ならなしとり

外来生物問題を主に扱います。ときどきその他のことも。このブログでは基本的に名無しさんは相手にしませんのであしからず。

一からの再導入より今あるものを大切に

2009-03-14 20:38:14 | 保全生態学
 今回は、再導入に関わるお金の話です。トキのようにすでに絶滅したものを再び再導入するにはお金が大量に必要です。一方、まだ野生で絶滅していない種の場合はそこまでお金がかかるということはないようです。ここではライチョウを例にしてトキと比較してみます。
 ライチョウは北半球北部に分布し、日本に棲むものは分布の南限に位置すると考えられています。日本のライチョウは主に北アルプスと南アルプスに生息しています。そして、これらの生息地に生息するライチョウは約3000羽と見積もられています。ヤンバルクイナが確か1000羽ほどですから単純計算でその3倍です。このように、数だけ見れば多そうにも見えるライチョウですが、実際は、生息地の分断、サルやシカの高山への進出、地球温暖化などで絶滅の危機にあります。レッドリストでは絶滅危惧II類、タンチョウと同じランクです。
 2005年にこうした状況を打開するため、ノルウェー産個体を使った繁殖ノウハウの確立、新たな施設、専門職員の雇用などを含め3200万円が必要という計画案が大町市に提出されました。しかし、大町市単独で予算を全額負担するだけのめどが立たず、国や県に資金援助を依頼したところ断られました(2006年3月の時点)。
 さて、ここでライチョウにかかるお金とトキにかかるお金を比較してみます。
ライチョウの保護ににかかるお金は中村 浩志 (著) 「雷鳥が語りかけるもの 」では3200万円、大町市ライチョウ保護事業計画策定委員会(ここの63ページ)では年間1000万円となっています。

>予算
飼育施設建設費および人件費を別と考え、飼育個体数や施設規模にもよるが、上記および以下に述べる飼育体制を整えるためには、年間1,000万円の経費は望まれる

 一方、トキの方は地球環境研究総合推進費をみると

>平成19年度実績(60,060千円)

となっています。ライチョウの約2倍ないしは6倍ですね。
トキでは1年だけで6006万円も使われてるのにライチョウのこの不遇っぷりはなんでしょう。トキにしてもそのすべてがトキだけに使われているわけではないでしょうが、やはり歴然とした差があります。1年にトキに使われるお金の2分の1でもライチョウに回せばライチョウは絶滅を回避できるかもしれないのです。
 このようにいったん絶滅した生物を再導入するよりも絶滅しかけている生物の保護の方がコストパフォーマンスでも優れているとは言えないでしょうか?トキの放鳥に喜ぶ人は絶滅から戻ってきた生き物のことだけでなく絶滅のがけっぷちにいる生き物のことにも思いをはせていただきたいです。

最新の画像もっと見る