mitakeつれづれなる抄

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名古屋観世九皐会能を拝見しました・2013/1/20

2013年01月20日 | 能楽

Ccf20130120_00000  本日、名古屋能楽堂において、名古屋観世九皐会(きゅうこうかい)新春能があり、拝見してきました。観世喜之先生率いる観世流分家の分家、矢来の観世ともいわれる九皐会の名古屋公演能です。

 この名古屋公演は毎年10月に開催されますが、今回は「翁」を上演するため、昨年10月は開催せず、この1月での開催と伺いました。今年の九皐会予定表を戴きましたけど、10月に名古屋開催が入っておらず、次回はまたお正月の開催かもしれません。

 上演曲です。


  •  翁  中所宜夫
     三番叟 佐藤融
  • 狂言 昆布売
     シテ 大野弘之
  • 望月
     シテ 観世喜正

 翁は、「能にして能に非ず」、ズバリ神事です。しかも厳粛なるもの。このためにシテの翁を演ずる方は、かつては別火をし、精進潔斎しなければならないとされています。今は多少は緩くなってはいますが、それでも三日前からはこの精神で魚肉などは頂かないようにしているそうです。

 そして揚幕の奥の鏡の間では翁飾りとよばれる祭壇が設えられ、今回もそうだったでしょう。開演前のお調べを演奏した後、出演者は順に神酒を頂き、そして火打石で切り火を切って、面箱持ちを先頭に、次が翁の順に舞台に登場します。

 翁は、とにかく神事であり、物語の進行は一切ありません。翁がつける白式尉(はくしきじょう)の能面もこれだけに用いられます。能面のあの笑顔が天下泰平と五穀豊穣を産み出す神の力を感じさせるものです。それ故に大変厳粛なもので、翁の登場している約30分は、会場は出入り禁止となっています。

 中所師による翁は初めて拝見しました。初めてもそのはず、披キだそうです。「披キ」とは、初めて演ずる能のシテでも、重く扱われる曲の初演のことを、特にこう言うんです。動きに余裕がありますね。何処からとなく安心感というものが出てきます。この安心な気持ちを抱かせるのが、天下泰平の祈願の原点ですよね。

 その前の千歳(せんざい)の舞、言い忘れていましたが、翁の曲の小鼓は三丁(三人)で、千歳の囃子は、この三丁の小鼓がとても気持ちよいリズムで囃します。それに乗って千歳の小島英明師、勇壮に舞われました。

 千歳と翁の舞が終了すると、次は三番叟。翁が天下泰平五穀豊穣を祈願する神事に対して、この三番叟は農耕の祈願をする要素があるものです。まず揉の段(もみのだん)、続いて黒式尉の面をかけ鈴の段。揉の段は地ならし、鈴の段は種まきや田植えなどを表しています。

 この三番叟を舞われた佐藤融師、う~んもう少し伸びやかに舞ってほしかったな。佐藤師の持ち味は出ていたと思いますが、強弱と緩急、それに舞自体を大きめになされるとより良かったと思います。

 

 狂言の昆布売。道行く大名が昆布商いに、無理強いをして逆にやり込められる、コミカルな狂言。シテ大名の大野弘之師、アド昆布売の佐藤友彦師、いずれも私が能を観始めた頃は、次の世代を担う立場だった方。今、こうしてその二人の舞台を拝見し、その当時を思いだして円熟味というものに気付きました。このお二人の先生、ともに釣狐の披きを拝見しております。私も結構長いということですね。

 

 能の望月。これ初めて拝見しました。いや正直言うと、詳しい内容を予習せぬまま舞台に臨みました。要するにかたき討ちの物語。非業の死となった主人の元家臣が街道で宿屋を開いていると、主人の夫人とその子が宿屋に泊まり、主筋との再会を果たすこととなった。そこで主人を討ったとする望月が宿へ来て、なんという偶然か、この望月を果たすこととなり、うまいこと騙して最後は討ってしまう。そんな内容の曲。

 見どころは、主人の子は実際の子供を使う子方で、討つべき望月を騙す方法の一つとして、舞を見せます。本物の子供が舞うので、見所(客席)は和みます。そしてシテの元家臣が獅子舞を見せます。この獅子舞の囃子は、石橋(しゃっきょう)の獅子と同じ旋律で、話には伺っていましたが、こういう形で獅子の囃子がされたのだと思いました。そういえば昨日、美人の先生が故郷茨城で、石橋を舞われたそうです。観に行きたかったな。

 そうして目指す仇の望月が気を抜いている所で、見事仇討ち成功。能ではそんな仇討ちをそのまま演ずることはなく、仇討ちの場面直前に望月を演じたワキが舞台右奥の切戸口から退出します。シテでもワキでも、舞台上で死を遂げた後は、幕へ戻らずに切戸口から退出することになっています。

 曲名の望月(もちづき)、これは仇と狙われるワキの人物名です。能の曲名がそのまま主役であるシテの名前となるのは案外少ないのは、能の構成上の特長です。


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