で、ロードショーでは、どうでしょう? 第1473回。
「なんか最近面白い映画観た?」
「ああ、観た観た。ここんトコで、面白かったのは・・・」
『ペパーミント・キャンディー』
ある男の人生を20年にわたって遡る、切ない物語。
韓国きっての演技派ソル・ギョングが圧倒的な演技を見せる。
韓国で50万人動員し、『シュリ』に次ぐ大ヒットを記録した感動の話題作。日本でも単館上映ながら全国30館以上で公開の大ヒット。
今年4Kレストア版がリバイバル。
物語。
1999年春。鉄道の高架下でヨンホは全てを失い、空を見上げていた。
3日前、ヨンホは危篤状態にあるある女性を見舞う。
数年前、刑事となったヨンホはある男を追う最中、女性の面影を見る。
原作・脚本は、イ・チャンドン。
出演。
ソル・ギョングが、キム・ヨンホ。
キム・ヨジンが、ホンジャ。
ムン・ソリが、スニム。
パク・セボムが、クァンナム(スニムの夫)。
ソ・ジョンが、従業員のミス・リー。
キム・ギョンイクが、パク・ミョンシク。
イ・デヨンが、カン社長/カン刑事。
スタッフ。
製作は、ミヨン・ケナム、上田信。
撮影は、キム・ヒョング。
美術は、パク・イルヒョン。
編集は、キム・ヒョン。
音楽は、イ・ジェジン。
90~80年代韓国、ある男が思い出す20年の過去を描くドラマ。
4Kレストアでリバイバル。
人はいかに後悔を抱えて人生を歩むのか。
いわば走馬燈としての人間ドラマ。
映画の記憶装置としての機能をフルに刺激する。
何が人を壊すのか?
ソル・ギョングの圧倒的な演技とそれを飲み込む演出に震える。
長回し撮影の魔法。
代用物を本物に変えられないのか。
若き巨匠の技にやや硬さが残る。
20年過ぎた今だからこそ新たな走馬燈が回る雨作。
おまけ。
原題は、『박하사탕』。
英語題は、『PEPPERMINT CANDY』。
『ペパーミント・キャンディ』。
上映時間は、129分。
製作国は、韓国/日本。
1999年の作品。
『バーニング 劇場版』の公開に合わせて、イ・チャンドンの1999年の傑作を4Kレストアでリバイバル。
『オアシス』もなので、イチャンドン×ソル×ギョング×ムン・ソリのリバイバル。
受賞歴。
2000年の大鐘賞にて、最優秀作品賞、監督賞(イ・チャンドン)、助演女優賞(キム・ヨジン)、脚本賞(イ・チャンドン)、新人男優賞(ソル・ギョング)を、受賞。
2000年の青龍映画賞にて、主演男優賞を、ソル・ギョングが受賞。
その他、8冠。
NHKと韓国の共同制作で、1998年の韓国の日本文化開放後、両国が最初に取り組んだ作品。
ややネタバレ。
『殺人者の記憶法』は裏『ペパーミント・キャンディー』ともとれる。
ネタバレ。
一人の中年男性が鉄道に飛び込む場面に始まり、彼がそこに至るまでの20年間を七つのエピソードに分けて描く。
7つのエピソード。
<ピクニック 1999年春>
<カメラ 3日前の春>
<人生は美しい 1994年夏>
<告白 1987年春>
<祈り 1984年秋>
<面会 1980年5月>
<ピクニック 1979年秋>
1979年は、10月に軍事独裁政権の朴正煕(パクチョンヒ)大統領が暗殺され、韓国全土で民主化運動が盛んになっていく。
面会のエピソードで描かれるのは、1980年5月で、光州事件を描いている。
告白のエピソードで描かれる1987年は、韓国が民主化した重要な年。
他の年もそういう韓国の現代史において重要な転換や事件があった年として、記憶に残っている頃だった。
1979年に川沿いで若者たちが歩きながら歌うのは、民主化運動の中で愛唱され、朴正煕政権下では禁止処分にもなったキム・ミンギの『アチミスル(朝露)』である。1979年と1999年に歌われるのは1977年に韓国で大ヒットしたSand Pebblesの『ナ オットケ(私,どうすればいい)』。
トンネルの暗闇から映画は始まる。そして、空を見上げる40代のヨンホ。これは1979年の鉄橋の下で見上げた姿とリンクする。たぶん、列車にはねられて地面に落ちたのだろう。これから見るのは死ぬ直前の走馬燈。
カメラもまた重要な小道具で、記憶をそのまま道具にしたもの。残されたフィルムを見ることなく引き出した時、彼は思い出を捨て、死ぬ覚悟を決めたことが分かる。
1979年、軍事政権に陰りが見え、ヨンホたち大学生は民主化という明るい未来に思いを馳せる。
それでも徴兵制によって、軍隊に入ったヨンホは、光州事件での事故で女子高生を殺してしまう。
自分を愛することが出来なくなる。過去を残したくなくなったのだろう。写真家の夢を捨て、刑事になる。民主化運動を止めるための拷問によって、さらに壊れていく。
スニムという愛してくれる人を汚したくないから、自分に幻滅してもらうために、さらに汚して見せる。汚した責任を取るあたりの傲慢さを身につけて。だが、ホンジャ(後の妻)もどうやら売春行為をしていた可能性がある。刑事に尻を触られても反抗さえせず、初めてヨンホと肌を重ねるベッドは、風呂の前にあり、そこは商売部屋に見える。壊れた彼女は宗教に逃げていたのではないか。
汚れた自分と汚れた女を娶り、結婚生活はともに浮気する破綻を迎える。
ヨンホの会社も元上司に裏切られ、破綻する。ホームレス同然の暮らしに訪ねて来たのは、スニムの夫。
スニムは汚れずにおいて死を迎えようとしていた。そのために、あの時の思い出のペパーミントキャンディ―を持っていたと、あの頃の自分に偽装する。
あの時のカメラを渡され、すべての過去がヨンホを責める。
ヨンホは、最初のペパーミントキャンディーもスニムにもらい、カメラもスニムにもらう。
ペパーミントキャンディーは、スニムからもらった思い出の飴。彼女は飴工場に勤めていて一日に千個包んでいるという。彼女の現実の仕事(大学生だからバイト?)の象徴。カメラはまだヨンホが買えないけどいつか名もない花を撮る写真家になりたいというリアルな夢の象徴。
しかも、カメラはペパーミントキャンディーを包んだお金でスニムがヨンホのために買ったもの。
この二つは、明るい未来、希望の象徴でもある。