で、ロードショーでは、どうでしょう? 第157回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ザ・ロード』
コーマック・マッカシーのピューリッツア賞を受賞した小説の映画化。
原作は未読。
恐ろしく静謐な映画。
なにしろ、映画の6割は父と子がひたすら滅びた世界を歩き続けるだけなのだ。
もちろん、わずかに襲撃者との対決もあるが、そのほとんどが、空腹で体力の落ちた人々による必死さが際立たたされており、アクションにもまるで爽快感がなく空しさがつきまとう。
あらゆる行動が極太の輪郭でもって描かれていく。
その究極に追い詰められた思考回路の中で、描かれる人間の尊厳の綺麗ごとでない凄まじさよ。
それを肉体描写で見せたヴィゴ・モーテンセンとその息子を演じたコディ・スミット・マクフィー、ロバート・デュバルの熱に目頭が熱くなる。
それを可能にしたスタッフにも敬意を表したい。
オーストラリア出身の俊英ジョン・ヒルコートの、そのストイックさに惚れます。
コーラをすごく飲みたくなる名シーンがあり、食い物への感謝を思い出させる。
世紀末描写は目を背けたくなるほど。
これぞ、重娯楽である。
おまけ。
ラストシーンのセリフ「nice to meet you」は、英語で聞くべきだ。
そのあたりまえの歳札が荘厳な響きを持って迫る。
あたりまえの言葉が、まるで違う言葉に聞こえる、こういうのも名台詞というんだ。
ただ、とはいえ、父親の青の死にざまを見ていたはずの息子の最後の軽さには、少々いらだちも感じてしまうのは、自分がもう無垢ではないからかなぁ。