で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1317回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『修羅の華』
裏社会でのし上がる3人のチームのそれぞれの秘密と罠に落とした相手によって関係を崩壊させていく韓国ノワールのアクション・サスペンス。
『コインロッカーの女』、『10人の泥棒たち』、『グッバイ・シングル』などで知られる韓国の人気女優キム・ヘスが主演を務め、第50回シッチェス・カタロニア国際ファンタスティック映画祭のフォーカス・アジア部門で作品賞を受賞。
監督・脚本は、イ・アンギュ。
これがデビュー作だが、『グッド・バッド・ウィアード』の助監督、『甘い人生』と『箪笥<たんす>』で第二班監督を務めており、キム・ジウンの右腕だったそう。
物語。
大企業ジェチョルグループの会長秘書でナンバー2のナ・ヒョンジョンは、キム会長を立てて、その右腕として犯罪組織を有力企業に育て上げ、現在は売春も行う高級ホテル"ラテット"というオーナーという地位を築いた。
キム会長の左腕ナンバー3が、イム・サンフンは暴力の部分を担っており、闇の農場を管理していた。サンフンは10年前の出来事から、ヒョンジョンにひそかに恋心を抱いてきた。
ヒョンジョンは企業買収で力を発揮するキム検事を抑えるため、ラテットでウェイという娼婦をあてがい、罠にはめる。
しかし、キム検事は罠に屈せず、彼はヒョンジョンの秘密を探り出し、それをエサにサンフンに近づいていく。
そのタイミングで、キム会長の後を継ぐであろう嫡子ファジョルが留学から帰国する。
出演。
キム・ヘスが、ナ・ヒョンジョン。
イ・ソンギュンが、室長のイム・サンフン。
イ・ヒジュンが、検事のチェ・デシク。
チェ・ムソンが、キム・ジェチョル会長。
キム・ミンソクが、嫡子のファジョル。
クォン・ユルが、仁川のボスのミョン。
オ・ハニが、娼婦のウェイ。
アン・ソヨンが、キム女史。
スタッフ。
撮影は、キム・テギュン。
『修羅の華』を鑑賞。
現代韓国、裏社会でのし上がる高級娼館のオーナーの秘密が罠に落とした相手に握られてしまう韓国ノワール。
設定の紹介に費やす前半がやや退屈だが、入ってからの勢いやよし。カメラのレイアウトがサスペンスを生むという映画的話法が胸を刺す。多くはないアクションは見づらいところもあるが配置の面白さと展開の妙で魅せる。
キム・ヘスの熟れた魅力に老若5人の男が捩じれ絡む、濃い設定を一気に駆け抜ける90分。イ・ソンギュンの揺れの面白さ。いいキャラ多めで、もっと長くして関係を掘り下げて欲しかった。だが、それが足りなすぎるというわけでもない省略は巧み。
男の種幹枝葉根が女の華を咲かす土作。
おまけ。
原題は、『미옥』。
『ミオク(美玉)』、名前ですね。
はたして、誰の名前か?
英語題は、『A SPECIAL LADY』。
あえて、意訳の『極上の女』で。
上映時間は、91分。
製作国は、韓国。
映倫は、R15+。
キャッチコピーは、「この命散ろうとも、守りたいものがある――。」。
勢いはよいし、内容をストレートに伝えている。華と散るをかけているのも好み。
ただ、考察させすぎるところはあるけどね。
「この華散らしても、守りたいものがあるーー。」とタイトルとがっつりかけてもよかったのではないか。
ややネタバレ。
ジャンル映画への新しいアプローチ(自分の場所でキャラを示す)が変に尖らないので、見やすい。これを突き詰めたものを見てみたいなぁ。そうしたら、韓国ノワールでウェス・アンダーソンになりそう。まぁ、それって『ジョン・ウィック』や『キングスマン』ともいえるのだが。
『MASTER マスター』にもその方向性はあったけどね。あれも4人の愛憎裏切り劇だった。
ネタバレ。
詰め込み過ぎなのに、関係をきっちり描いてないところがあって、前半が少し退屈。90分台にして、ジャンルもののキレにこだわったのは素敵だし、後半の速度感は好み。
実際、アクションは凄いところもあるのだけど、煙や闇で見づらいのがなぁ。アクション映画というほどにはシーンが少ないし。
でも、車がらみの肉体アクションは最高峰です。バイクとバス倒しも含めて。
特に、ラテットの描写の弱さ、農場の位置づけ、イム室長とキム会長の過去、ヒョンジョンとキム女子とウェイや他の娼婦の関係とか、検事がどういう立場なのかと、もう少し見たかった。
ウェイ役オ・ハニが、『コインロッカーの女』のキム・ゴウンに似ていたのよね。『コインロッカーの女』のキム・ヘスとの関係に似てからね。ただ、主演級のキム・ゴウンがこの役で出る?と、見ている間ずっと?マークが浮かんでた。
場所でキャラを見せるのは『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』。
キャラのそれぞれの部屋の描写がそのままキャラ説明になっていた。
『ジョン・ウィック』では、ジョンの家、ホテル、元所属組織のボスの家、ロシアンマフィアのアジトがそれぞれキャラを引き立てていた。
『キングスマン』では場所を際立てて、そこのイメージを利用してキャラのギャップや印象を膨らませていた。
今作では、それぞれの持ち場所、城とでもいう場所が重要。
秘書ヒョンジョンが娼館ホテル"ラテット"、室長サンフンが農場、会長ジェチョルがオフィス、検事デシクが会議室。そこへ別のキャラが来る、連れてこられる、踏み込む、支配するで物語が語られている。
だから、場所を奪われる、離れるというのが重要で、息子が自分の場所を持たないこと、海外から戻って海外に逃げることは物語を象徴している。生まれが刑務所だしね。
移動する場所である車の描き方も重要で、そこの安全が奪われるシーンで物語は動いていく。
ヒョンジョンが捕まる前、会長が囚われる前、息子がトランクに入り、ラスト前は車が目的地にたどり着けない、最後の回想シーンは息子を運ぶシーンだ。
自分の場所が城として説明したが、車は家と言ってもいい。
仁川のミョンが廃車置き場を城としているのも彼のキャラを伝えている。
サンフンは、ミオクに惚れているが、その奥には愛情を与えられなかった男が初めて愛を与えられて、その愛に犬の様に忠誠を誓ったのではないか。