【俺は好きなんだよ】第1091回は、『インビジブル・ゲスト 悪魔の証明』(2016)
原題は、『CONTRATIEMPO』。
『事故』、『挫折』、『災厄』。
英語題は、『THE INVISIBLE GUEST』。
『目に見えない客』。
日本題の副題の【悪魔の証明】とは、存在しない事実の証明。法律用語で「困難な証明」を意味する。
上映時間: 106分
製作国: スペイン
スタッフ。
監督: オリオル・パウロ
製作: ミケル・レハルサ、エネコ・リサラガ・アラティベル、メルセデス・ガメロ
脚本: オリオル・パウロ
撮影: シャビ・ヒメネス
美術:エバ・トーレス
衣装デザイン:ミゲル・セルベラ
メイクアップ&ヘアー:ルベン・マルモル
編集: ジャウマ・マルティ
音楽: フェルナンド・ベラスケス
出演:
マリオ・カサス (アドリアン・ドリア)
バルバラ・レニー (ローラ・ヴィダル)
アナ・ワヘネル (ビルジニア・グッドマン)
ホセ・コロナド (トマス・ガリード)
イニーゴ・ガステシ (ダニエル・ガリード)
フランセスク・オレーリャ (レイバ弁護士)
パコ・トウス (コンダクター=運転手)
デビッド・セルバス (ブルーノ)
物語。
愛人の殺人容疑で起訴され、保釈中の実業家ドリアのもとに、敏腕弁護人グッドマンが訪ねてくる。彼女は、この密室で起こった殺人を無罪にするために、ドリアの顧問弁護士から託されていた。
彼女は、ドリアに、新証人が見つかり、突然、3時間後に法廷が開かれるという事態に対応せざる得ない状況になったため、部屋を訪れたのだ。
この短時間で、事件の再検証を進めるため、彼女はドリアにもう一度すべて、まだは話していないある秘密についても話すようにある新聞記事を見せて迫る。
実は、ドリアは不倫相手ローラとの密会中に、ある事故を起こしていた。
密室殺人の容疑者とその弁護人が「悪魔の証明」(=存在しない事実の証明)を成し遂げて無罪を勝ち取ろうとする姿を描いたスペイン製サスペンス。
『ロスト・ボディ』のオリオル・パウロが監督・脚本を手掛けた。
ミステリー好きならまず密室殺人の謎から始まり、事故、隠蔽と3つの謎に挑める楽しさがある上、謎解き映画としての映像の語りの面白さを楽しめる、しかも、真実と嘘を巡る心理サスペンスに加えて、愛情と人間性についての駆け引きの面白さもあるという強引な部分もエンターテインメントしている傑作。
「シネ・エスパニョーラ2017」上映作品。
受賞歴。
2017年のポートランド国際映画祭にて、PAfter Dark Sidebarの観客賞を、受賞。
2018年のYoga Awardsにて、最悪のスペイン映画賞を、受賞。
最上のミステリー・サスペンス。
密室殺人で愛人を殺したとされる実業家が闇の弁護士と挑む謎解きと無罪作りのスペイン映画。
ミステリーの常道をぶち壊しながら展開していくノンストップな物語づくりの物語。
ここまで語りの二転三転だけで見せきる映画は、そうは出会えません。途中で仕掛けが分かった人も楽しめるという二重の面白味さえある。
知る人ぞ知るスペインの傑作ホラー・サスペンス『ロスト・ボディ』の脚本家が仕掛ける映画ならではの極上の騙されの快楽。
(この2作につながりはないですが、『ロスト・ボディ』を先に見ると今作で作家と知恵比べが出来て楽しめます)
ややネタバレ。
実は、このクレジットにもヒントがあったりして。
ネタバレ。
水平思考は、物語をつくるとき、普通に使う考え方。つまり。今作は、物語づくりについての映画でもある。
嘘をいかに本当だと信じ込ませるか、という視点は演出にあたるので、映画演出についての映画でもある。
まず真実、次に作り話の順に映像化していることが重要。
これは、通常のミステリーの逆。だが、『刑事コロンボ』などのハウダニット系ではこの順番で語られる。しかし、作り話部分は映像化しないことが多い。これは、『メメント』でも高度にやっていた。
今作では、さらにその作り話が真実だったと明かした上、今まで話していた話しもローラの性格も作り話だ、と突きつける。
作り話をつくるために真実という名の作り話を聞き、そこから作ったつくり話が真実かと思ったら、それ自体が作り話であると真実を暴かれる。
殺人事件自体が罪滅ぼしによる告白から始まって、それが果たせなったことが仕掛けになっている。
最初と最後の円環構成も映画的で好み。
新証人は誰? も謎にしていることで引きつづけている。
だが、レイバは目撃者の運転手を買収しようと動いていたので、先に検察に目撃者が見つかったと思っている。だから、ドリアとレイバは新証人は目撃者の運転手だと推測している。
アナ・ワヘネルが、ヴァージニア・グッドマンのふりをしてる妻のガルード(名雨の表記が見当たらず)を、本物のビルジニア・グッドマンは、ブランカ・マルティネスが演じている。
実際に名女優であるアナ・ワヘルなので、逆に妻を演じている時に変装をしてばれないようにしているが、スペイン人で見慣れていると分かるのかもしれない。
もしかしたら妻による偽装ではないかというのは、記者として父が現れたあたりで推測がつくが、ついても、バレないようにガンバレという気持ちでも見ていられるのがよい。
アナ・ワヘネルの見せ場が少ないのも、読みを働かせてしまうのかもしれない。
密室殺人のネタのベタさなど、実はいろいろとネタ自体は組み合わせなのだが、そこを映画的に語りでベタであること自体が仕掛けになっていて、どんでん返しに使っているのがよいのよね。
好みの台詞。
「判決は変えられても、人は変えられない」