で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2404回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ミマン』
変わりゆくソウルの街を移動する一人の女性が男たちと3つの時間を過ごすのを、韓国語で意味深い複数の定義を持つ「ミマン」という言葉を軸にした三章で描くロマンス・ドラマ。
物語。
少し前のソウル。
誰かとの待ち合わせ場所の駅を間違え迷っている男に、元カノが声をかける。
女は映画イベントの司会の仕事のために映画館のソウル劇場に行くそうだが、初めて行くので道に自信がない。
男は絵を習いに行くところで、途中まで道が同じだから劇場が分かるところまで一緒に行こうと言う。
二人は、ソウルのはずれを、昔話と近況報告をしながら、どんより曇り空の下、歩いていく。
ほんの少し前のソウル。
女の仕事は順調で、今やイベントの主軸となっていた。
今日はソウル劇場閉館の記念イベントで、女は50年前のソウルを描いた韓国映画の解説をする。
帰宅時間を知らせるスマホ中の女に、イベント会社のチーム長が声をかける。
二人は、50年前のあの映画の道を、仕事とプライベートの話をしながら、しっとり傘の下、歩いていく。
現在の韓国。ソウルから車で数時間ほど離れた田舎町。
ある女性のお葬式の手伝いで来た、男はもう二日も寝ていない。
男は同じように手伝っていた後輩の男と、後輩の男の姉を待っていたが、もう帰る時間が来る。
監督は、本作が長編映画監督デビューとなる韓国の新鋭キム・テヤン。
本作でウーディネ極東映画祭2024ホワイト・マルベリー賞(新人監督賞)を受賞した。
トロント国際映画祭2023のディスカバリー部門でプレミア上映されるなど、世界各国15以上もの映画祭で上映され、日本では東京フィルメックス2023に学生審査員賞を受賞するなど、高い評価を得た。
余白と知己があり、感慨深くて沁みる会話劇。
つよいドラマはなく、日常のじゅわっと心地よい時間を過ごせる人生の時間を切り取った小品となっている。
そういうのよくあるじゃんと思わせつつ、じっくりと長回しながら絶妙に距離をとったカメラワークと音声が抜群で、映画の世界に浸れるのです。
でも、日本の公式などで出しているあらすじがなかなかあちゃーなのよね。
まず、3組の男女だと、意図が伝わりにくい。これ、どうやら一人の女性の3つの時間の物語。
だって、演じているの一人の俳優だもの。
彼女が3人の男性と3つの季節と3つの時間で意図をもって会話をする。
オムニバスではなく、三章立てで全部つながっている一本の物語なのです。
コンセプトがしっかりした三章立て。
ただ、一章と三章は一緒にいる男性目線、二章がその女性目線という、変則的な視点なので、ちょいと複雑になっている。
とはいえ、それぞれワニシュエ―ションの会話劇。ですが、この会話が巧い。
それぞれ、ちゃんと短編の味わいがある仕掛けがあり、嘘と人生の皮肉とタイミングと実に趣深い話を味わえる。
ホン・サンス作品のような味わいで、『ビフォア(サンライズ)』三部作を一本でやった(男性が同じではない章はあるが)ような感触。
それぞれの章に一つずつかなり凝った映像をぶち込んでくるし。落ちはどれも切れ味あるし。
くり返しのユーモアは抑制が効いていて、繊細に映像と言葉で重ねられることで生まれる映画ならではの広がりがたまりません。
カメラで記録する、町とそこを行きかう人々と今という時間が主役。これぞ映画ならではの語りともいえる。
掌を額を傘を打つ小雨の音のように、貴方の声を思い出す一本。
原題:『미망』(『ミマン』)
英語題:『MIMANG』(『ミマン』)
ミマンと同じ音の言葉として出てくる章のタイトル。
1:迷妄 (戸惑い迷う)
2:未忘 (忘れたくても忘れられない)
3:弥望 (遠くを望む)
そして、もう一つ。
製作年:2023年
製作国:韓国
上映時間:92分
映倫:G
スタッフ。
監督・脚本:キム・テヤン
プロデューサー:Noh Hajeong
エグゼクティブ・プロデューサー:Younghak Son
撮影:Jinhyeong Kim
プロダクション・デザイン:Namsook Kim
サウンド:Juhyeon Kim、Junyong Kim、Hye-jin Yang
編集:Lee Ho-Seung
音楽:Tae-san Kim
配給:ライツキューブ
出演。
イ・ミョンハ (女性)
ハ・ソンクク (男)
パク・ボンジュン (チーム長)
ペク・スンジン (後輩/弟)
チョン・スジ (彼女)
キム・テヤン監督がイ・ミョンハをキャスティングすることになった偶然に会った実際に起こったことが映画の1幕の内容と似ているという。
鍾路付近で図面の授業に行く途中にソウル劇場に行くイ・ミョンハに偶然会ってソウル劇場に行く道を教えてくれたそう。