で、ロードショーでは、どうでしょう? 第2115回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ヘルドッグス』
復讐のために闇落ちした元警官が、関東最大のヤクザ組織への潜入捜査を命じられ、凶暴でサイコパスな男を相棒に、組織内でのし上がっていくクライム・アクション。
深町秋生のベストセラー『ヘルドッグス 地獄の犬たち』を実写映画化。
監督・脚本は『関ヶ原』、『燃えよ剣』の原田眞人。
主演と技闘デザインは、岡田准一。
共演は、坂口健太郎、松岡茉優、MIYAVI、北村一輝、大竹しのぶ。
物語。
復讐に生きる警察官の出月梧郎はマッドドッグと呼ばれ、警視庁の暴対特殊捜査員として目をつけられる。
拉致され、関東最大のヤクザ組織への潜入捜査をするよう請われる。
狙いは、日本最大の暴力団組織の東京の下部組織である東鞘会。
若きトップとなった十朱はマフィア化を進め、海外とも大規模な取引を行っていた。
潜入の方法は、相性が最も高いと出た組織の殺し屋部隊ヘルドッグスの中でも最も危険なサイコパス男の室岡にケンカを吹っ掛けること。
マッドドッグは兼高昭吾と名を変え、組織への潜入を開始する。
原作:深町秋生 『ヘルドッグス 地獄の犬たち』(角川文庫/KADOKAWA刊)
連載中は『地獄の犬たち』だったが、単行本の時に改題。
出演。
岡田准一 (兼高昭吾/出月梧郎)
坂口健太郎 (室岡秀喜)
MIYAVI (十朱義孝)
北村一輝 (土岐勉)
松岡茉優 (吉佐恵美裏)
吉原光夫 (熊沢伸雄)
金田哲 (三神國也)
大場泰正 (大前田忠治)
村上淳 (番犬)
田中美央 (俵谷一房)
酒向芳 (阿内将)
大竹しのぶ (衣笠典子)
木竜麻生 (杏南/おぜぜ)
中島亜梨沙 (ルカ)
杏子 (恭子)
尾上右近 (サロンの常連客)
吉田壮辰 (お歯黒)
小柳アヤカ (ミス・チャオ)
赤間麻里子 (佐代子)
スタッフ。
製作:ウィリアム・アイアトン、村松秀信、勝股英夫、藤島ジュリーK.
エグゼクティブプロデューサー:上木則安、柳迫成彦、西山剛史
プロデューサー:瀬戸麻理子、永田博康、天野和人、小出大樹、野村敏哉
キャスティングプロデューサー:福岡康裕
製作担当:小川勝美
宣伝プロデューサー:木村徳永
助監督:土肥拓郎
撮影:柴主高秀(J.S.C.)
照明:宮西孝明
Bカメラ撮影:堂前徹之
美術:福澤勝広(A.P.D.J.)
装飾:岩井健志
衣装:宮本まさ江
メイク:酒井啓介
スクリプター:川野恵美
VFXスーパーバイザー:オダイッセイ
スタントコーディネーター:小池達朗
編集:原田遊人
録音:松本昇和
整音:矢野正人
音響効果:柴崎憲治
音楽:土屋玲子
『ヘルドッグス』を鑑賞。
現代日本、闇落ち元警官がサイコパスな殺し屋と相棒となって潜入した暴力団でのし上がるクライムアクション。
深町秋生のベストセラー『ヘルドッグス 地獄の犬たち』を実写映画化。
マフィア化した海外でも裏仕事を行う東京ヤクザにバトル力があって殺し屋として活動していくことで贖罪を行っていく男、割り切った男が何を求めていくのか。
それをもう一つの存在で裏語りしている。組織とは何かという問いがある。
監督・脚本は『関ヶ原』、『燃えよ剣』、『カミカゼ・タクシー』の原田眞人。
そのスタイリッシュなヤクザ世界は、ゆるいジョン・ウィックであり、日本漫画の世界。
男と男の関係が中心なので、バトルはやや少なめでクライマックスも薄いが、スタイリッシュさと人物を描くので、対峙するだけで見所になっている。すごく上質な現代版『必殺仕事人』なので、これぐらいの娯楽度を標準なら邦画も希望が持てる。
どことなく『新しい世界』寄り。『新しい世界』は『インファナル・アフェア』からの影響が大きかったが。で、『新しい世界』は『鮫肌男と桃尻女』の影響下にあり、それが今作で桂馬的に浮かび上がってくるのが興味深い。そして、『鮫肌男と桃尻女』の源流には『カミカゼ・タクシー』があるので、奇妙な円環連鎖が起きている。でも、潜入捜査官のサスペンスや心理はかなり薄い。
演技も世界標準の方向性だしね。
主演と技闘デザインは、岡田准一。彼であることが、この映画を見る価値になっている。吉原光夫が発見。松岡茉優が発展。中島亜梨沙の期待。坂口健太郎が次を目指している。ヤクザキャストはいずれもよい。
ただし、リアル施行でセリフが聞き取りにくいことがしばしば。聴こえなくても話はわわかるし、それが演出の狙いだとしても、早口や滑舌だけでない技術の低さに受け取れてしまうところも。説笑みは後でその状況が出てくるから補えるけど、思いを伝えるセリフとかが聞き取れないことがあるので。
バイオレンスは内容は激しいはずだが、編集でズバリは見せないようにしている。少々物足りなさを感じるかも。
空間性がわかりづらいこともあり、いい場所といい場所を繋げるのに無理をしたのが見える。画はいいので部分の演出が行き渡ってないのを感じてしまう。
全体的にはチープでない。邦画にありがちな自己満像的がんばってる感がなくてよい。ほとんどの邦画は内容にもよるけど、基準がしみったれていることが少なくないので。
被害者の方をもう少し見せたら、彼の立ち位置がもっと見えたのではないか。あの会合だけでなくね。
オマージュも微笑ましいくらい、古臭いのでベテランの思いの放出として見られる。
スタイリッシュ過ぎで笑ってしまったり、詰め込み過ぎて、足りてないところはあるが、サービス精神として、娯楽の歓びとして受け取れる。
階段が組織のリード紐に見える鎖作。
おまけ。
英語題は、『HELL DOGS:IN THE HOUSE OF BAMBOO』。
『地獄犬ども:竹の家の中で』。
サミュエル・フラーの『東京暗黒街・竹の家』(1955)(原題:『HOUSE OF BAMBOO』)へのオマージュだと思われる。
劇中にもポスターが出てきます。
原田眞人はサミュエル・フラーを師匠と尊敬している。(実際に講義を受けたり、交流があったそうです)
2022年の作品。
製作国:日本
上映時間:138分
映倫:PG12
配給:東映=ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
『東京暗黒街・竹の家』(1955)は『情無用の街』(1948)の舞台を戦後の東京に置き換えたリメイク作品。
潜入捜査官もの。
ネタバレ。
ラストの時制ずらしが、室岡の走馬灯のようにも見える。
あのラストは、『鮫肌男と桃尻女』と同じで、『新しい世界』は『鮫肌~』とそっくりなラストがある。
深町秋生は『新しい世界』を意識して原作を書いたそう。
潜入捜査官映画のツリーが出来ているといえる。
『インファナル・アフェア』シリーズ→『ディパーテッド』→『新しい世界』
↓
『新しい世界』←『鮫肌男と桃尻女』←『カミカゼ・タクシー』→『ヘルドッグス』←『レザボアドッグス』→『鮫肌男と桃尻女』
↓
『ヘルドッグス』←『東京暗黒街・竹の家』←『情無用の街』
『レザボアドッグス』には日本のヤクザものからの影響もある。
拷問場の空間背が最もわからない。
上と下が全然違う場所のように感じる。
監視モニターで繋げてはいるが音がしないなどで、空間としてのつながりが弱い。
兼高が会長の事務所に銃を持ち込み、簡単に隠せる。
兼高の金の流れを警察がつかんでいない。
Aチームが特徴がなく、言葉だけで急に現れるので、クライマックスが弱い。
拷問場の襲撃に間に合い、Bチームのピンチを救うべきだったろう。
それか、戦わずして、Aチームが来るまでに十朱をしとめるタイムリミット戦にするか。
金庫の中を開け、銃を取り出すことで、あの指の小道具も活かせた。
加えて、十朱の神輿としての立場がもう少し見えると最後の戦いの絆とサスペンスが強まったはず。
ラストの二人の姿勢は、『レザボアドッグス』のラストと同じだが、中身がまるで違う。
あれはシンパシ―を持ちつつも殺すという悲しみがあった。
今作では、同化。
ゴロウとして被害者家族との関りを持たせない(逆に室岡が持つのは同化)のは、ただのヒーロー願望に過ぎず、室岡の言葉のように、楽しい、喜びがあったことの闇を描きたかったのだろうとも思う。
いろいろ入れているので、なにか不快ことを語っているように見えるが、実際、語りが絞れておらず、深みがまるでない。
見ればわかる美学はあるが、哲学がない。
滅びや敗者やそれでもヒーローでありたい病いみたいなものは伝わってくるが。
空気や雰囲気やムードであって、栄養的な血肉にまでならない。
それでも、肺を膨らまして、邦画を動かしてくれる匂いはある。