で、ロードショーでは、どうでしょう? 第166回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『アイスバーグ!』
ベルギー出身の道化師カップル、アベル&ゴードン監督・主演による記念すべき長編映画第1作。
ひょんなことから、氷への愛に目覚めた主婦が、氷山(アイスバーグ)を目指して旅に出る。
愛してるはずの妻を夫は追いかけるが、妻は氷山へt歩連れて行ってくれる船長と恋仲のなってしまう。
まさに、ベルギー産のジャック・タチ・スタイルのスラップスティック・コメディ。
スタイル自体がすでに60年代風、しかも、長編第2作『ルンバ!』と同時上映というこれもまた懐かしい感じで、実にいい。
時代を超越したかのようなスタイルでありながら、その中に潜むテーマは実は夫婦の愛の距離感という現代的テーマが潜んでいる。
いや、夫婦の問題てのはもしかしたら、ずっとこうだったのかしらと吸えら燃えるほどの超越性なんだ。
ある映画誌では、ジャック・タチ・ミーツ・ウェス・アンダーソンと評されたそう。
出演と監督と脚本も、ドミニク・アベルとフィオナ・ゴードンとブルーノ・ロミの3人。(キャストはほかにも出てますがね。特に船長役のルーシー・トゥルガリュクは素晴らしい)
撮影のセバスティアン・コーペルの古いテクニックをすんなりなじませる技術もなかなか。
コマ落としや、スクリーン・プロセスとかをここまでまるで定番のように使いこなせる方はなかなかいませんよ。
リアリティをこえて、演じる者と観る者の壁打ちテニスのような強固な関係が築かれていくのを感じずにいられない。
肉体の造形の素晴らしさは、生きる人形のようでさえある。
現実的でありながら、虚構に昇華させちまってる。
フレッド・アステアを引き伸ばしたような手足の長さのカップルなんですから。
ポパイとオリーブに並び立つベストカップルですよ。
しかも、実は、二人とも、50歳過ぎているそう。
そしてね、映画として数少ないスクリーンの外枠を映画にとりこんでいるのは、稀有な発見ですよ。
日本だと好み別れるとこですが、欧州の北と東特有の突き放したユーモアがたまりません。
氷山に向かう船の名前が、タイタニックⅡですからね。
こんな確実で不幸な運命を持つ船で。
あと、けっこう下ネタが自然にぽこぽこ出てきて、これは初めての感覚です。
これは、道化師が、映画という大道に紛れ込んで、芸を見せているという状態なんじゃないか?
映画という世界の物理の上で、彼らなりに、物理を遊んで、アクロバティックでユーモラスで、悲劇的で幻想的なコメディを紡いでしまったんじゃないのかしら。
実際、この二人が映画をやるために映画会社をつくったのよね。
そのうえで、道化師が作る映画を標榜して、制作しつづけているんだそう。
それって、映画黎明期の時と同じことをもう一度やってるともいえるわけだ。
これは、映画のルネッサンスなのだ。
映画の駄菓子感、見世物感、その上で新たな熟練を獲得したような不思議な感覚です。
この映画、映画館というよりもテントとかで、実物のジョーとかをはさみながら、観たいぞ。