で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1956回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『THE MOLE(ザ・モール)』
一介の元料理人ウルリク・ラーセンが『ザ・レッド・チャペル』で北朝鮮入国禁止のマッツ・ブリュガー監督と組み、約10年、北朝鮮国外組織へ潜入するドキュメンタリー。
監督・構成は、『誰がハマーショルドを殺したか』『ザ・レッド・チャペル』マッツ・ブリュガー。
内容。
2010年、あるきっかけからウルリク・ラーセンは北朝鮮の糾弾したいという思いを抱く。
彼は妻子ある平凡な元料理人だが、自ら「潜入スパイとなるので、ドキュメンタリー映画として制作して欲しい」とマッツ・ブリュガーに連絡してくる。
マッツ・ブリューガーは10年前『ザ・レッド・チャペル』という北朝鮮のドキュメンタリーを制作し、かの国に入国禁止となっていた。
だが、彼に何ができるものかと「もし何か撮れたら連絡してくれ」とだけ伝える。
ウルリクはデンマークの北朝鮮友好協会員となり、スパイ活動を開始する。
めきめきと出世し、北朝鮮文化交流団体の会長で欧州最強の北朝鮮スポークスマンのスペイン人アレハンドロ・カオ・デ・ベノスから接触される。
アレハンドロとマッツ・ブリューガーには、ある因縁があった。
出演。
ウルリク・ロヴェンスコルド・ラーセン (元料理人/デンマーク北朝鮮友好協会会員)
マッツ・ブリューガー (ドキュメンタリー監督)
アレハンドロ・カオ・デ・ベノス (KFA会長 スペイン人)
ジム・ラトラッシュ (協力者でジェームス氏/元軍人/元麻薬取引業者)
アニー・マション (元MI5職員 イギリス人)
カン氏 (ガイド 北朝鮮人)
キム・リョンチョル (北朝鮮人)
スタッフ。
製作:ビャルテ・モルネル・トヴェイト、ピーター・エンゲル
製作総指揮:ピーター・エンゲル
撮影監督:ジョナス・ベルリン
撮影:ハイネ・カールスバーグ、トーレ・ヴォラン、ウルリク・ラーセン
編集:トーカル・ゴーヴ、ニコラス・ノールガード・スタフォラーニ
音楽:ジョン・エリック・コーダ
『THE MOLE(ザ・モール)』を鑑賞。
2011年デンマーク、元料理人が欧州最大の北朝鮮支援組織に潜入するドキュメンタリー。
自主スパイですが、監督自身も加担していく、攻撃的ジャーナリズムとしてのドキュメンタリーです。
北朝鮮にも行きますが、ほとんどは欧州とアフリカです。北朝鮮が外国で行ってることと外縁組織の活動が中心。そして、それは国家的犯罪へと発展していきます。
本物のスパイ行為によるガチンコなセメント演技を見せてくれる。
リアル『工作 黒金星と呼ばれた男』……って、そもそも実話が元だった。
でもね。この手の悪党の会議を描くのに、これ以上のお手本はないほどの衝撃なシーンがいくつも。これはドラマなのか、と目を疑うほどに。
敵をおまぬけというが、そう信じさせるのに6年以上かかっていることが重要。まさに準備こそ命である。マッツ・ブリューガーがブッシュと戦ったり、外交官の肩書を手に入れたり、TV司会として自分の番組を持って自らアフリカの国に潜入したりする鉄筋なジャーナリスト。いうなれば、欧州のマイケル・ムーアという肩書が失礼なほどのモノホンの記者であるので、その力を侮ってはいけない。
そこまで突出した人々と、妙にカリスマティックな人々による丁々発止に戦慄する。
ウルリクの普通さこそ軸。その裡を見よ。
『アナザーラウンド』につながるデンマーク人の大酒飲みがスパイ活動に活きる。これ、『クーリエ』にも出てきたな。
あそこには笑い泣きの瞬間があったな。
実は、見所は元MI5職員のアニーによるインタビュー。この普通さにプロを見る。
それよりなにより、まさかの大きなテーマがじょじょに現れてくる。それが北朝鮮と個人というものを重なっていく。実は、タイトルのダブルミーニングになってもいる。
始める前のウルリクの目を覚えておいて、その後と、それぞれの目を見る、その表情の変化を見る。その外を見よ。10年という時間、修羅場をくぐる、人が変わるとはこういうことなのだ。
たんたんとリアルな作業としての潜入を見る、この冷たいドラマティック。
赤と黒が混ざって日常が刺さる甘作。
おまけ。
原題は、『THE MOLE: UNDERCOVER IN NORTH KOREA』。
『もぐら(スパイ):北朝鮮への覆面潜入者』。
NHK(NHK BS1)での放送題は、『潜入10年 北朝鮮・武器ビジネスの闇』。
MOLEは、痣、黒子、もぐら、防波堤の意味がある。
隠語としてスパイの意味がある。
2020年の作品。
製作国:ノルウェー / デンマーク / イギリス / スウェーデン
上映時間:120分
映倫:G
配給:ツイン
2020年秋に英国BBCと北欧のテレビ局で放送され、21年2月に「潜入10年 北朝鮮・武器ビジネスの闇」のタイトルでNHK-BSでも放送されて反響を呼んだ内容に未公開シーンなど追加している。
スペインとドイツでは、一時間のTV番組2本のミニシリーズとして放送された。
ネタバレ。
秘密を抱えて、自分が価値があると思える状態になった時に人は活き活きとする。
そして、偽りは目を殺す。
キム氏の無表情の恐ろしさ。
最後の晩餐には、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』の裏ラストを見ているようななんとも言えない複雑な感情が溢れる。
その人が活動してきたことを話してもらうこと、聞いてもらうことの意味。