で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2221回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『AIR/エア』
1984年、二流メーカーのナイキが、伝説のシューズ“エア ジョーダン”を生むまでの実話ドラマ。
主演は、マット・デイモン。
共演は、ベン・アフレック、ジェイソン・ベイトマン、ヴィオラ・デイヴィス、クリス・タッカー。
監督は、ベン・アフレック。
物語。
1984年アメリカ。
ナイキは、ジョギングシューズで業界を席捲したが、人気のバスケなどでは人気なく、業界一位の米コンバース、二位の独アディダスに水を開けられ、三位で低迷中。
人気選手に履いてもらわなければ躍進は望めない。
宣伝部バスケ部門担当ソニーは、上司にバスケ部門はヤバイから逆転の手を、と言われる。
だが、宣伝費は二社の3分の1、地元ブルズのドラフト3位で期待値は高いが背は高くない二社は二番手狙いのマイケル・ジョーダンさえ口説けない。
CEOフィル・ナイトは、バスケこそ光とバスケ界の目利きソニーも自ら社に招くなど力を入れていたが、株式上場で委縮していた。
期待に応えたいソニーは、無謀としかいえない逆転の手を見つけだす。
脚本:アレックス・コンヴェリー
出演。
マット・デイモン (ソニー・ヴァッカロ)
ベン・アフレック (フィル・ナイト/ナイキ創業者/現CEO)
ジェイソン・ベイトマン (ロブ・ストラッサー/営業部門部長)
クリス・タッカー (ハワード・ホワイト/スポーツ部門部長)
マシュー・マー (ピーター・ムーア/シューズデザイナー)
クリス・メッシーナ (デヴィッド・フォーク/代理人)
ヴィオラ・デイヴィス (デロリス・ジョーダン)
ジュリアス・テノン (ジェームズ・ジョーダン)
デイモン・デラノ・ヤング (マイケル・ジョーダン)
マーロン・ウェイアンズ (ジョージ・ラベリング/全米代表チームコーチ)
ジョエル・グレッチ
グスタフ・スカルスガルド
バルバラ・スコヴァ
ジェシカ・グリーン
ダン・ブカティンスキー
トム・パパ
スタッフ。
製作:デヴィッド・エリソン、ジェシー・シスゴールドョン・ワインバック、ベン・アフレック、マット・デイモン、マディソン・エインリー、ジェフ・ロビノフ、ピーター・グーバー、ジェイソン・マイケル・バーマン
製作総指揮:デイナ・ゴールドバーグ、ドン・グレンジャー、ケヴィン・ハロラン、マイケル・ジョー、ドリュー・ヴィントン、ジョン・グレアム、ピーター・E・ストラウス、ジョーダン・モルド
撮影:ロバート・リチャードソン
プロダクションデザイン:フランソワ・オデュイ
衣装デザイン:チャールズ・アントワネット・ジョーンズ
編集:ウィリアム・ゴールデンバーグ
追加音楽:ポール・ハスリンガー
音楽編集:コリー・ミラノ
音楽スーパーバイザー:アンドレア・フォン・フォレスター
『AIR/エア』を鑑賞。
1984年、二流メーカーのナイキが、かの伝説のシューズを生むまでの実話ドラマ。
84年当時は、ナイキはジョギングシューズのエアソールだけが人気で他のスポーツでは足踏みしており、老舗コンバース、世界トップのアディダスに押されていた。
見る人のほとんどが、歴史の流れを知ってるからこそのシナリオ構成をしており、これが唸らされる。その一つはコメディ要素を多めにしたこと。内容的にはビジネス成功もので、アメリカの池井戸潤系として見られます。しかも、名言連発なんですよ。そして、情報の絞り方がめちゃくちゃ巧み。
この優れた脚本は新人アレックス・コンヴェリーの作。実績が出てこず、プロフィール不明だが、今作ではプロデューサーも務めている。
このシナリオをサスペンスの名手であるベン・アフレックが監督している。4作目にして、盟友マット・デイモンを初めて主演に据えた。
マット・デイモンの普通感が体重増加と中年の役作りで、実力はあるはずなのに上に行けない者たちの悲哀をにじませて、たまりません。なんつっても、ユーモアのセンスが溢れ出ているし、プロフェッショナル感がいいんですよ。相手や画面を見ているシーンのまなざしの丸みのある鋭さがいいんですよ。(『オーシャンズ』シリーズで共演しているブラッド・ピットの『マネーボール』での芝居と並べて見るとその資質の違いがよく見える)
しかも、ベン・アフレックはナイキ創業者フィル・ナイト役で出演もして、さらにコメディ部分も担当している。ベン・アフレックは出てくるだけでちょっと笑っちゃうほど、いい設定をしております。でも、CEOなので味方であり敵でもあるあるのがいいのよね。そこにジェイソン・ベイトマントクリス・タッカーとマシュー・マーとのチームものになっていく、キャラを短いエピソードで印象的に見せていくのがうまい。彼らによる会議シーンとプレゼンシーンが今作の見せどころで、会議と実際のプレゼンのあるある満載でめちゃくちゃ面白いんですよ。あー、あんな作戦会議したい。成功すると知らなくても。
敵が数人用視されていますが、その中で、素晴らしい芝居で場を支配するのが母親ヴィオラ・デイヴィス。この無言のまなざしの芝居は最強です。
これは、目、まなざしについての物語なのよね。
マット・デイモンの細い眼、ヴィオラ・デイヴィスとクリス・タッカーのあのクリクリ眼、べン・アフレックの睨み、ジェイソン・ベイツマンの柔らかい視線が効いてます。
思わず、登場人物が何履いてるか画面で靴が映ると見ちゃいますし、劇場が明るくなった後、お客さんの靴に目が行く。ベン・アフレックの演出も目の位置に配慮している。
ソファの使い方に注目。
スポーツものではないので、スポーツシーンはほんのわずかなのは当然ですが、実は靴もそこまで出てこないです。一番映るのは80年代の情景です。実際の映像を出しまくりで、それが実は、これがこの映画のあるしかけのフリで、そこはかなりグッときますぜ。
あと、当時の音楽がかかりまくります。映像と音楽で知らなくてもタイムトラベルできます。
何より、この映画は決断の映画になっている。
リスク回避や現況、正論、常識はよくわかるが、そこを超えて、歴史を変えていくとはどういう決断が行われたのかと感じさせてくれる。観客は歴史を知っているが、実際の人物たちは知らなかったのだから。
だから、人を動かすこと、つまり感動とはどういうことかを描き出す物語でもある。
何が人を飛ばせるのかの翼作。
おまけ。
原題は、『AIR』。
『空気』。
他に、『AIR/エアー』(2015)という邦題の映画が ある。
2023年の作品。
製作国:アメリカ
上映時間:112分
映倫:G
配給:ワーナー・ブラザース映画
ややネタバレ。
当時も、シューズ社では、チャンピオン(ヘインズの子会社)、プーマなども有力だった。
プーマは、アディダスから喧嘩別れした会社で、劇中でも名前は出てきます。
アシックスは1977年にオニツカタイガーから1977年に社名変更。
ナイキは、1968年にオニツカタイガーのアメリカにおける輸入総代理店・販売代理店「BRS(ブルー・リボン・スポーツ)」として、鬼塚喜八郎と50ドルで契約したフィル・ナイトとビル・バウワーマン(体育学者でコーチだった。コルテッツを発案)によって設立された会社。
シューズづくりもオニツカタイガーから学び、1971年にオニツカタイガーの販売契約終了に合わせて、日商岩井の支援を受け、オニツカタイガーの技術者引抜き、オニツカタイガーの競合社のアサヒシューズ(当時は日本ゴム)と提携するなどして、シューズメーカーのナイキを立ち上げた。
70年代から宣伝に力を入れ、業界に旋風を起こす。
バスケシューズのエア・ジョーダンの成功の後、得意のジョギングシューズでも大ヒットを出す。それが1987年に発売されたエアマックス。透けたソールは、誰が履くではなく、スニーカーのデザインで革命を起こした。(デザイナーはティンカー・ハットフィールド)
ネタバレ。
好みのセリフ。
「靴は靴に過ぎない。誰が履くかで価値が決まる。(A shoe is just a shoe until someone steps into.)」
「たどり着くのが目的じゃない。走ることが目的なんだ」
「自分のためでなく、人々のために判断してくれ」
「自分たちは歴史に残らないが、歴史に残る仕事をしよう」「(フィル・ナイトが)俺は残るだろ。それぐらいの実績はあるぞ」
「自分を許してるんだ」「なんのことで?」「自分がした決断の影響の重さについて」
『タイム・アフター・タイム』が流れていることで、シーンの長さが分かる。
あのサビが流れるまでドラマが流れるのが分かる。
この予測のつくり方は時間芸術の語りの技。
ソニーのスピーチ内で、未来を見せる編集がすごい。
実話だからこその実際の映像や画僧や事件で見せることが出来る。
エアの名は、エアソールは、ナイキの技術でもあったことと、マイケル・ジョーダンのニックネームがもともと“エア”であったことから。
デヴィッド・フォークがジョークとして「エア・マイケル・ジョーダン」と言ったのは、そのことからだろう。
エア・ジョーダンのデザイン自体はもともとあるエアソールのバスケシューズを変更したものなので、あの期間で提示することが出来たともいえる。
実際には、その後、修正しているのだろうけど。
エア・ジョーダンは、バスケでの人気の後、その機能性からスケートボード用として人気が出たことで、スポーツ専門シューズではなく、ストリート用、普段使いに広がっていったという経緯もある。
ジャンプマンのロゴは、エア・ジョーダン3から採用された。
マイケル・ジョーダンのナイキのためのポスター用の撮影で撮られた写真のポーズからデザインされたもの。
いまや、マイケル・ジョーダンやスニカーのデザインを飛び越え、バスケそのものを代表するデザインになっている。
まなざしの演出がいいのよね。
上下を見たり、視線の交差をさせたり、目の位置関係に配慮しています。
フィルが下の階のピーターを見ていたり、ソニーも登場がバスケを見ていて、家でも同時に二つの画面を見ていたり、ジョーダンパパも下を向いて登場するし、フィルが返事を持ってくるのを待つときも階段を見つめる。
階段とソファをモチーフにしていて、ピーターの最後のシーンも階段に座っている。
メインキャラ全員のその後をすべて字幕で語るベタな語りの中に、実はテーマを隠している。
劇中で言っていた俺たちは歴史に残らないと言っていたが、彼らは歴史に残るほどの仕事を成し遂げていく。
誰だって最初から偉大じゃない、その時の決断、行動が偉大にしていくんだ、と。
現実には、ロブ・ストラッサーがプロジェクトを牽引していたそうで、ノースキャロライナに会いに行ったのも彼だそう。
なにしろ、ソニーはこの後、クビになっているし。
ナイキの正式許諾は撮れてないが、ナイキ内部では、まぁこれはフィクションだからということで問題にしてないそう。
ただ、もっとピーター・アーツの功績は描かれるべきだったという意見はあるんだとか。