導をお願いいたします。(拍手)

○議運委員長 

この際、皆様のお許しを得まして、本委員会を代表して、鈴木前事務総長に一言ごあいさつを申し上げたいと思います。お許しを願います。

鈴木さんは、このたび事務総長の職をお去りになることになりました。顧みますると、お話がございましたように、約30年の長きにわたりまして本院に奉職せられておりました。ただいまお話のように、これが人生生活の大部分であったと申されまする考えは、私ども深く同感をいたす次第で、そのお心をくむ次第でございます。

鈴木さんが、事務総長として、その豊かな学識と円満なる人格、加うるに強い信念をもって国会運営の事務的責任者として軟掌せられまして、国会運営につきましてよりよき慣行の樹立に挺身せられました御苦心につきましては、心から敬意を表し、功績をたたえるものでございます。ことに最近における国会の運営状況、そのまっただ中におきましていろいろと苦心のあったことをお察しいたしまして、今去られるについての御心情は、拝察するに余りあることと思います。

近く行なわれる列国議会同盟会議あるいは議会制度70周年記念を目の前にして今去られることは、まことに惜しいのでありまして、いましばらくと考えるのでありますが、あなたの決心の容易ならざることを知りまして、ただ惜しんでお送りする次第であります。

どうか今後とも自重加餐の上、御健康に留意せられまして、ますます御発展あらんことを念願いたしまして、一同を代表して、重ねて長年にわたるあなたの功績に対しまして深甚なる敬意を表する次第でございます。(拍手)
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