時事解説「ディストピア」

ロシア、イラン、中国等の海外ニュースサイトの記事を紹介します。国内政治、メディア批判の記事もあります。

[新刊]『シリア 戦場からの声』小感想

2016-01-15 18:05:58 | 読書
紹介文より。
「5 度にわたりシリア内戦の現場に入り、自らも死の恐怖と闘いながら、
 必死で生きる人々の姿をペンと写真で描いた貴重な記録。」

感想。
一通り読んだらブックオフか古本市場に売ろう。

本人曰く
「私は2012 年から2015 年まで計5 度に渡り、シリアに足を運んだ。
 そこで暮らしている人々の声に耳を傾け、彼らと一緒に時を刻んだ。

 現場に足を運ばなくとも、ネットから流れ出る情報をかき集めれば、
 シリア情勢はある程度は把握できる。しかし、情報からでは内戦下で暮らす人々の心境は
 直に伝わってこない。それが私には悔しかった。もっと彼らの生の声を
 多くの日本人に知ってもらいたい。その思いが私を原稿に向かわせた。」らしい。

記者やジャーナリストの中には現場主義という神話を頑なに信じたがる人間がいる。
簡単に言えば、「現場に行けば現実が見えてくる」という考えだが、それはどうだろう?


---------------------------------------------------------
経験の浅い記者が送稿したのであろうか、4月はじめに朝日新聞に大きく掲載された
「従軍取材自問の日々」という記事を読んで絶句した。

疑いもなくこの記者は率直で正直で良心的である。それは裏を返せば、
言葉のもっとも悪い意味でナイーブにすぎ、哀しいほど不勉強でもあるということだ。

記事によると、彼は同行した米海兵隊とは別の米軍部隊が
イラク軍陣地を追撃砲で攻撃し、それが命中したのを見て、
まわりの米兵らとともに思わず「歓声を上げ」たと告白している。

一方で、
「私は中立であるべきジャーナリストであり、攻撃の成功を喜ぶべきではない」
「しかし、『やった』という感情は無意識のうちにわき上がった」と悩む。

しまいには
「今回の戦争をどう考えるか、という結論を私は出せずにいる。
 米国にもイラクにも問題がある、ということまでしか言えない」と
まことに素朴に述懐するのである。年季が浅いということだけで、これは済む話ではない。

記者が「ストックホルム症候群」に陥っているのではシャレにもならないのではないか。
私もかつてソマリアで米軍側から戦闘を取材したことがある。

だが、「武力による平和の執行」と称して人を殺す米軍の作戦行動には
激しい怒りを覚えるのみで一瞬たりとも共感したことはない。

「中立であるべきジャーナリスト」とは果たしてだれが教えたのか。
「中立」とは狡猾な政治的概念なのであり、
 記者が戦争や人道を表現するときの普通概念ではありえない。

まして、圧倒的な兵力が一切の国際法を無視して侵略を強行し、
無辜の人々を殺しつづけているとき、記者にいかなる「中立」がありえるのか。

(辺見庸『いま、抗暴のときに』(講談社、2005年)、75‐76頁)
-------------------------------------------------------------------------

このように、現場を見たから何かがわかるということはない。
記者の視点や思想が必要になってくるのである。


想像力や洞察力のない人間が現地に行って取材をしても、
それは近視の人間がメガネを外してあたりを見渡すようなものだ。


実際には、ほとんどの人間は中立ではなく、どちらかの側に立って物事を見ている。
重要なのは、それを自覚しているかどうかで、中立に立つこと自体に意味はさしてない。

一番問題があるのは「どちらも悪い」という姿勢であり、
それは「どちらかのほうが、より悪い」という考えを捨てるものである。
それは、相対的に見てどちらにより責任があるかを調べようとしないことを意味する。



---------------------------------------------
「スプートニク」が「ダーイシュ(IS)」戦闘員に独占インタビュー:
「トルコは我々を評価し、支援していた」


「ダーイシュ(IS,イスラム国)」の武装戦闘員は
シリア北部でのクルド人との戦いでクルド人の人民防衛隊(YPG)に捕虜にとられ、
現在、YPGのいわゆる刑務所に収監されている。

ラジオ「スプートニク」トルコの記者にこうした刑務所を訪れることが特別に許可され、
「ダーイシュ」の戦闘員捕虜らの話を聞くことができた。

そのうちの1人、チュニジア出身のケリム・アマラ(31)は
「ダーイシュ」の一部隊の司令官。アマラが「ダーイシュ」に加わったのは2013年。
2015年にはYPGに捕虜に捕られた。


「スプートニク」トルコの記者が話を聞いた「ダーイシュ」の他のメンバーと同様、
 ケリム・アマラも「ダーイシュ」とトルコの結びつきについて語り、
「ダーイシュ」の戦闘員の召集がいかに行なわれているか、そのプロセスの詳細を明らかにした。


「チュニジア革命の後、多くの若者がイスラム主義組織に加わり、
 そこで急進的イスラムとジハードの行い方の基礎を学ぶコースを終了した。
 私もそうしたコースを受けた。私は友人の勧めで『ダーイシュ』とのコンタクトをしいた。
 チュニジアから私はリビアに廃止、そこから飛行機でトルコに飛んだ。
 その後、ハタイのレイハンラ国境検問所の付近で違法に国境を越え、シリア領へと入った。」

「2013年、私は15日間にわたってアレッポの郊外のあるキャンプで戦闘訓練を受けた。
 2015年、シリア人女性と結婚。『ダーイシュ』の構成体の中では私はグループの司令官だった。
 しばらくして組織に入隊すると、私はイラクと戦うために送られた。
 1年間、イラクの町ラマディで過ごし、イラク軍を相手に戦った。

 イラクの後は北のアレッポに送られ、そこで2ヵ月半を過ごし、
 自由シリア軍との衝突に参加した。それから、コバニにYGPと戦うために派遣された。」

アマラの話では彼は20人の兵士の部隊の司令官だった。
ところがコバニにはたった400人の「ダーイシュ」戦闘員しか送られていない。

「コバニに到着して1週間たったとき、クルド人部隊は我々の陣地に大規模な夜襲をかけた。
 私はうまく逃げたが、ある瞬間、道から離れてしまった。
 トルコの国境に近づいたとき、地元民が私に向かって声をかけた。
 この人物は私を自宅に呼びいれ、食べさせてくれた。
 それからこの男の家にクルド人民防衛隊の兵士らがやってきた。
 この兵士らは私が自分たちの防衛隊のメンバーではないと悟り、私を逮捕した。

 私がコバニにいたのはわずか1週間だ。私のいた地区には『ダーイシュ』のメンバーは8人いた。
 そのうち6人がトルコ出身者だ。彼らは我々の高地の防衛を担当していた。
 我々のグループにいた2人のトルコ人は
 ジェラブルスの『ダーイシュ』の司令官らとよい関係にあった。」

「トルコは我々を手厚く援助している」

アマラはトルコが「ダーイシュ」に行なっている支援について語った。

「トルコは『ダーイシュ』を助け、我々が新たなメンバーを探す作業を軽減していた。
 私が『ダーイシュ』の一員だった間は、トルコ人軍人が我々の組織に
 新たなメンバーが加わるのを阻止したという話は一度も聞いていない。
 その反対に『ダーイシュ』内では、逆にトルコは『ダーイシュ』を評価し、
 積極的に助けているといわれていた。」

トルコとの捕虜交換

ケリム・アマラはモスルにある
トルコ総領事館の職員49人の解放について、重要な情報を明かしてくれた。
これらの職員は101日間にわたって「ダーイシュ」の捕虜となっていた。

2015年夏、モスルのトルコ総領事館で危機が起きたとき、
トルコのマスコミは総領事館の49人の人質と、当時、トルコの刑務所に入れられていた
「ダーイシュ」のメンバー180人の交換が行なわれたと報じた。
トルコ指導部はこのとき、報道内容の信憑性を公式的に裏付ける声明は表していなかった。

ケリム・アマラはこのときイラクにいたため、
トルコ人外交官49人の人質交換のプロセスに自ら参加したことを明らかにした。

「我々はトルコ側にモスルの総領事館の職員を引き渡し、
 トルコも我々の人間を渡した。作戦は特務部隊によって組織された。」

「コバニでの衝突の際、我々はトルコから食糧を受け取った。」

アマラの話では「ダーイシュ」はトルコとイラクに重油を売り、
トルコとサウジアラビアからは食糧を受け取っている。

「コバニでの衝突の際、我々の司令官はよくトルコに滞在した。
 トルコから司令官は食べ物や他の必需品を持ち帰ってきた。
『ダーイシュ』にはトルコ出身の司令官らがいた。」

続きを読む http://jp.sputniknews.com/middle_east/20151230/1387412.html#ixzz3xIUo80sU
---------------------------------------------------------------------

トルコやサウジアラビアがダーイシュと実際にはそれほど敵対していないことは、
「現地」にいる記者たちの報道ですでに明らかになっていることであり、
ダーイシュが元々はアメリカやフランス、イギリスがアサド政権打倒のために
支援していた武装組織だったことは、多くの人間が指摘していることだと思われる。

そうしたことを「現地ではアメリカやヨーロッパがダーイシュを支援しているという
『陰謀論』も耳にした」とさらっと流してしまうのは、大いに問題があると思わざるを得ない。

ウクライナには、キエフ政府の空爆が実際に行われている現地に向かい、
自身も空爆の被害者となることで、ウクライナ政変のリアルを伝えようとする人間がいた。

それと比較すると本書は「命がけの取材」という割にはあまりにも……微妙である。
「5回の取材」と銘打っているが、5回は一般的に少ないほうなのだが……う~む。

もっと簡単に言えば、私たち日本人は少なくとも数年間は日本で暮らしていて、
ここ最近の安倍政権の政治も体験しているはずだが、それにも関わらず、
安倍を支持する人間とそうでない人間とが存在する。現場でさえ意見が分かれるのだ。

とすると、優秀な記者なら、なぜ意見が分かれるのか、その背景は何かを探らなければなるまい。
どちらの意見のほうがより正しいのかを提示しなければなるまい。
単に、現地の人間の言葉をそのまま伝えて満足するようではいけないだろう。

この著者は一体どういった立場の人間に評価されているのかなと軽く調べてみたところ、
案の定、アメリカの軍事干渉を支持し、アサド政権の崩壊を望む人間に広く好かれていた。

本当は「穏健派」の反体制派が使用したのに政府軍が化学兵器を使用したと説く人とか
アメリカのプロパガンダ機関、ラジオフリーシリアの放送を情報源とするジャーナリスト()とか。

ついでに説明すると、ラジオフリーシリアというのはアメリカのCIAが支援して
2004年に設立したラジオ局で、アメリカのロビイスト集団が母体となるシリア政党、
Reform Party of Syriaが所有者となっている。ちなみにRPSのリーダーはアメリカ人だ。

その目的は
"in order to 'educate the Syrian public on issues of democracy,
 freedom and the cessation of violence',"
(シリア国民に民主主義や自由の論点、暴力の中断を教育させる)であり、
ラジオ・フリーヨーロッパの
「事実の情報と思想を広めることにより、民主的な価値と制度を促進するや
ラジオ・フリーアジアの
「海外の聴取者に正確・客観・公正的な、アメリカと
 世界のニュース及びにその関連情報を放送し、以て自由民主化事業を促進・強化させる」
と似たり寄ったりだ。

フリーヨーロッパは元々、冷戦時にCIAが資金を提供していたプロパガンダ機関であり、
フリーアジアもまた、中国や北朝鮮などの社会主義国家の崩壊を目的に作られたものである。

当然、フリーシリアもシリアの政党のメディアのはずなのに、
局自体はトルコにあったり、イランとアメリカとの関係改善を非難したり、
サウジアラビアを擁護したりとまぁわかりやすいほど向こうのタカ派に喜ばれる記事を書いている。

こういうメディアを信用するようなジャーナリスト()に絶賛される記者および作品が
本書であるわけで、わざわざ金を出して買うぐらいならRFSのフェイスブックを読んだほうが良かろう。

もっとも、本書は無茶苦茶悪い本というわけではない。
しかし、その中途半端さがかえって問題があると私は思う。

つまり、なまじ「中立」に書いているために、右翼だけでなく左翼にも
自分が勉強したという錯覚を与えてしまうのではないか
と危惧している。

そういう意味で本書は薬にはなりそうにないが、読みようによっては
毒になりそうなものであり、読まないにこしたことはないのではと感じる次第である。


最新の画像もっと見る