で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2194回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ボーンズ アンド オール』
生人肉喰いの衝動を抑えられない孤独な少女が同族と出会っていくホラー・サスペンス・ロマンス・ドラマ。
カミーユ・デアンジェリスの同名小説を映画化。
出演は、『君の名前で僕を呼んで』ティモシー・シャラメ、『WAVES/ウェイブス』のテイラー・ラッセル、『ブリッジ・オブ・スパイ』のマーク・ライランス。
監督は、『サスペリア』(2018)、『君の名前で僕を呼んで」のルカ・グァダニーノ。
物語。
80年代アメリカ、引っ越してきたばかりのマレンは18才の誕生日を迎えた。
そこで、学校の友達が夜のパーティに招待してくれた。
だが、彼女は非常に厳しい父親に学校以外の一人での外出を禁じられていた。
そこで、夜黙って外出し、パーティニ参加したマレンだったが、彼女はそこで友達の指に噛み付き、食べてしまう。
原作:カミーユ・デアンジェリス 『ボーンズ・アンド・オール』(早川書房刊)
脚本:デヴィッド・カイガニック
出演。
テイラー・ラッセル (マレン)
ティモシー・シャラメ (リー)
マーク・ライランス (サリー)
アンドレ・ホランド (父)
ジェシカ・ハーパー (バーバラ・カーンズ)
クロエ・セヴィニー (ジャネル)
マイケル・スタールバーグ (ジェイク)
デヴィッド・ゴードン・グリーン (ブラッド)
ジェイク・ホロウィッツ (ブースマン)
ケンドル・コフェイ (シェリー)
スタッフ。
製作:ピーター・スピアーズ、ティモシー・シャラメ、フランチェスコ・メルツィ・デリル、ロレンツォ・ミエーリ、ガブリエーレ・モラッティ、テレサ・パーク、マルコ・モラビート、デヴィッド・カイガニック、ルカ・グァダニーノ
製作総指揮:ジョナサン・モンテペア、モレーノ・ザーニ、マルコ・コロンボ、ジョヴァンニ・コッラード、ラファエラ・ヴィスカルディ
撮影:アルセニ・カチャトゥラン
衣装:ジュリア・ピエルサンティ
編集:マルコ・コスタ
音楽:トレント・レズナー、アッティカス・ロス
音楽監修:ロビン・アーダング
『ボーンズ アンド オール』を鑑賞。
80年代アメリカ、生人肉喰いの衝動に囚われた孤独少女が同族と出会うホラー・サスペンス・ロマンス・ドラマ。
2015年発行のカミーユ・デアンジェリスによるYA小説の映画化。
そりゃあR18+でしょうね、って感じのリアル人喰いシーンに、まさかの切なさのドレッシングをかけられている。
テイストはもはやサブジャンルである、アメリカンクライム逃亡ロードムービー。これをホラーを加える。『RAW~少女のめざめ~』よりも、ちょっと、吸血鬼ロードムービー『ニア・ダーク/月夜の出来事』と『トワイライト』を思い出したよね。そうこれ、吸血鬼ものの変奏なのですわ。つまり、ホラー・サスペンス・アメリカンクライム逃亡ロードムービー・ロマンス・ドラマ。
一応、描写とある展開とマイノリティの誇張表現にしているので。
この特異な設定ゆえに、フィクションの想像力の力ならではの感覚を味わえるのが魅力。特にホラーの楽しみってこういうとこ。現実のモラルと虚構のモラルの衝突。
私は人と違うという苦しみと衝動、そうでなくても生きられる可能性とそれを阻むもの、そして、罪。つまり、ボーン・アンド・オール(骨ごと丸ごと)。
まっすぐ伸びていく螺旋的な脚本は、結局、ストレートなのに、なんだかヘンテコ。
これに一級の演出、撮影、美術、芝居で、アートに。がっつり娯楽とふわっとアートの融合。これぞ組み合わせの妙。
『サスペリア』のリメイクも手掛けたルカ・グァダニーノが『君の名前で僕を呼んで』に続きティモシー・シャラメと再タッグ。
ティモシー・シャラメの硬軟の高野豆腐メンタルなクラシカルな不良像が逆に新鮮だったり。細いジェームズ・ディーンってとこです。実際の主役は『WAVES/ウェイブス』のテイラー・ラッセルの自分の本性、肉と愛に飢えた少女を野生的肢体としっとりと体現。でも、映画全体を支配しちゃうのはわずか撫で版d音全部かっさらう『ブリッジ・オブ・スパイ』のマーク・ライランスの入り込み。
今作の強みは、出てくる主要人物の誰もが強くないこと。
少しずつ変わるアメリカ田舎巡りの風景の美しさ。撮影の『陽のあたる町』などのアルセニ・カチャトゥランはNY出身の方で2017年デビューの若手ですが、グローバルな活躍をしている期待の新鋭で、艶やかな画面をつくります、光のタッチとフルサイズとアップの切り取り方に抒情がある。
そこに、音楽のトレント・レズナー&アッティカス・ロスで、とがった懐かしさで対位的なのに滑らか滑り込んでくるから、たまらんちんです。
退廃的ながら未来へと続く孤独。内容的には『ラビング 愛という名前のふたり』を思い出したり。
神を恨むような、運命を憎むような、そんな二人が罪を隠して慎ましやかに暮らしていけば……、それでも……。と三点リーダーが多くなる。
画面で踊る対比。キスと噛み付き、中にある物がはみ出ている感じが染み入る、沁み通る。
そうだよ、人は生き物を食べて、人を食い物にして、生きているんだよなぁ、の誇張表現。
逆にヴィーガン増えそう。
骨まで愛せるかと問う蠅作。
おまけ。
原題は、『BONES AND ALL』。
『骨ごと丸ごと』。
2022年の作品。
製作国:イタリア / アメリカ
上映時間:131分
映倫:R18+
配給:ワーナー・ブラザース映画
受賞歴。
2022年のヴェネツィア国際映画祭にて、マルチェロ・マストロヤンニ賞【最優秀若手俳優賞】(テイラー・ラッセル)、銀獅子賞【最優秀監督賞】(ルカ・グァダーニ)を受賞。
2022年のラスベガス批評家賞にて、Sierra Award最優秀脚色賞(デヴィッド・カイガニック)を受賞。
ややネタバレ。
吸血鬼ラブロマンス『トワイライト』→シンデレラSMラブロマンス『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の流れを思い出したよね。
カミーユ・デアンジェリスは、菜食主義者だそう。
原作では、マレンによる人喰い描写がない。(主観語りなので人喰い中は狂気になっているので意識がないので知らない)
ネタバレ。
最後、マレンが逃げ切るようにしたのが、一つの表現になっている、。
『ニア・ダーク』はそういう点で、評価されるのが時間かかったから。
これまで、女性的な視点や思想による構成や描写、作劇そのものが、女性的という言葉でどことなく下とされてきた。
社会の変化で、フィクションにおいては、こういうささやかなレベルで変化の影響が出ていくのだ。
男女の格差がもっとうまく均されていけば、そこで弾かれていた多様なものがもっともっと受け入れられていくのだと思う。
メイキングを見ると、メインのカメラオペレーターはBianca Buttiという女性の方ですね。『Bedroom Story』(2020)などで撮影監督もしているようです。
今作は、海外のポスターにデザインがとてもよいものがある。
特に、二人を影にして見せているものには、作品尾意図も込められているのが見える。
日本版は、明るくして、シャラメの方、見る目的に光を当てていて、意図を薄くしている。もちろん、日本の映画ビジネスで考えたら、そちらでないと客が見えてこないのだろうが。
マレンの母は、人を喰わないことで苦しくなり、家族を捨てて出ていく。
娘マレンが乳母を食べたので、自分の宿命を恐れたからか。
自分を喰うのは、狂ったからか、人をもう喰わないで済むようにか。
サリーは、リーの未来の可能性。(名前でも重ねている)
マレンは、母と重ねている。
二人は二人でいることで、未来を変えようとする。
骨ごと食べたら幸福感を得られるというが、マレンの母はたぶん手を骨ごと食べているが、それでは幸福感を得ていないとマレンは知っている。(リーは知らない)
だから、リーはマレンに骨ごと食べて欲しいと、マレンの幸せを祈る。
父も母も、マレンから逃げて行った。
サリーは自分のためだけにマレンを求めた。
リーだけがマレンのためのことを考えてくれた。
マレンは本物の愛を知った。
だが、その相手は失われてしまった。