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言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

中国における文民統制の弱体化傾向

2011-12-28 | 日記
リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.96 )

春原 習近平氏ら中国の次世代、いわゆる第五世代の指導者は「太子党」と呼ばれ、かつての党有力者たちの子弟になります。日本流に言えば、「政治の世襲」であり、「二世議員」となるわけで、これは日本でも今や大変な批判の目に晒されています。中国でも人民解放軍の長老たちはこうした「太子党」に対して十分に敬意を持たず、それだけに軍へのシビリアン・コントロール(文民統制)に不安材料が出てくるという分析もあります。

ナイ 私が勤めるハーバード・ケネディ・スクールで数年前、人民解放軍の大佐クラスを数人招いて、セミナーを開催したことがあります。第一に軍部には軍部独自の利害があり、それはどの国の軍組織にも言えることです。そして彼らは常に最悪のケースについて分析を重ねています。中国人民解放軍もその例外ではなく、彼らもその方向に進んでいるのでしょう。
 一方でハーバードにやってきた大佐たちと話をしてみて大変驚いたことを覚えています。彼らの考えは皆、バラバラで意見も異なっていたからです。そのうちの一人は私に近付いてきて、こう言いました。「自分の子供たちには民主主義体制下での生活をさせてあげたい」と。あの時は本当に驚きました。

アーミテージ 確かに二〇一二年には権力移行があり、胡錦濤、温家宝といった現在の指導者は第一線から退きます。ただ、胡錦濤氏についてはその後も党中央軍事委員会のトップに留まるのではないかと思っています。小平氏と同じパターンですね。そうすることで影響力を保持するわけです。しかし、その場合でも胡錦濤氏は人民解放軍の指導部との関係をさらに発展させなければなりません。そのためには胡錦濤氏は軍人、特に将軍たちがしようとすることを止めたりはしません。そして、それはつまり将軍たちの影響力が増すということです。

春原 その種の将来予測に対して、米国内に懸念はないのですか?

アーミテージ もちろん、あります。私は懸念しています。心配(Worry)ではなく、懸念(Concern)です。我々の(マレン)統合参謀本部議長もかつて、中国に「関心」を持っていましたが、今は「懸念」に変わっています。というのも誰も、恐らく中国人も含めて、彼らが十年後、十五年後にどうなっているのかわからないからです。
 少し前、米国の空母キティ・ホークが嵐を回避するため香港への寄港を求めましたがこれは拒否されました。その前には中国は人工衛星の撃墜実験を強行しました。あの時、人民解放軍は北京の文民指導部にきちんと相談し、許可を取っていなかったのではないか、という見方がありました。それに対して、私の答えは「いや、そんなことはない」でした。もちろん、軍部は文民指導部に報告していました。ただ、十分にというか完全には報告していなかった。たとえば、キティ・ホークの件ですが、彼らは北京に対して「香港への寄港は認めない」と言ったのでしょう。ただ、ひどい嵐の場合は敵であろうと味方であろうと港への立ち寄りを認めるという慣行があることまでは説明しなかった。これは海の男たちの間で過去数百年も守られている慣行であるにもかかわらず、です。
 人工衛星撃墜で言えば、胡錦濤主席に「米国が行ったように我々も衛星撃墜実験を行います」とは言ったでしょう。もちろんですとも! しかし、その実験によって四万個もの破片が宇宙空間にデブリ(宇宙ゴミ)として浮遊するとまでは言わなかった。

ナイ 中国の文民は今も軍部をコントロール下に置いていると思いますが、人民解放軍はとても強い圧力団体でもあります。加えて、中国のシステムというのはとても透明性が低い。だから往々にして、文民側が知らないことも軍部がやってしまうのです。たとえば、人工衛星の撃墜実験について軍部は中国外務省には事前通達はしていなかったと言われています。実験後、外務省は世界に説明するため、全容把握に躍起にならざるを得なかった。このケースでは人民解放軍が文民の統制下にはなかったと言えるでしょう。胡錦濤国家主席が撃墜実験を知っていたかどうかまではわかりませんが、明らかに外務省は知らなかったということです。


 中国人民解放軍の長老たちは太子党に対して十分に敬意を持っていない。そこで、軍へのシビリアン・コントロール(文民統制)に不安があるという分析がある。おそらく胡錦濤は影響力を保持するために、党中央軍事委員会のトップに留まる。そして彼は軍人、特に将軍たちがしようとすることを止めたりはしないはずである。したがって今後、軍部の影響力が増すと予想される、と書かれています。



 今回は、米国の専門家の見かたを「示す」目的で引用しています。「引用する」ことそのものに意義があると思います。

 ですが一応、私の意見を書きます。



 まず、「中国人民解放軍の長老たちは太子党に対して十分に敬意を持っていない」という点についてですが、

 「太子党の絆の強さの秘密」でみたように、太子党の人々も「苦労」してきており、たんなる「二世」とは異なります。

 しかし、「もっと苦労してきている」軍の長老たちからみれば、太子党の人々の「苦労」などは苦労のうちに入らず、十分な敬意を持ちにくい、というのはわかる気がします。

 とすれば、「軍へのシビリアン・コントロール(文民統制)に不安がある」という分析には、十分な根拠があると思います。



 次に、現状について、たとえばキティ・ホークの寄港の件や、衛星撃墜実験などの際に、北京の最高指導部が軍の動きを「完全には」掌握していなかった、という点については、

 私には(情報を持っていないので)わかりません。

 しかし、「まったく知らなかった」のでもなく、「意思疎通が完全にとれていた」のでもない、という米国側の分析は「正しい」のではないかと思います。いかにもありそうな話だと思います。



 次に、「おそらく胡錦濤は影響力を保持するために、党中央軍事委員会のトップに留まる」という点についてですが、

 私も同意見です。これについては、「胡錦濤の幹部人事」などに詳しい記述があります。



 最後に、「胡錦濤は軍人、特に将軍たちがしようとすることを止めたりはしないはずである。したがって今後、軍部の影響力が増すと予想される」という点についてですが、

 これは鋭い分析だと思います。

 私はこれには気がつきませんでしたが、おそらくアーミテージ氏の意見の通りになるでしょう。



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丹羽宇一郎駐中国大使は更迭すべきである

2011-12-27 | 日記
リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.95 )

アーミテージ そういえば、日本はビジネスマンである丹羽宇一郎氏を新しい駐中国大使として北京に派遣しましたね。この人事を私流に解釈させてもらえば、日本は中国に対して「経済問題だけに関心があります」というメッセージを送っているように思えます。もちろん、そうしたメッセージは正しいものではありません。

春原 丹羽大使人事は岡田克也前外相の肝いり人事だった、と日本では解釈されています。「脱官僚」人事の一環として、民間の大物財界人を起用するという意味です。

アーミテージ 知っています。私が言わんとしているのは、中国がこの人事をどのように解釈するかということです。「日本は政治にも安保にも関心はなく、ただ、経済だけを気にかけている」という風に読み取るということです。


 丹羽宇一郎氏を駐中国大使に起用したのは間違いである。なぜなら中国に対し、「日本は政治にも安保にも関心はなく、ただ、経済だけを気にかけている」という印象を与えるからである、と書かれています。



 私も同じことを思っていました。

 元ビジネスマンを大使に据えれば、当然、アーミテージさんが述べておられるような印象を中国に与えます。

 また、尖閣諸島沖漁船事件での丹羽大使の対応には「頼りなさ」が感じられました。この点でも、この人事は失敗だったと思います。

 さらに、丹羽大使は中国に対し、「台湾にも友人がいる」ことを理由に挙げて、日本は台湾との関係を大事にすると述べておられましたが、「丹羽大使の個人的な友人関係」や「個人的な感情」を外交に持ち込むなど、論外だと思います。丹羽大使は大使としてふさわしくないと思います。

 丹羽大使は更迭すべきだと思います。



 なお、誤解を避けるために書き添えますが、私は「日本は台湾を相手にするな、中国を大事にしろ」と主張しているのではありません。台湾を大事にするにしろ、台湾を切り捨てるにしろ、「個人的な友人関係や感情で判断してはならない」と主張しているのです。

 つまり、「台湾にも友人がいるけれども、国益のために台湾を切り捨てる」であるとか、「台湾人よりも中国人の友人が多いけれども、国益のために(中国との関係が悪化しても構わないから)台湾を大事にする」であるとかのように、国益を中心として考えるべきだ、と私は言いたいのです。

中国による脅威と米国の対抗戦略

2011-12-27 | 日記
リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.89 )

春原 ナイ教授は対中戦略の基本として、国際社会に関与させる外交努力を続けつつ、予見不可能な脅威に対するヘッジも怠らないという「ヘッジ&インテグレーション(Hedge & Integration)」を提唱していますが、ここでは特にその「ヘッジ」の部分についてお聞きしたいと思います。

アーミテージ 日本だけでなく、米国も被害を受けるであろう「脅威」として、まず挙げられるのがサイバー攻撃です。次いで、我々の戦力を(アジア太平洋地域から)隔離するような兵器群があります。中国は我々の空母を遠ざけるための特別な弾道ミサイルも保有しています。これを我々は「エリア接近否定能力(Area Access Denial Capability)」と呼んでいます。第三の脅威は、中国が一九七四年に犯した南沙諸島への侵攻と同じようなことをやろうとしている点です。
 だから、今後、我々が取るべき対策はまず、サイバー攻撃への防御を強めること。同時にサイバー攻撃の能力も高めます。次に無人(攻撃機の)技術開発、そして兵器群の迅速な搬送・配置能力向上も必要です。最後に水陸両用の上陸作戦能力も向上させる必要があります。

ナイ 軍隊組織というものは常に「最悪のことが起こったら、どう対応するか」という考えに基づいて行動します。国を守ることが職務であり、その観点に立って最悪に備えるのです。「もし、台湾が一方的に独立を宣言したら、どうするか」という前提に立って、中国は弾道ミサイルの保有量を増やし、かつADZの設定に動いている。それは驚くことでもありません。

春原 このADZ設定という考え方は何を背景としているのでしょう? 台湾奪還か、それともアジア地域に限った覇権主義ですか、あるいは地球規模での覇権主義なのでしょうか?

ナイ 中国はまだ、地球規模での覇権を考えるには至っていないと思います。ただ、東アジアでより大きな自由が欲しいのでしょう。

春原 仮にそうだとしても、日本は中国が「自由に振る舞いたい」と考える域内に位置しています。

ナイ ですから、米国はアジア太平洋地域に主要な海軍戦力を維持しなければなりません。同時に日本と韓国に陸上戦力を堅持する必要もあります。

春原 だからこそ、沖縄の米海兵隊や横須賀の米第七艦隊は重要だということですね。

ナイ はい、そうです。

春原 宇宙空間はどうでしょう。中国は先に人工衛星の撃墜実験を行い、日米両国などに「日米両国の偵察衛星などすぐに壊すことができる」というメッセージを送っていますが……。

アーミテージ もちろん、宇宙も大事です。その意味では先に日本の国会で宇宙開発の道を一層、大きく拓いたことは大変結構なことだと思っています。宇宙については今、いわゆる「地球規模での共用財」という考え方があるのですが、実際には中国が我々に対して攻撃的になれば、彼らは我々から「視覚」を奪おうとするでしょう。

春原 宇宙、およびサイバー空間における安全保障について、ナイ教授はどうお考えでしょうか?

ナイ 宇宙についてはまだ、米国に一日の長があります。もちろん、中国も日々、この分野を強化していて、それを誇示していますが。サイバー空間はとても興味深い分野です。そして、ここでも中国は急激に進化しています。サイバー空間での「軍備管理」などは難しいかもしれませんが、彼らが行っている行動はとても受け入れられるものではないということをはっきりと伝えなければなりません。

春原 サイバー空間について中国側から何か前向きな反応はありますか?

ナイ あまりありません。ただ、我々もサイバー空間における安全保障という側面をまだ、理解し始めたばかりです。ちょうど、一九五〇年代に核兵器の意味を理解し始めたように。だから、米中双方にとってこの分野が意味するところを学ぶ時間は多少なりとも必要でしょう。中国によるサイバー攻撃について、日本の反応はどのようなものですか?

春原 米国ではホワイトハウスやペンタゴン(国防総省)が毎日のように中国からの攻撃にさらされていて、とても関心が強まっていると聞いていますが、日本ではまだ、そのレベルにまではなっていません。ただ、さきほども触れた尖閣諸島付近での中国漁船と日本の海上保安庁の巡視船との衝突事故の後、それと思われる「事件」も散見されましたが。


 中国による「脅威」として、サイバー攻撃、「エリア接近否定能力(Area Access Denial Capability)」を構成する兵器群(=米国の空母を遠ざけるための特別な弾道ミサイルなど)、南沙諸島への侵攻と同じようなことをやろうとしている点が考えられる。したがって、サイバー攻撃への防御を強めつつサイバー攻撃の能力も高めること、無人(攻撃機の)技術開発、兵器群の迅速な搬送・配置能力向上、水陸両用の上陸作戦能力向上などの対策を行う必要がある。また、周辺に米国の陸上・海上戦力を保持する必要がある。宇宙空間も大事である、と書かれています。



 今回の引用は、米国の考えかたを示すことが目的です。

 米国の考えかたは、要するにサイバー空間、宇宙空間など、あらゆる分野で中国を抑え込む(または対抗する)、というものです。



 これはすなわち、「宇宙は次の平滑空間たりうるか」や「覇権を動かす空間革命」で引用した『超マクロ展望 世界経済の真実』の著者ら(水野和夫・萱野稔人)の考えかたが間違っていることを示しています。

 とくに、宇宙空間は覇権を決定づける要素にはなり得ないという点に関しては、著者らの意見は完全に間違っているといってよいでしょう。(逆にいえば、今回の引用は私の批判・意見が正しかったことを示しています)



 日本人学者の意見は「あまりにものん気」で、「あまりにも非現実的」です。その原因はおそらく、戦後、数十年間も日本は国防・安全保障を真剣に考えてこなかったからだと思われます。

 米軍がいたからこそ、これまではそれで済んだのですが、より「対等な日米関係」を構築するために、そういう時代はそろそろ終わりにしなければならないと思います。

中国が「核の先制不使用」を公言する背景

2011-12-26 | 日記
リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.84 )

春原 中国は「核の先制不使用」を公言していますが、これをどう捉えていますか?

ナイ 「核の先制不使用」を証明するのはかなり難しいです。いわば、言うのは簡単ですが、それをどうやって見分けるのでしょうか。それに中国の核戦力はまだ、小規模ですしね。

春原 大陸間弾道ミサイルなど核運搬システムの数で三百から四百基ぐらいでしょうか。

ナイ ええ、ですから中国にとって「核の先制不使用」という選択はありえないのです。米国は(仮に先制攻撃を受けても)大規模な反撃能力を有していますが、中国の軍事ドクトリンは「先制攻撃に十分な核兵器を持ち合わせていないから、第二次攻撃に必要なだけの兵器を保持しなければならない」というものなのです。

春原 「大量報復戦略」とか「柔軟対応戦略」とか言われる核軍事ドクトリンのことですね。

ナイ そうです。

春原 中国による「核の先制不使用」宣言について、この問題の大家であるウイリアム・ぺリー元国防長官は「冷戦時代、ソ連も『核の先制不使用』を何度も口にしていたが、冷戦後に明らかになった資料では彼らが常に考えていたのは『核の先制使用』に基づく軍事ドクトリンだった」と述べています。「先制不使用」という言葉の空虚さを指摘したものだと思うのですが、日本の一部にこの「先制不使用」をナイーブに信奉する空気があるのも事実です。

アーミテージ ご自分の歴史を振り返ってみて下さい。真珠湾攻撃のことを。一体、誰が「これからお前を攻撃するぞ」と言うのですか。そんなもの(「核の先制不使用」宣言)、信用できるはずがないでしょう。何もないよりはましかもしれませんが。

ナイ 先制攻撃を仕掛ける場合、それが核ミサイルのサイロ(収納庫)であれ、ミサイルそのものであれ、我々は必ず破壊できるように一ヵ所に対して二発の核爆弾を使います。そして、米国はそれを実行できるだけの兵器を保有しています。しかし、中国にはこの「二対一(Two to One)」の原則を守るだけの兵器がありません。だから、中国は「核の先制不使用」と言うのです。その理由は先制攻撃を仕掛けるだけの核戦力を持っていないからです。冷戦時代、米国内では地上配備の核ミサイルにソ連が先制攻撃を仕掛けてくる可能性も取りざたされていました。しかし、中国にその能力があるとは思えません。

アーミテージ だから、我々は「核の先制不使用(No First Use)」という言葉を使い、「非先制攻撃(No First Strike)」とは言わないのです。もし、敵ミサイルがこちらに向かって飛来してくるのを確認したならば、我々は最初に(核で)攻撃します。この言葉づかいの違いにはいつも細心の注意を払っているのです。

春原 つまり、「自分たちは最初には使わないが、結果的には最初に引き金を引いたあなた方が先に核攻撃を受けることになるぞ」という意味ですね。数年前、ナイ教授がワシントンでの講演で「核の傘」について質問を受けたことがありましたね。つまり、「中国が大阪に核爆弾を落としても米国はただちに報復核攻撃には打って出ないのではないか」と。
 質問者の趣旨は「仮に米国が北京に核攻撃を仕掛けたら、中国はロサンゼルスに核爆弾を落とす。それがわかっていて、米国は大阪のためにロサンゼルスを犠牲にしないのではないか」というシニカルなものでした。その時、ナイ教授は言下に「心配しなくても我々は即座に報復攻撃に出る」と言明したのが印象的でした。

ナイ ドイツ・ベルリンでの歴史を振り返ってみれば当時、ソ連がベルリンに侵攻し、占領するのではないかという声がありました。しかし、実際には四十年間も我々はベルリンを守ることができました。つまり、中国がロサンゼルスに脅しをかけるというリスクを取らない、ということではないのです。

春原 「核の傘」というのは極めて心理的な要素も大きいですから、責任ある人間の言葉が大きいのです。そうでなければそれは一瞬にして「張り子の虎」になってしまうことでしょう。


 中国は「核の先制不使用」を公言しているが、信用してはならない。冷戦時代のソ連も「核の先制不使用」を公言していたが、実際には「核の先制使用」を考えていた。米国の戦略は「核の先制不使用(No First Use)」であって「非先制攻撃(No First Strike)」ではない。中国が日本(大阪)に核爆弾を落とせば、米国は即座に報復攻撃に出る、と書かれています。



 引用文中には、
中国は「先制攻撃に十分な核兵器を持ち合わせていない」。中国にとって「核の先制不使用」という選択はありえない。中国の軍事ドクトリンは「先制攻撃に十分な核兵器を持ち合わせていないから、第二次攻撃に必要なだけの兵器を保持しなければならない」というものである。
と書かれていると同時に、
中国は「先制攻撃を仕掛けるだけの核戦力を持っていないから」、中国は「核の先制不使用」と言うのです。
とあります。

 これは一見、矛盾しています。両者の関係のみならず、前者単独でも矛盾しています。「先制攻撃に十分な核兵器を持ち合わせていない」ならば、「核の先制不使用」ということになるはずだからです。



 そこで考えてみるに、これはおそらく、
  1. 米国では、「先制攻撃」を行う際には、確実に標的を破壊できるように1か所に2発の核爆弾を使うのが、軍事上の常識である。
  2. 米国は「先制攻撃」を行うに十分な核兵器を持っており、米国には「先制攻撃」を行う能力がある。
  3. ところが中国には、「先制攻撃」を行えるだけの核兵器がない。つまり中国は「核の先制不使用」を戦略とせざるを得ない。
 このような現実を前提として、
  1. もし米国が中国を核攻撃すれば、「たとえ中国が先に核を発射した場合であっても」中国の(核施設を含む)軍事施設は全滅してしまうが、
  2. 中国が「先に」米国を核攻撃したところで、米国の(核施設を含む)軍事施設は「論理的に」全滅しない。つまり米国には、中国に核で報復する能力が「確実に」ある。
  3. したがって中国は、「核の先制不使用」を戦略としているかぎり、永久に米国には勝てない。
という現実をも考えれば、状況は、次のように整理されます。


  1. 中国は「先に」核を使えば米国に負けてしまうが、
  2. 中国は「先に」核を使わなければ永久に米国に勝てない。



 中国は「先に」核を使っても、使わなくても、どちらにしても米国には勝てないわけです。逆にいえば、どちらであっても米国は負けない。

 しかし、どちらであっても中国に負けない米国は、(余裕があるために)「先に」核を使わないので、中国にしてみれば、自分が「先に」核を使わないかぎり現状維持ということになります。

 そこで中国は、米国に核を使わせないために、「核の先制不使用」を公言しているのだと考えられます。



 ここでの要点は、米中両国が保有している核兵器の「数」です。

 上記は、引用部分にも明示されているように、中国の核が「三百から四百」であることが前提になっています。中国にとっては、(米国が核を使わないあいだに)「こっそり」核兵器の「数」を増やすことが重要課題となります。



 この観点からみて、興味深く、かつ「重要な」報道がありますので、引用します。



産経ニュース」の「中国の核弾頭は3000発?学生暴く 推計大きく上回る可能性」( 2011.12.5 08:15 )

 中国が保有する戦略核弾頭数は現在推計されている数をはるかに上回り、最大で3000発にも及び、米露両核大国が現在配備している数よりも多い可能性があるとする研究結果を米国の大学生グループが発表した。研究の報告書は公開前だが、米連邦議会では公聴会が開かれ、コピーを閲覧した国防総省のアナリストたちの注目を集めている。軍拡路線を突き進む中国の秘密の核戦力が暴かれたのか。

 米紙ワシントン・ポスト(WP)によると、この研究はジョージタウン大学(ワシントンDC)の学生たちが、国防総省の元高官で冷戦時代に共和党の政策スタッフとして核戦略研究に携わったフィリップ・カーバー教授(65)の指導で行ったもの。中国人民解放軍の戦略ミサイル部隊である第2砲兵部隊が掘った「地下の万里の長城」とも呼ばれる秘密のトンネル網について、363ページの報告書にまとめた。

 研究の基になる情報は、通常は中国軍関係者でなければ入手できない第2砲兵部隊が作成した400ページに及ぶマニュアル書や、インターネット検索大手グーグルの3D地図サービス「グーグル・アース」、軍事専門誌、中国のTVドラマなどから得たとしており、マニュアル書の解析を除くと、主に公開されている断片情報を集積・分析したという。国防総省の戦略担当者はWP紙に「報告書で示されている見解や推計について、機密情報に基づいてこれまで既知とされてきた事柄と照合中だ」と述べている。

 地下トンネルは核兵器を収容することが主目的とされる。カーバー教授は、2008年5月の四川大地震の報道で映し出された崩落した大地の状況や、当時、大量の核技術者が四川に動員された事実などから、秘密の地下トンネルの存在を確信。折に触れて指摘すると、09年12月に中国軍は公式にトンネルの存在を認め、距離はほぼ5000キロに及ぶことも明かした。

 中国が保有する戦略核弾頭数はこれまで、400発程度(うち実戦配備は200発弱)と推定されてきた。しかし、カーバー教授は「400発とすると、1発の核弾頭のために10キロ以上のトンネルを掘ったことになり、常識では考えにくい。諸情報も付き合わせると、最大で3000発保有している可能性がある」と推計している。

 中国の核戦略は、先制核攻撃を受けても、報復核攻撃によって相手に甚大な打撃を与える能力を確保することで先制攻撃を防ぐ「最小限抑止戦略」が基本になっている。中国は、米国のほぼ全土を射程に収める多弾頭の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風31A」などを保有しているが、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発が不十分なため、強力な反撃能力の生残性を高めるため、長大な地下トンネルを築いたとみられる。

 だが、保有弾頭数が3000発にも及ぶとなれば、現在米露両国の主導で進められている戦略核軍縮のスキームにほころびが生じかねない。冷戦時代にはともに1万発以上の戦略核弾頭を保有していた米露は今年2月、互いの配備戦略核弾頭を18年までに1550発以下に削減する新戦略兵器削減条約(新START)を発効させたが、1550の拠り所は「米露以外の核保有国が持つ弾頭数の総数をやや上回る数」というものだ。400発のつもりが3000発では、根底から概念が崩れ、米露が削減する中、核保有五大国で唯一、中国が核戦力を増強していることに批判が強まるのは必至だ。


 「中国が保有する戦略核弾頭数はこれまで、400発程度(うち実戦配備は200発弱)と推定されてきた」が、実際には「最大で3000発保有している可能性がある」と判明した。その最大の根拠は、「核兵器を収容することが主目的とされる」「地下トンネル」の長さである、と報じられています。



 これは将来の大量保有に備えて「地下トンネル」を長めに掘ったにすぎないのか、すでに「3000発」程度保有しているのか、定かではありませんが、

 中国が核兵器の「数」を増やそうとしているのは、間違いないと思います。



 (米国の安全保障問題の重鎮である)ナイ教授が「中国が日本(大阪)に核爆弾を落とせば、米国は即座に報復攻撃に出る」と明言された背景には、米中の核戦力の差があると思われます。それにもかかわらず、

 日本の反核団体は米国の核「保有」には批判の声をあげますが、なぜか(私の知るかぎり)中国の核「増強」には批判の声をあげません。これは、「核廃絶の「目的」」からみて、「おかしい」ですよね。

 日本の同盟国である米国の核「保有」ではなく、中国の核「増強」こそを問題視すべきではないでしょうか?



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台湾問題についての米国の考えかた

2011-12-25 | 日記
リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.75 )

春原 ところで米中関係と言えば、台湾問題ですが、最近の台湾情勢はひところに比べると随分、落ち着いているようにも見えますが、どうでしょう?

アーミテージ まだ、陳水扁氏が総統だった時、彼は私に「台湾が中国の一部になることは米国、そして日本の利益にかなっていると思いますか」と尋ねてきました。私が「いえ、そうは思いません」と答えると彼は「(日米両国は)それを止めなければならない」と畳みかけてきました。それに対して、私は「それは台湾の人たちが決めることです」と答えた。「確かに台湾が中国の一部になることは我々の利にはかなっていませんが、中国が武力を行使しない限り、我々は介入しません」と明言したのです。

ナイ 台湾情勢はだいぶ改善されました。馬英九氏が陳水扁氏に代わって総統になって以来、台湾が一方的に独立を宣言する可能性は減り、かつ馬政権は中国との両岸交流を経済、社会面で改善しました。それはすべて前向きな動きだと思います。

春原 台湾による一方的な独立宣言の可能性は、中国人民解放軍に軍備近代化の口実を与えていた側面もありますよね。

ナイ もし、台湾が一方的に独立を宣言していたら、中国は武力を行使していたと思います。だから、人民解放軍がそれを軍備増強の言い訳というか、論理としていたのは間違いありません。しかし、今は状況も改善し、事態は沈静化していると思います。

アーミテージ 長期的に見れば、中国は台湾問題について緊張を弱めていくでしょう。かつて中国に「あなた方の利益の核心はいずこにあるか」と問えば、「台湾、チベット、新疆ウイグル」と答えました。ところが、今は「チベット、新疆ウイグル、台湾」という順番になります。そのリストの最後には今、「南シナ海」も入るのですが。いずれにせよ、彼らがその順番を変えたのは過去二年でのことです。


 台湾問題について、台湾が中国の一部になることは米国の利益にはならないが、中国が武力を行使しないかぎり、米国は介入しない。長期的にみれば、中国は台湾問題について緊張を弱めていく。なぜなら中国にとって、台湾の優先順位は下がっているからである、と書かれています。



 台湾が中国の一部か否かについて、アーミテージ氏は「台湾の人たちが決めることです」と答えています。これが米国の考えかたなのでしょう。

 じつは、私も同じ考えかたをしています。



 日本では、「台湾の人たちが決めること」だと言いつつも、「台湾の人々は台湾は中国の一部ではないと考えている」はずだ、という前提が置かれているかのような意見がみられます。つまり、
  1. 台湾は中国の一部ではない、と主張したい。
  2. 台湾の人々は、台湾は中国の一部ではないと考えている。
  3. そこで、「建前として」台湾が中国の一部か否かは、台湾の人たちが決めることだと主張する。
といった構造です。

 このような主張をする人々が、台湾で「台湾は中国の一部だ」という声が強くなったときにどう考えるのか、すこし興味があります。彼らは、
  • 「台湾の人々が決めること」である以上、台湾は中国の一部である、と主張し始めるのでしょうか?
  • それとも、台湾の民意は本当の民意ではない、などの「建前」を持ちだして、台湾は中国の一部ではない、という主張を続けるのでしょうか?
 このような疑問を感じるのは、「台湾は中国の一部ではない」と主張している人々(日本人)には、「台湾は親日、中国は反日」という前提のもと、台湾を味方につけたい、中国の勢力を弱めたい、といった思惑が感じられるからです。シーレーン防衛のためにも、台湾は中国の一部であってはならない、という「日本の都合」が前面に出ているように感じられるのです。

 台湾人の多くが反日・親中になった場合にも、彼らは、台湾が中国の一部か否かは「台湾の人たちが決めること」だと主張するでしょうか?



 私には、「台湾が好き」だという人々(日本人)が、「本当に」台湾が好きなのかどうかについて、疑問があるのです。彼らは「本当に」台湾人の幸福を望んでいるのでしょうか?



 あなたが誰かに恋しているとします。当然、あなたはその人を「手放したくない」と思っています。あなたは、その人といつも一緒にいたい、と望んでいます。

 そのとき、相手が「ほかの人」を好きになったら、あなたはどうしますか?

 「本当に」愛していれば、別れますよね。自分の幸福ではなく、相手の幸福を優先するはずです。すくなくとも、私はそうです。



 台湾問題も、これと同じです。

 「本当に」台湾が好きなら、「本当に」台湾を大切に思っているなら、台湾の人々が「中国の一部になりたい」と望んだときには、当然、それを「肯定し、認めなければなりません」。

 たとえば、「台湾は日本の生命線!」というブログがありますが、私には、その背後に「台湾を日本のために利用しよう」という思惑があるのではないか、と思われてなりません。ブログ主の永山英樹さんは「親台」派のようですが、「本当に」親台なのか、やや疑問があります。



 なお、アーミテージ氏は、中国の優位順位が「台湾、チベット、新疆ウイグル」から、「チベット、新疆ウイグル、台湾」に変わったと述べています。これは意外な感じがします。にわかには信じがたい話です。

 中国はいまや、「南シナ海」のほか、「東シナ海」をも「核心的利益」に位置づけていますし、さらに進んで、「中国、沖縄県・尖閣諸島を「核心的利益」に位置付け」という報道や、「中国は「2012年の台湾統一」を目指している」という情報もあります。

 したがって、中国にとっての「台湾の重要度・優先順位」については、アーミテージ氏の話をただちには信用せず、疑いをもっておくべきだと思います。



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 「WHOによる台湾の呼称、「中華台北」と「中国台湾省」
 「中国人民解放軍総参謀長の発言(台湾問題)
 「台湾人の対日感情
 「「中国を特別扱いするな、台湾を特別扱いしろ」という「偏った」主張