ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

雪中の狼

2011-04-13 23:35:16 | 獣害問題
 ネット上ではオオカミに人間が襲われた事例はあまり見つからない(梨の探し方のせいかもしれません)のですが、ネット上でも閲覧できる数少ない資料の紹介です。

雪中の狼 二編 巻二

北越雪譜(ほくえつせっぷ)という江戸時代の書物からの狼害についての記述です。
場所は現在の新潟県魚沼市のあたりです。

ひとゝせ二月のはじめ、用ありて二里ぱかりの所へいたらんとす、みな山道なり。母いはく、山なかなれぱ用心なり、筒をもてといふ、実にもとて鉄炮をもちゆきけり。これは農業のかたはら猟をもなすゆゑに国許の筒なり。

このころから、獣害というのが身近かつ、山が危険であったということがうかがえます。ちなみに旧暦の2月ということで、人に危害を加える動物のうちクマは冬眠しており、イノシシも豪雪地帯には少ないので、鉄砲を持っていたのはオオカミ対策の色合いが強いのではないでしょうか。


やがて吾が村へ入らんとする雪の山蔭に狼物を喰ふを見つけ、矢頃にねらひより火蓋をきりしにあやまたずうちおとしぬ。ちかよりみればくらひゐたるは人の足なり。

村近くにオオカミがいたので鉄砲で撃って近づいてみれば、オオカミが人を食べていたということですね。これだけでもトラウマものでしょうが、家に帰るともっと恐ろしい出来事が待っていました。

家のまへの雪の白きに血のくれなゐをそめけり。みるよりますますおどろきはせいりければ狼二疋逃さりけり、あたりをみれば母はゐろりのまへにこゝかしこくひちらされ、片足はくひとられてしゝゐたり。妻は囱のもとに喰伏られあけにそみ、そのかたはらにはちゞみの糸などふみちらしたるさまなり。七ツの男の子は庭にありてかばね半ば喰れたり。妻はすこしいきありて夫をみるよりおきあがらんとしてちからおよばず、狼がといひしぱかりにてたふれしゝけり。

家に帰ると2頭の狼が逃げ出し、後には喰われた母、妻、息子がいたということです。食い散らかされたり、半ば喰われていたり相当凄惨であったことがうかがえます。唯一、娘だけが床下に逃げてたすかったとこの後にはあります。


おひおひあつまりきたり娘にやうすをたづねければ、囱をやぶりて狼三疋はせいりしが、わしは竈に火をたきてゐたりしゆゑすぐに床の下へにげ入り、ばゞさまと母さまとおとがなくこゑをきゝて念仏申てゐたりといふ。かくて此ありさまをいふぺき所へつげしらせ、次の日の夕ぐれ棺一ツに妻と童ををさめ、母の棺とニツ野辺おくりをなしけるに涙そゝがざるものはなかりけるとぞ。おもふにはゝが筒をもてといひしゆゑ、母の片足を雪の山蔭にくらひゐたる狼をうちおとして母の敵はとりたれど、二疋をもらしゝはいかに口惜かりけん

娘の証言によると窓(煙出し?)から3頭のオオカミが侵入してきて、娘はすぐさま床下に逃げて助かったようです。肉親が喰われる音を聞いていたという心境はいかばかりでしょうね。書いているこちらも気分が悪いです。村近くのオオカミが食べていたの母の足ということもここからわかります。
また、この後の記述には狼毒という言葉が出てきます。北越雪譜二編が出版されたのが1841年ということなので、このころには狂犬病が広まっていたのでしょうか?そこら辺の考察も面白いと思いますが、僕には人獣共通感染症の知識はないのでここで筆をおきます。

今回は試験的にBLOCKQUOTEで引用の形をとっています。わかりにくいという声が多いようなら今まで通りに戻します。
追記/足を喰われるところを妻と誤読していました。正しくは母です。謹んでお詫びします。

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2 コメント

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知ってるかもですが、 (C-D)
2011-04-18 21:53:36
ネット上で見られるオオカミによる被害について

「人食い」の項目の一番下にオオカミが載ってます。
http://big-game.web.infoseek.co.jp/facts/fact8.html

家畜への被害も
http://big-game.web.infoseek.co.jp/facts/fact15.html
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ありがとうございます (梨(管理人))
2011-04-20 20:45:21
訂正の件といいありがとうございます。そちらは知らなかったです。
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