次に、他の太陽光発電ビジネスによる投資商品と比較します。
投資を比較するための指標として、投資によって得られると見込まれる利回りである内部収益率(IRR)を求めます。
各年の収入を(1+r)^n (n:年数) で割って積算し、それが投資資金に一致するr を内部収益率とします。言いかえると、回収年ごとに区分けされた投資資金がすべて同じ利回り r の1年複利でそれぞれ決められた期間、運用されたと仮定した場合の利回りです。
わかりづらいですね。
具体に示します。以下は、20年運用時の、年ごとのモデル計算時の投資による収入(収益+元本返済)と、その現在価値です。(ローンなし、年間予測発電量 57,000 kwh)
現在価値とは、収入を (1+r)^nで割った値です。rは、事前に Excel の IRR 関数で求めた r を使っています。
Excel では、各年に対して 収入÷(1+r)^n の値(つまり現在価値)を合計した額が初期の投資額(モデル計算では2000万円)となる r を求めています。
この現在価値が、先程の"回収年ごとに区分けされた投資資金"です。現在価値の総和を計算すると、当然ですが、ぴったり2000万円になります。
年 | 投資による収入 | 現在価値 |
1 | \1,933,349 | \1,822,660 |
2 | \2,153,700 | \1,914,150 |
3 | \2,089,635 | \1,750,880 |
4 | \1,984,749 | \1,567,787 |
5 | \1,857,275 | \1,383,099 |
6 | \1,893,398 | \1,329,273 |
7 | \1,852,662 | \1,226,207 |
8 | \1,814,666 | \1,132,296 |
9 | \1,779,064 | \1,046,526 |
10 | \1,105,551 | \613,102 |
11 | \1,713,861 | \896,035 |
12 | \1,683,764 | \829,900 |
13 | \1,655,057 | \769,047 |
14 | \1,627,564 | \712,974 |
15 | \1,441,130 | \595,160 |
16 | \1,575,620 | \613,448 |
17 | \1,550,918 | \569,260 |
18 | \1,526,921 | \528,364 |
19 | \1,503,540 | \490,487 |
20 | \680,695 | \209,344 |
区分けされた投資資金はそれらが回収されるまでの間、すべて利回り r (1年複利)で運用されるということ。
さて、今回の太陽光発電ビジネスのモデル計算では、以下となりました。
■内部収益率
頭金 | 年間予測発電量 | |||
---|---|---|---|---|
51,000kwh | 54,000kwh | 57,000kwh | 60,000kwh | |
なし | ∞ | ∞ | ∞ | ∞ |
100万円 | 29.3% | 41.5% | 52.9% | 63.8% |
500万円 | 9.5% | 11.8% | 14.0% | 16.3% |
1000万円 | 6.5% | 7.8% | 9.1% | 10.3% |
一括支払 | 4.6% | 5.3% | 6.1% | 6.8% |
一括支払いの場合でもIRRが6%前後と比較的高い値です。税引き前では、7.5%(税率80%と仮定)です。
投資に対する利回りでは、このIRRで比較するのが一般的なようです。
前回の利回りの計算では、一括支払いの場合 2.5%ぐらいでした。これは、1年複利で20年間運用した場合の収益と、太陽光発電の収益が一致する利回りを計算したわけですが、実際には毎年収益があるものの、その収益はその後は一切収益を生みません。
それと、1年複利で20年間運用した場合の利回りと比較するわけですからどうしても低くなってしまいます。
一方、今回の内部収益率は、収入を得るまでの期間(1年目の収入は1年間、2年目の収入は2年間、・・・)に対する利回りなので、こちらのほうがより現実に近いですし、収入を得た後の20年目までの期間は計算対象に含めないため、利回りは、1年複利20年間運用よりも高くなります。
以下では、IRR 7.5%(税引き前) として、他の運用商品と比較してみます。
なお、以下の投資商品はあくまでも参考のためであり、その良し悪しを判断するものではありません。リスクは、個々のビジネスによって異なるため、単純な比較はできません。
(3) 他の投資商品との比較
まず、太陽光発電のファンドです。
■鹿島灘1号太陽光分譲ファンド(匿名組合契約) http://zecj.jp/kashimanada-solar-fund
株式会社ゼック http://zecj.jp/ が募集しているファンドです。
場所:茨城県鉾田市梶山の土地 3,939m²
買取価格:42円/kwh
募集口数:141口
1口:50万円
分配金計算期間:20年
途中解約:不可
目標年間平均分配率: 8.7%
Webに記載された「鹿島灘1号太陽光発電事業に100万円出資した場合の出資者に対する現金分配額(想定)」 から IRR を計算すると、6.1%でした。
分配金の総額を20年で割ると、年間平均分配金は¥85,000。これを出資額100万円で割ると、年間平均分配率は 8.5%となり、先の目標年間平均分配率とほぼ一致します。しかし、この分配金には出資した100万円も含まれている点に注意が必要です。IRRが8.5%よりも低いのは、そのためでしょう。
■ふくいソーラー市民ファンド(匿名組合契約) http://ecoplanf.com/solar-fund/summary/
(株)福井市民発電所によるファンド
場所:福井県
買取価格:42円/kwh
募集口数:49口
1口:20万円
運用期間:20年
途中解約:不可
目標年間分配利回り: 2.5%
ふくいソーラー市民ファンドのWebに記載された分配計画(利益分配想定額)からIRRを計算すると、2.9%でした。
こちらは、目標年間平均分配率に近い値ですね。鹿島灘1号太陽光分譲ファンドと同じ方法(年間平均分配額/投資額)で計算すると、6.6%となります。
比較するときには、やはり同じ物差しで測らないと危険ですね。
一口20万円と他よりも小口です。ただ、それでも IRR 2.9% はちょっと低いかな。
■福島復興支援ファンド(匿名組合契約) http://www.kanayamacorporation.co.jp/fundindex.html
事業者は(株)クリーンエナジー
場所:福島県や栃木県など
買取価格:42円/kwh
募集口数:1000口
1口:50万円
運用期間:5年
途中解約:不可
目標現金分配金: 5%
運用期間終了後、出資金元本償還
これは、毎年5%の分配金が支払われ最後に元本が償還されます。したがって、計算をするまでもなく、IRR は 5% です。
運用期間が他と比べて短期であり、事業継続時に発生する故障などによる分配金低下のリスクは少ないだろうことを考えると、IRR 5%よりも高く評価すべきかも。ただ、短期であるために、トータルで得られる収益は当然少なくなります。長期だがリスクをとるか、短期でリスクを減らすか、判断が迷いますが、感覚で言ってしまうと IRR 6%の先の投資物件と同程度の評価となりそうな気がします。
■地域MEGAおひさまファンド(匿名組合契約) http://www.ohisama-fund.jp/index.html
おひさまエネルギーファンド株式会社による運営
募集区分は2つありましたが、ここでは分配利回りが高い B号匿名組合を対象とします。
募集口数:400口
1口:50万円
運用期間:20年
途中解約:不可
目標年間分配利回り:3%+プレミアム配当
Webサイトにある分配計画(プレミアム配当含む)をもとに IRR を計算すると 4.2 % でした。プレミアム配当はかなり不確定なのかもしれませんが・・・。
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次に分譲タイプです。こちらは、太陽光発電システムを自分で所有するもので、私がモデル計算した投資案件と似たタイプです。
■花畑ソーラー発電所(分譲タイプ) http://www.cosmos-rom.net/garden.html
(株)コスモスエンタープライズ によって募集・販売される、土地付き分譲タイプの発電所です。
これは、私がモデル計算をした太陽光発電ビジネスと似た投資商品です。
場所:長野県茅野市
買取価格:42円/kwh
価格:1870万円(税込) 48kw太陽光発電設備および20年間土地借地権付き
運用保守費など:
・賃貸借地権(20年) 15万円/年(2年目以降)
・管理費:6万円/年
・企業総合保険(オプション):3万円/年(2年目以降)
・遠隔監視システム(オプション):6万円/年
年間発電量は、5年間は 58,270kwh, それ以降はモジュール性能低下率 -0.4%/年 との記載があります。
しかし、年間発電量は収益と密接に関係しますし、パラメータが多いと比較も困難なため、年間発電量は、以前のモデル計算と同じく、51,000kwh, 54,000kwh, 57,000kwh, 60,000kwh の4パターンとします。花畑ソーラー発電所では、損失係数を 0.79 としていますが、モデル計算を行った発電所の営業担当者も2割ほど予想を低くしていると言ってました。
モジュール性能低下率は、モデル計算と同じく -1.0%/年とします。(安全を見て)
パワーコンディショナーについては、10~15年で交換が必要との記載があります。その価格は記載されていませんが、モデル計算と同じく価格は50万円とし、10年目に交換するとします。
予備費としてモデル計算と同様に5年ごとに10万円計上します。
撤去費用については記載がありません。どちらにするかちょっと迷いましたが、モデル計算と同じく、こちらも20年後に100万円で撤去することにします。
上記条件でIRRを計算すると、次のようになりました。なお、比較のため、以下は税込(税率20%)としています。
対象 | 年間予測発電量 | |||
---|---|---|---|---|
51,000kwh | 54,000kwh | 57,000kwh | 60,000kwh | |
モデル計算 | 5.8% | 6.6% | 7.6% | 8.5% |
花畑ソーラー | 5.3% | 6.3% | 7.2% | 8.1% |
花畑ソーラーとモデル計算ではほとんど差がないですね。この差は、運用保守費の差となります。
花畑ソーラーで 57,000kwh とした場合、撤去費用がかからないのなら 7.5%、また遠隔監視オプションが不要なら 7.8% となりました。つまり、ちょっとしたモデルの差でこの違いはなくなるようなレベルです。
このような分譲タイプの太陽光発電への投資商品はほかにもいくつかWebにて見つけることができました。しかし、管理費が不明だったり、その内容が不明だったり、追加費用の有無が不明だったり、というように、詳細が不明なため、比較を行うことができませんでした。
分譲タイプは2例しかありませんがどちらも7.0-7.5%ぐらいですが、ファンドの場合は最大でも 6.1% でした。差は 1-1.5%程度ですが、20年間の運用と考えるとその差は無視できません。
分譲タイプとファンドの場合のリスクの違いですが、太陽光発電システムを所有した場合、匿名組合と異なり、営業者というものがないため、営業者が倒産するといったリスクはありません。万が一、維持・管理業者が破たんした場合でも他の業者に委託することは不可能ではないはずです。少なくとも、その太陽光発電システムを所有しているのですから、それが正常に動き続けていさえすれば収入は入ってきます。しかし、匿名組合の場合、本人の意思にかかわらず、事業が売却され、しかも手元には元本が全く戻らないこともあり得ます。
一方、匿名組合では、自分の投資と太陽光発電パネルが厳密にひもづいているわけではないため、仮に、地震などの災害でパネルの一部に大きな損害が発生しても投資家全員でその被害を分散することができます。さらに、1口の投資額は20万円や50万円と言ったように比較的少ない金額です。そのため、投資をいくつかの異なる太陽光発電ファンドへ分散することでリスクを低く抑えることが可能です。
こういったメリット・デメリットやIRRの違いを理解したうえで、分譲タイプとファンドとのどちらに投資するか、検討したほうがよいでしょう。
私としては、もし分譲タイプがファンドよりも、IRRが 1-1.5%ほど多いなら、分譲タイプを選びます。分譲タイプだと多くの場合、日々の発電状況をリモートから確認でき、自分の太陽光発電所で発電しているという実感を得ることができ、面白いと思います。
もし、IRRが分譲タイプと同程度のファンドが複数あるなら、リスク分散の点から、複数のファンドへ資金を分散して投資するでしょう。