【俺は好きなんだよ】第1319回は、『サザン・コンフォート/ブラボー小隊 恐怖の脱出』(1981)
原題は、『SOUTHERN COMFORT』。
劇場公開題『サザン・コンフォート』。
TV放映題は、『ブラボー小隊・恐怖の脱出』。
ビデオソフト題は、『ダーティアーミー/対決!悪魔のカルト集団』。
COMFORTは「快適さ」「慰め」「安心感」「安らぎ」などの意味。
『SOUTHERN COMFORT』は『南方の安らぎ』という感じ。
強烈な皮肉。
上映時間: 106分
製作国: アメリカ
スタッフ。
監督: ウォルター・ヒル
製作: デヴィッド・ガイラー
製作総指揮: ウィリアム・J・イマーマン
脚本: デヴィッド・ガイラー、ウォルター・ヒル、マイケル・ケーン
撮影: アンドリュー・ラズロ
音楽: ライ・クーダー
出演。
キース・キャラダイン (スペンサー)
パワーズ・ブース (チャールズ・ハーディン)
アラン・オートリー (ボーデン)
フレッド・ウォード (ロニー・リース)
ブライオン・ジェームズ (ケイジャンの密猟者)
ピーター・コヨーテ (クロフォード・プール)
フランクリン・シールズ (シムズ)
T・K・カーター (タイロン・クリブス)
ルイス・スミス (スタッキー)
レス・ラノム (キャスパー副長)
ソニー・ランダム (ハンター)
物語。
1973年、ルイジアナ。
いつものように週末の演習を行う州兵たちは、小隊に分かれ、湿地帯行軍を行っていた。
経路上に現れた新しい池に道を阻まれたブラボー小隊の一行は、河に置かれていたケイジャンのカヌーを無断で使用してしまう。
池に漕ぎ出した時、ケイジャンたちが水辺で騒ぎ出す。カヌーの持ち主だ。
ブラボー小隊の面々は理由を説明しようとするが、話が通じない。険悪な空気が漂い始める。
その時、兵士の一人が最悪の行動をとってしまう。
訓練中、湿地帯に迷い込んだルイジアナ州兵の一分隊が些細な出来事から恐怖に巻き込まれる軍事アクション。
『ロング・ライダーズ』と『48時間』の間という、ウォルター・ヒルの絶頂期に作られた作品だが、日本では劇場未公開だった。
本国では、かなり高い評価を得ているのも納得の非常に凝った作りでホラー的でありながら、そのジャンルの手法で語らないウォルター・ヒルの話法によって、一般人でもある州兵をアメリカ国内で戦争状態に陥らせる。
音と編集の繰り返しによる独特の恐怖表現とサスペンス話法による緊張感が素晴らしい。
ながらく日本では幻の作品だったが、DVDが発売され、ようやく見ることができた。
元にしたフィルムの状態が悪かったのか、汚れや傷が目立つが、そのザラザラ感がまた恐怖の醸成に一役買っていたりもする。
ケイジャン(Cajun)とは、18世紀以前にアメリカに移住したフランス系住民のうち、ルイジアナ州に住み着いた人々のこと。
州兵は、民兵としてミリティア(民警団)を期限している民衛兵。予備役なので別の仕事もしている兼業兵士がほとんど。
80年代の映画だが、森の南部の狂気とアメリカが抱えてしまった外敵への恐怖やベトナム戦争から撤退の年である1973年という設定であることが大きな意味を持っている。
しかも、公民権成立後の黒人差別への抵抗運動(ブラックパンサー党も広く活動していた)がいまだ尾を引いており、アメリカには外にも内にも大きな敵を抱えている状態にあった。(一応、この後、ベトナム戦争後に一度は沈静化する)
アメリカの正義は地に落ちまくっている末期の状態にあった。
今作ではアメリカ国内での州兵の小隊規模の訓練で、ベトナム的な森の中で、内部にいる言葉の通じないケイジャンと対峙するという、アメリカが抱えてしまった外と内の恐怖を具現化している。
ベトナムにはフランスの植民地だったしね。(『地獄の黙示録』(完全版)でもフランスのプランテーションのシーンがあった)
数時間歩けば出れるはずの森から出ることが出来ない。それはアメリカの状態にそのまま呼応してる。
これに気づかないとバカ兵士集団の話に見える人もいるだろう。
ややネタバレ。
話の大筋は、ジョン・ブアマンの『脱出』に似ている部分がある。
ネタバレ。
リーダーの死、頼りない代理リーダーへの不信もまたそのアメリカの状況を示している。
加えて、南部的なマジックリアリズムが使われ、動物と自分たちが重ねられていく。
川また水を渡ることは別の世界へ行くサインだ。
うさぎの死骸は道案内を失ったことも示す。
見えない敵、罠、湿気と沼地と森、死体や怪我した兵を連れて帰るアメリカ軍のルールがあり、ベトナムではそれがアメリカ軍の首を絞めもした。
軍曹の死体を運ぶ彼らは、まさにベトナムにいる。
しかも、小隊内部でも疑念が渦巻き、信用できない状態に陥っている。底なし沼でもがいている。
彼らは、疑心暗鬼で八方塞がりのアメリカそのものの中にいるのだ。
そして、墓穴を掘り続ける。
西部時代から縄張りの意識はかなり強いアメリカで、逆にアメリカ内でアメリカ内で侵入者だと言われる逆転、これは恐ろしいだろうな。
見えない敵に翻弄される今作から、『プレデター』(1987)は、影響を受けている可能性はある。
ボーデンの首吊り死体はオマージュしてる気はするね。
独特の恐怖表現は、戦争映画的な死の後の静けさを恐怖の醸成に用いたこと。
死んでいく孤独が強調されている。
攻撃におけるスローモーションが死を意識させる。それにより、音が切り離され、強調される。
孤独と連帯を描いてきたウォルター・ヒルならではの物語、今作では反転していて、興味深い。
列車を見つけ、村に入ってから、特にダンスシーンの緊張感はすさまじい。
村のシーンの西部劇感はベトナムから開拓時代、ベトナム戦争映画から西部劇へと移っていくのだ。
『ロングライダーズ』から『サザン・コンフォート』を経て、『48時間』に至るのはアメリカ史が貫かれているともいえる。
最後のアメリカの★は、アメリカ映画で星条旗を映すラストの変形なのだろうか。
アメリカよ、と訴えるメッセージカットとしての。