で、ロードショーでは、どうでしょう? 第988回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『淵に立つ』
『ほとりの朔子』、『さようなら』の深田晃司監督(脚本も)が、第69回カンヌ国際映画祭「ある視点」部門で審査員賞を受賞した衝撃の家族ドラマ。
ごく平凡に見えた家族が、一人の謎めいた男の登場で徐々に秘められた心の闇をあぶり出され、崩壊へと向かっていく悲劇の顛末を、ミステリアスな筆致で不穏かつ緊張感いっぱいに描き出す。
物語。
郊外で小さな金属加工工場を営む鈴岡利雄と妻で敬虔なクリスチャンの章江は、10歳になる娘の蛍と家族3人で平穏な毎日を送っていた。
ところがある日、利雄の古い友人の八坂草太郎が現われると、利雄は章江に断りもなく、最近出所したばかりだという彼を雇い入れ、自宅の空き部屋に住まわせてしまう。
最初は当惑していた章江も、礼儀正しく、蛍のオルガン練習も手伝ってくれる八坂に次第に好感を抱くようになっていく。
出演。
浅野忠信が、八坂草太郎。
古舘寛治が、社長の鈴岡利雄。
筒井真理子が、妻の鈴岡章江。
太賀が、社員の山上孝司。
三浦貴大が、元社員の設楽篤。
篠川桃音が、娘の鈴岡蛍(小学生)
真広佳奈が、鈴岡蛍(8年後)。
キャスティングに、ほのかに黒沢清感。
プロデューサーの好みもあるのかな。
スタッフ。
エグゼクティブプロデューサーは、福嶋更一郎、大山義人。
プロデューサーは、新村裕、澤田正道。
ラインプロデューサーは、南陽。
制作プロデューサーは、戸山剛。
撮影は、根岸憲一。
照明は、高村智。
寒さを感じる自然な色合いとドラマ的なシーンの対比が素晴らしい。
美術は、鈴木健介。
スタイリストは、村島恵子。
ヘアメイクは、菅原美和子。
独特の古臭さが作品の不気味なトーンを作っている。
録音は、吉方淳二。
サウンドデザイナーは、オリヴィエ・ゴワナール。
効果は、吉方淳二。
編集は、深田晃司。
編集コンサルタントは、ジュリア・グレゴリー。
助監督は、山門朔。
音楽は、小野川浩幸。
主題歌は、HARUHI 『Lullaby』
町工場の3人家族の下に訪れた男によって、過去と信仰が襲いかかる、深田晃司によるカンヌ絶賛のサスペンス。
浅野忠信、古館寛治、筒井真理子のトライアングルの灰汁が出汁にえぐ味を効かしている。
人間の転調を水面にわずかに出せた薄い唇の頼りない呼吸のように見せる。水面からは見えない水中の渦に巻き込まれる。
低い体温がさらにと水気で寒気で下がったのに、その上、効きすぎたエアコンの風が吹き付けるので、そのリモコンを薄暗がりで探す痛作。
おまけ。
フランス題は、『HARMONIUM』。
『足踏みオルガン』ですね。
楽器目なので、日本語でもフランス語でも英語でも同じです。
『淵に立つ』の淵は縁ではなく淵。
川などで、水が深く澱んでいるところ。なかなか抜け出すことのできない苦しい境遇の例えにも使われる。
絶望の淵、など。
上映時間は、119分。
製作国は、日本/フランス。
映倫は、G。
キャッチコピーは、「あの男が現われるまで、私たちは家族だった」
このコピーのラストには?をつけて、意味を深めてもよかったと思う。
ネタバレ。
ラスト、淵(境遇)から実際の淵(川)に立つとき、呼吸の意味を息苦しいほどに伝えてくる。