日々雑感

最近よく寝るが、寝ると言っても熟睡しているわけではない。最近の趣味はその間頭に浮かぶことを文章にまとめることである。

自衛隊の文民統制を稲田氏は行えるのか

2016年09月07日 09時44分48秒 | 日々雑感
 防衛省は、昨年10月、改正防衛省設置法に基づいて背広組(内局、キャリア官僚)が担う運用企画局を廃止し、制服組(幹部自衛官)中心の統合幕僚監部に権限を大幅に移す組織改編をした。すなわち、部隊運用に関わる計画の策定には、制服組の権限が格段に大きくなったとのことである。元防衛事務次官(背広組トップ)の守屋武昌氏は、これにより文民統制の仕組みが取り払われてしまったことを懸念すると表明した(9月1日、朝日新聞、オピニオン)。

 防衛省によれば、今回の改正の目的は、「政策的見地からの大臣補佐と軍事専門的見地からの大臣補佐の調整・吻合」にあり、これにより”防衛大臣によるシビリアンコントロールを確固たるものとする”ことができるようになった、とされている。つまり、これまで高い軍事専門的見地を持つ制服組による大臣補佐業務が、背広組によって阻害されており、結果として防衛大臣によるシビリアンコントロールが機能しにくくなっているとの理屈付けであり、守屋氏の意見とは真反対である。

 民主的な選挙によって選ばれた文民である総理大臣が、実質軍隊の自衛隊を指揮することによって実現されるシビリアンコントロール(文民統制)とは別に、防衛省内部に文官統制の制度があったが、それを象徴するのが「防衛参事官制度」だ。1954年の自衛隊創設とともにできた防衛庁設置法で規定され、重大事項は防衛参事官(そのトップが防衛事務次官)という局長級以上の官僚だけで構成する会議で最終的に決め、防衛大臣を助言・補佐する仕組みだ。実力部隊である自衛隊が政治に関与しないよう防衛官僚がその間に入り「安全弁」の役割を担ってきたと言う訳だ。守屋氏の指摘はこの安全弁が取り払われたとの主張であろう。

 最近、尖閣諸島を巡り、中国とのつばぜり合いが頻繁である。まさかに備え自衛隊がどう行動すべきか、内部で活発な議論が行われているに違いない。当然背広組と制服組との間では、見解の違いがあるはずだ。この件に限らないが、日頃制服組の意見が国に届かないとの反発が背景にあったのであろう。

 防衛庁・自衛隊発足の当時の内局は戦争を経験して軍事的な知見がある文官で構成されていたから、自衛官にも説得力をもって対応できた。しかし、時代が進むと、戦争の悲惨さ、軍隊の実態を知らないのに、先輩たちを形だけ真似て威張る文官も現れてきた。自衛隊の現場を知ることが文民統制の大前提であるが、文官がその努力を怠ってしまい、国会議員を含む文民が自衛官の任務遂行のために働こうとしなかったとの、守屋氏の指摘だ。

 このような「文官統制」のあり方に異議を唱えたのは制服組だった。背広組に対する不信感である。

 さて、今回稲田朋美新防衛相が誕生した。稲田氏は政治家にしてはおしゃれな美人と有名であるが、防衛相としてどれくらいの認識があるのであろうか。

 稲田氏は、8月23日、神奈川県横須賀市の海上自衛隊の基地を視察した。昨年就役した海自最大の護衛艦「いずも」や潜水艦「こくりゅう」で隊員らに訓示したのだが、艦内をマリンルック風のスーツにヒールのある靴で歩き回ったとのことで、自衛官らは眉をひそめたことであろう。自衛官は常に緊張感の中にいる筈だが、このような雰囲気の中、リゾートファッションで視察するとは、制服組の不信感を増長するだけである。

 稲田氏は右翼的な言動で有名であるが、その言動も単なる人気取りと思われても仕方ない。自衛隊のトップがこんな有様では、部下である自衛官は率直に言うことを聞くはずがない。

 中谷元前防衛省は制服組の権限拡大について、”文民たる自分が防衛相を務めることで文民統制は保たれる”と記者団の質問に答えているが、稲田氏にこの資格はあるのであろうか。2016.09.07(犬賀 大好-266)

コメントを投稿