リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.84 )
中国は「核の先制不使用」を公言しているが、信用してはならない。冷戦時代のソ連も「核の先制不使用」を公言していたが、実際には「核の先制使用」を考えていた。米国の戦略は「核の先制不使用(No First Use)」であって「非先制攻撃(No First Strike)」ではない。中国が日本(大阪)に核爆弾を落とせば、米国は即座に報復攻撃に出る、と書かれています。
引用文中には、
これは一見、矛盾しています。両者の関係のみならず、前者単独でも矛盾しています。「先制攻撃に十分な核兵器を持ち合わせていない」ならば、「核の先制不使用」ということになるはずだからです。
そこで考えてみるに、これはおそらく、
中国は「先に」核を使っても、使わなくても、どちらにしても米国には勝てないわけです。逆にいえば、どちらであっても米国は負けない。
しかし、どちらであっても中国に負けない米国は、(余裕があるために)「先に」核を使わないので、中国にしてみれば、自分が「先に」核を使わないかぎり現状維持ということになります。
そこで中国は、米国に核を使わせないために、「核の先制不使用」を公言しているのだと考えられます。
ここでの要点は、米中両国が保有している核兵器の「数」です。
上記は、引用部分にも明示されているように、中国の核が「三百から四百」であることが前提になっています。中国にとっては、(米国が核を使わないあいだに)「こっそり」核兵器の「数」を増やすことが重要課題となります。
この観点からみて、興味深く、かつ「重要な」報道がありますので、引用します。
「産経ニュース」の「中国の核弾頭は3000発?学生暴く 推計大きく上回る可能性」( 2011.12.5 08:15 )
「中国が保有する戦略核弾頭数はこれまで、400発程度(うち実戦配備は200発弱)と推定されてきた」が、実際には「最大で3000発保有している可能性がある」と判明した。その最大の根拠は、「核兵器を収容することが主目的とされる」「地下トンネル」の長さである、と報じられています。
これは将来の大量保有に備えて「地下トンネル」を長めに掘ったにすぎないのか、すでに「3000発」程度保有しているのか、定かではありませんが、
中国が核兵器の「数」を増やそうとしているのは、間違いないと思います。
(米国の安全保障問題の重鎮である)ナイ教授が「中国が日本(大阪)に核爆弾を落とせば、米国は即座に報復攻撃に出る」と明言された背景には、米中の核戦力の差があると思われます。それにもかかわらず、
日本の反核団体は米国の核「保有」には批判の声をあげますが、なぜか(私の知るかぎり)中国の核「増強」には批判の声をあげません。これは、「核廃絶の「目的」」からみて、「おかしい」ですよね。
日本の同盟国である米国の核「保有」ではなく、中国の核「増強」こそを問題視すべきではないでしょうか?
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春原 中国は「核の先制不使用」を公言していますが、これをどう捉えていますか?
ナイ 「核の先制不使用」を証明するのはかなり難しいです。いわば、言うのは簡単ですが、それをどうやって見分けるのでしょうか。それに中国の核戦力はまだ、小規模ですしね。
春原 大陸間弾道ミサイルなど核運搬システムの数で三百から四百基ぐらいでしょうか。
ナイ ええ、ですから中国にとって「核の先制不使用」という選択はありえないのです。米国は(仮に先制攻撃を受けても)大規模な反撃能力を有していますが、中国の軍事ドクトリンは「先制攻撃に十分な核兵器を持ち合わせていないから、第二次攻撃に必要なだけの兵器を保持しなければならない」というものなのです。
春原 「大量報復戦略」とか「柔軟対応戦略」とか言われる核軍事ドクトリンのことですね。
ナイ そうです。
春原 中国による「核の先制不使用」宣言について、この問題の大家であるウイリアム・ぺリー元国防長官は「冷戦時代、ソ連も『核の先制不使用』を何度も口にしていたが、冷戦後に明らかになった資料では彼らが常に考えていたのは『核の先制使用』に基づく軍事ドクトリンだった」と述べています。「先制不使用」という言葉の空虚さを指摘したものだと思うのですが、日本の一部にこの「先制不使用」をナイーブに信奉する空気があるのも事実です。
アーミテージ ご自分の歴史を振り返ってみて下さい。真珠湾攻撃のことを。一体、誰が「これからお前を攻撃するぞ」と言うのですか。そんなもの(「核の先制不使用」宣言)、信用できるはずがないでしょう。何もないよりはましかもしれませんが。
ナイ 先制攻撃を仕掛ける場合、それが核ミサイルのサイロ(収納庫)であれ、ミサイルそのものであれ、我々は必ず破壊できるように一ヵ所に対して二発の核爆弾を使います。そして、米国はそれを実行できるだけの兵器を保有しています。しかし、中国にはこの「二対一(Two to One)」の原則を守るだけの兵器がありません。だから、中国は「核の先制不使用」と言うのです。その理由は先制攻撃を仕掛けるだけの核戦力を持っていないからです。冷戦時代、米国内では地上配備の核ミサイルにソ連が先制攻撃を仕掛けてくる可能性も取りざたされていました。しかし、中国にその能力があるとは思えません。
アーミテージ だから、我々は「核の先制不使用(No First Use)」という言葉を使い、「非先制攻撃(No First Strike)」とは言わないのです。もし、敵ミサイルがこちらに向かって飛来してくるのを確認したならば、我々は最初に(核で)攻撃します。この言葉づかいの違いにはいつも細心の注意を払っているのです。
春原 つまり、「自分たちは最初には使わないが、結果的には最初に引き金を引いたあなた方が先に核攻撃を受けることになるぞ」という意味ですね。数年前、ナイ教授がワシントンでの講演で「核の傘」について質問を受けたことがありましたね。つまり、「中国が大阪に核爆弾を落としても米国はただちに報復核攻撃には打って出ないのではないか」と。
質問者の趣旨は「仮に米国が北京に核攻撃を仕掛けたら、中国はロサンゼルスに核爆弾を落とす。それがわかっていて、米国は大阪のためにロサンゼルスを犠牲にしないのではないか」というシニカルなものでした。その時、ナイ教授は言下に「心配しなくても我々は即座に報復攻撃に出る」と言明したのが印象的でした。
ナイ ドイツ・ベルリンでの歴史を振り返ってみれば当時、ソ連がベルリンに侵攻し、占領するのではないかという声がありました。しかし、実際には四十年間も我々はベルリンを守ることができました。つまり、中国がロサンゼルスに脅しをかけるというリスクを取らない、ということではないのです。
春原 「核の傘」というのは極めて心理的な要素も大きいですから、責任ある人間の言葉が大きいのです。そうでなければそれは一瞬にして「張り子の虎」になってしまうことでしょう。
中国は「核の先制不使用」を公言しているが、信用してはならない。冷戦時代のソ連も「核の先制不使用」を公言していたが、実際には「核の先制使用」を考えていた。米国の戦略は「核の先制不使用(No First Use)」であって「非先制攻撃(No First Strike)」ではない。中国が日本(大阪)に核爆弾を落とせば、米国は即座に報復攻撃に出る、と書かれています。
引用文中には、
中国は「先制攻撃に十分な核兵器を持ち合わせていない」。中国にとって「核の先制不使用」という選択はありえない。中国の軍事ドクトリンは「先制攻撃に十分な核兵器を持ち合わせていないから、第二次攻撃に必要なだけの兵器を保持しなければならない」というものである。と書かれていると同時に、
中国は「先制攻撃を仕掛けるだけの核戦力を持っていないから」、中国は「核の先制不使用」と言うのです。とあります。
これは一見、矛盾しています。両者の関係のみならず、前者単独でも矛盾しています。「先制攻撃に十分な核兵器を持ち合わせていない」ならば、「核の先制不使用」ということになるはずだからです。
そこで考えてみるに、これはおそらく、
- 米国では、「先制攻撃」を行う際には、確実に標的を破壊できるように1か所に2発の核爆弾を使うのが、軍事上の常識である。
- 米国は「先制攻撃」を行うに十分な核兵器を持っており、米国には「先制攻撃」を行う能力がある。
- ところが中国には、「先制攻撃」を行えるだけの核兵器がない。つまり中国は「核の先制不使用」を戦略とせざるを得ない。
- もし米国が中国を核攻撃すれば、「たとえ中国が先に核を発射した場合であっても」中国の(核施設を含む)軍事施設は全滅してしまうが、
- 中国が「先に」米国を核攻撃したところで、米国の(核施設を含む)軍事施設は「論理的に」全滅しない。つまり米国には、中国に核で報復する能力が「確実に」ある。
- したがって中国は、「核の先制不使用」を戦略としているかぎり、永久に米国には勝てない。
- 中国は「先に」核を使えば米国に負けてしまうが、
- 中国は「先に」核を使わなければ永久に米国に勝てない。
中国は「先に」核を使っても、使わなくても、どちらにしても米国には勝てないわけです。逆にいえば、どちらであっても米国は負けない。
しかし、どちらであっても中国に負けない米国は、(余裕があるために)「先に」核を使わないので、中国にしてみれば、自分が「先に」核を使わないかぎり現状維持ということになります。
そこで中国は、米国に核を使わせないために、「核の先制不使用」を公言しているのだと考えられます。
ここでの要点は、米中両国が保有している核兵器の「数」です。
上記は、引用部分にも明示されているように、中国の核が「三百から四百」であることが前提になっています。中国にとっては、(米国が核を使わないあいだに)「こっそり」核兵器の「数」を増やすことが重要課題となります。
この観点からみて、興味深く、かつ「重要な」報道がありますので、引用します。
「産経ニュース」の「中国の核弾頭は3000発?学生暴く 推計大きく上回る可能性」( 2011.12.5 08:15 )
中国が保有する戦略核弾頭数は現在推計されている数をはるかに上回り、最大で3000発にも及び、米露両核大国が現在配備している数よりも多い可能性があるとする研究結果を米国の大学生グループが発表した。研究の報告書は公開前だが、米連邦議会では公聴会が開かれ、コピーを閲覧した国防総省のアナリストたちの注目を集めている。軍拡路線を突き進む中国の秘密の核戦力が暴かれたのか。
米紙ワシントン・ポスト(WP)によると、この研究はジョージタウン大学(ワシントンDC)の学生たちが、国防総省の元高官で冷戦時代に共和党の政策スタッフとして核戦略研究に携わったフィリップ・カーバー教授(65)の指導で行ったもの。中国人民解放軍の戦略ミサイル部隊である第2砲兵部隊が掘った「地下の万里の長城」とも呼ばれる秘密のトンネル網について、363ページの報告書にまとめた。
研究の基になる情報は、通常は中国軍関係者でなければ入手できない第2砲兵部隊が作成した400ページに及ぶマニュアル書や、インターネット検索大手グーグルの3D地図サービス「グーグル・アース」、軍事専門誌、中国のTVドラマなどから得たとしており、マニュアル書の解析を除くと、主に公開されている断片情報を集積・分析したという。国防総省の戦略担当者はWP紙に「報告書で示されている見解や推計について、機密情報に基づいてこれまで既知とされてきた事柄と照合中だ」と述べている。
地下トンネルは核兵器を収容することが主目的とされる。カーバー教授は、2008年5月の四川大地震の報道で映し出された崩落した大地の状況や、当時、大量の核技術者が四川に動員された事実などから、秘密の地下トンネルの存在を確信。折に触れて指摘すると、09年12月に中国軍は公式にトンネルの存在を認め、距離はほぼ5000キロに及ぶことも明かした。
中国が保有する戦略核弾頭数はこれまで、400発程度(うち実戦配備は200発弱)と推定されてきた。しかし、カーバー教授は「400発とすると、1発の核弾頭のために10キロ以上のトンネルを掘ったことになり、常識では考えにくい。諸情報も付き合わせると、最大で3000発保有している可能性がある」と推計している。
中国の核戦略は、先制核攻撃を受けても、報復核攻撃によって相手に甚大な打撃を与える能力を確保することで先制攻撃を防ぐ「最小限抑止戦略」が基本になっている。中国は、米国のほぼ全土を射程に収める多弾頭の大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風31A」などを保有しているが、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発が不十分なため、強力な反撃能力の生残性を高めるため、長大な地下トンネルを築いたとみられる。
だが、保有弾頭数が3000発にも及ぶとなれば、現在米露両国の主導で進められている戦略核軍縮のスキームにほころびが生じかねない。冷戦時代にはともに1万発以上の戦略核弾頭を保有していた米露は今年2月、互いの配備戦略核弾頭を18年までに1550発以下に削減する新戦略兵器削減条約(新START)を発効させたが、1550の拠り所は「米露以外の核保有国が持つ弾頭数の総数をやや上回る数」というものだ。400発のつもりが3000発では、根底から概念が崩れ、米露が削減する中、核保有五大国で唯一、中国が核戦力を増強していることに批判が強まるのは必至だ。
「中国が保有する戦略核弾頭数はこれまで、400発程度(うち実戦配備は200発弱)と推定されてきた」が、実際には「最大で3000発保有している可能性がある」と判明した。その最大の根拠は、「核兵器を収容することが主目的とされる」「地下トンネル」の長さである、と報じられています。
これは将来の大量保有に備えて「地下トンネル」を長めに掘ったにすぎないのか、すでに「3000発」程度保有しているのか、定かではありませんが、
中国が核兵器の「数」を増やそうとしているのは、間違いないと思います。
(米国の安全保障問題の重鎮である)ナイ教授が「中国が日本(大阪)に核爆弾を落とせば、米国は即座に報復攻撃に出る」と明言された背景には、米中の核戦力の差があると思われます。それにもかかわらず、
日本の反核団体は米国の核「保有」には批判の声をあげますが、なぜか(私の知るかぎり)中国の核「増強」には批判の声をあげません。これは、「核廃絶の「目的」」からみて、「おかしい」ですよね。
日本の同盟国である米国の核「保有」ではなく、中国の核「増強」こそを問題視すべきではないでしょうか?
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