ミホんち

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今週の一冊

2007-01-23 20:36:08 | 本の話
 ただいまおっちゃんが読んでます。ご希望の方はおっしゃってちょ。

「散るぞ悲しき」  梯 久美子

  「硫黄島からの手紙」はただいま全国の映画館で上映が続いているが、その中で渡辺謙が演じる陸軍中将栗林忠道が家族に書き送った手紙を元に梯久美子によって書かれたノンフィクション作品である。

 梯久美子がペンを取ることとなったきっかけは、たまたま目にした栗林忠道の辞世の句の中にあった「国のため、重きつとめを果たし得で、矢弾(やだま)尽き果て散るぞ悲しき」という一首。当時の帝国軍人が「悲しき」などという女々しい言葉を使うことは大変まれであった。現に、この辞世の句の「散るぞ悲しき」の部分は、大本営部により「散るぞ口惜し」と変えられて新聞に発表されたのだ。栗林の「散るぞ悲しき」思いとはどんな思いなのかと訪ね歩き始める。

 栗林は、戦場からまめに妻子に宛てて心細やかな手紙をしたためていた。自分自身水一杯を飲むのも苦労する戦地にありながら妻のアカギレを思いやり、出征前に直して出かけられなかった勝手口の隙間風を気にかけ、子供たちの将来を案ずる手紙を何通も書き送る。

 たこちゃん元気ですか?(注:末娘たか子)
お父さんが出発の時、お母さんと二人で御門に立って見送ってくれた姿が、はっきり見える気がします。
それから、お父さんはお家に帰って、お母さんとたこちゃんを連れて町を歩いている夢などを時々見ます。


 本当に普通のどこにでもいるお父さんである。これが戦場から出されていることを除けば、出張先から娘に出す絵葉書の文面のようだ。栗林に限らず、数多くの我が子に宛てた手紙は可愛らしく美しいものに目を向けた優しいものが多かった。むろん、検閲による制限があったせいもあろうが、そう書くことで彼ら自身が島での過酷な毎日を生きる糧となったのだろうことは想像にかたくない。

 長くなるけれど、陸軍中尉江川正治が綴った手紙をご紹介したい。

 みなさん そろっておげんきですか。おとうさまも せっせと まいにち へいたいさんのおつとめをしています。
 ここには めじろという ことりがたくさんいます。うぐいすににたことりで めのふちが しろいからめじろといいます。
 だいぶんまえに へいたいさんが うまれたばかりのめじろをつかまえて かごにいれ きの したえだにつりさげました。
まいにち あさからばんまで おやどりが おいしいたべものを もってやってきて かごのそとから たべさせておりましたが あかちゃんは みるみるおおきくなり おやについて なきまねています。
三にんも おかあさまの おっしゃることを よくまもって めじろのこどもに まけないように おりこうにならねばなりませんね。
           へいたいの おとうさま


 三だけが漢字であとは全部ひらがなで書かれた手紙。8歳・6歳・4歳の幼い子供たちがお座敷で頭を寄せ合って読む姿が目に浮かぶ。何度読んでも読んでも涙が出てならん。本当に優しい優しいおとうさまの手紙。散っていく命を口惜しいと詠まずに、悲しいと詠ったのは、残すものたちへの限りない優しさではなかろうか。
 
コメント
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