しろかねの ふらここを吊り なよたけの 樹下に遊べる 月の戸の夢
*昨日が男を詠う雄々しい歌だったので、今日は女性のために詠う歌にしましょう。
「なよたけ」とは、「なよ竹のかぐや姫」の略です。説明する必要はないでしょうが、竹取の翁が竹林で見つけた美しい姫だからこういうのです。「なよ竹」とは、しなやかな竹のこと。なよやかで麗しい姫に添えるのにふさわしい言葉ですね。だれのことをさしているかは、わかるでしょう。
銀のブランコを吊り、かぐや姫が、樹下で遊んでいる。そんな夢を見ている人が、月の岩戸の中にいる。
かぐや姫は月の都から来た姫でした。美しいこの姫を手に入れるために、たくさんの男が求婚してきた。かぐや姫は困ってしまい、婉曲に断る意味も含んで、それぞれの男に試練を与えた。わたしの心が欲しいのなら、これだけの誠を見せてほしいと。
だが、彼女の前に、男の誠を見せることができた男はいなかった。
やがてかぐや姫は、月の都から来た迎えのものに連れられて、故郷の月に帰っていくのです。
本当に、誰かのことをそのまま言っているような話だ。
かのじょの歌に、こういうのがありましたね。
なよたけの うれひの月を かきおとし 人の世を堪ふ 頼りともせむ
あのかぐや姫が見て憂えたという月を、かき落とし、この人の世を生きて耐えていくための、頼りとしよう。
あの人にとっては、この世界は生きることがとても難しい世界だったのです。嫌になるほど求婚者が多かったが、彼らは求婚をするどころではない。自分のいうことを聞かないというだけで、みんなでかのじょを殺そうとするのだ。
故郷の月が降りてきてそばにいてくれなければ、堪えられないと思うほど、つらかったのです。
だがそれももう終わった。なよたけの魂は月の岩戸に隠れ、眠りながら、銀のブランコで遊ぶ夢を見ている。故郷から迎えが来たのです。
もう苦しまなくていい。あなたは休んでいなさいと、言ってくれる友達が、やっと来てくれたのです。