言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

ロシアは衰退しつつあるのかもしれない

2011-12-30 | 日記
リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.122 )

ナイ 付け加えれば、「BRICs」という括り方は間違っていると思います。なぜなら、中国、ブラジル、インドという興隆中の国々の中に唯一、衰退しつつある国、ロシアを入れているからです。

春原 一見すると、資源大国として世界で存在感を再び増しているはずのロシアを「衰退国家」だと断定される理由は何ですか?

ナイ ロシアに関する多くの統計を見て下さい。彼らの経済は資源頼みです。そして、人口構成も健康問題もひどい有様です。ロシア人男性の平均寿命は五十九歳ですよ。ほかの先進国では考えられません。日本人男性の平均寿命は七十八歳とか、それぐらいでしょう? それ一つとっても、ロシアの惨状がわかるではありませんか。

春原 そうした状況に危機感を覚えたメドベージェフ大統領は経済の質的転換に取り組んでいるわけですが。

ナイ 確かにメドベージェフ大統領は近代化を口にしていますが、政治的な腐敗があまりにも進んでいて、彼の目指す近代化を受け付けないでしょう。ですから、ロシアが自ら大転換を決断しない限り、ロシアの没落は今後も続きます。だから、私は「BRICs」という言葉に意味はないと言うのです。

春原 つまり、ロシアは大胆な国家再構築に踏み出さない限り、国際社会の中では「衰退国家」として位置付けられる、と見ているわけですね?

ナイ その通りです。エネルギー資源と中央政府の統制に乗っかり過ぎています。たとえば、メドベージェフ大統領は「(ロシアで)シリコン・バレーをやろう(ハイテク産業地帯を創出するという意味)」と声を上げていますが、彼はそれを政府主導でできると思っている。しかし、(米国の連邦政府による干渉を一切、受けないで自律的に発展した)シリコン・バレーの生い立ちはそんなものとはかけ離れたものなのです。


 世間では「BRICs」などという言葉が使われているが、ロシアは衰退国家である。したがって「BRICs」という括り方は間違っている、と書かれています。



 ナイ教授が「ロシアは衰退しつつある」という根拠は、
  1. ロシア経済は資源頼みである。
  2. ロシアの人口構成はいびつである。
  3. ロシアの健康問題もひどい有様である。ロシア人男性の平均寿命は五十九歳であり、これはほかの先進国では考えられない。
  4. ロシアでは政治的な腐敗があまりにも進んでいて、近代化が困難である。
  5. ロシア経済は「政府主導」である。
といったところにあるようです。



 ロシアの人口構成について、

社会実情データ図録」の「ロシアの人口ピラミッド(2001年推計)

を見ると、たしかにいびつです。しかし、それは日本も似たり寄ったりではないでしょうか。



 また、資源価格の上昇が予想されている現状では、「ロシア経済は資源頼みである」といわれても、それが「ロシアの衰退」とどう結びつくのか、私には疑問なしとしません。それどころか、逆に資源を輸入している日本のほうが「資源価格の上昇がもたらす交易条件の悪化」という問題を抱えています。

 したがってこの要素についていえば、「ロシアは成長国家であり、日本は衰退国家である」と考えるのが自然であるようにも思われます。



 しかし全体として、ナイ教授の考えかたも成り立ちうると思います。

 したがって、あまり「BRICs、BRICs」などと言わないほうがよいのかもしれません。



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 「交易条件の悪化がもたらす所得の低下
 「天然資源は成長の限界となるか

ロシアにとっての極東問題

2011-12-30 | 日記
リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.119 )

春原 ところで、六ヵ国協議におけるロシアの狙いとは何だと思いますか。

ナイ 旧ソ連が崩壊して以来、ロシアの太平洋に対する関心はほとんどなくなっていました。欧州と中央アジアにのみ、目を向けていたのです。裏を返せば冷戦末期、ウラジオストクに拠点を構える極東艦隊を含め、ソ連が東アジアで一大勢力になるかもしれないという懸念があったのです。しかし、実際にはそれは起こらず、ロシアは欧州問題と中央アジア問題にかかりきりになりました。この間、東アジアではほとんど目立った役割は果たしていません。

春原 二十一世紀の初頭から中盤を見渡した場合、ロシアと中国の関係が悪化していくことは避けられない。だから、今のうちからロシアは日本や韓国との関係改善に動き出すのではないか、という見方もありますね。

ナイ ええ、確かにそうですね。長期的にはロシアの中国に対する懸念は増す一方でしょう。短期的には中国と密接な関係にあるというフリをするでしょうがね。二〇一〇年の春先、米戦略国際問題研究所(CSIS)で日米ロ三ヵ国による専門家会合を開催したのですが、その場でもロシア側は明らかに中国のことを心配していました。そうだとすれば、日ロ関係がいずれ好転していく可能性もありますね。

アーミテージ ロシアはただ、参加しているだけでハッピーでした。ご存じのようにロシアは「ユーラシア(Eurasia)」なのですが、歴史的に見るといつもその前半部分(Eur=Europe)に傾いています。つまり、その目はいつもアジアではなく、欧州に向いているのです。だから、彼らは我々が(六ヵ国協議への参加を)依頼した際、身ぶるいし、かつ得意に感じたのです。まあ、ロシアは本来、アジアでも大きな位置を占めているはずなのですがね。

(中略)

春原 ロシアにとって、中国は潜在的な敵性国家となっていくでしょうね。一方、日本はそうは映らない。

ナイ 今のところ、ロシアはそうしたことにあまり注意を向けていませんが、ひとたび目を向ければ、あなたの見立てが正しいということになると思いますよ。


 ロシアの目は、いつもヨーロッパに向いている。長期的にみて、中国はロシアにとって、潜在的な敵性国家になっていく、と書かれています。



 歴史的にみて、ロシアの目はいつもヨーロッパに向いている、というのはその通りだと思います。

 しかし、そのことがなぜ、米国が(ロシアに)六ヵ国協議への参加を依頼した際、ロシアが得意に感じることになるのでしょうか?

 この部分が、私にはわかりません。



 ロシアにとって極東は「欧州に比べれば」重要ではないので、ロシアは「積極的には」関心がなかったけれども、アメリカから参加を依頼されたことで、「大国としての自尊心」をくすぐられ、「ある種の名誉」を感じたということでしょうか?

 いまのところ、私には、これしか思いつかないのですが、

 そうだとすれば、ロシアは「北朝鮮問題には、積極的には関わらない」と考えられます。



 ところで、引用部分から考えるに、米国は「長期的にみて、中ロ関係は悪化する」と考えているようです。

 しかし、中ロ関係最大の懸案事項だった領土問題はすでに解決しています。とすれば、中ロ関係が悪化したところで、日ロ関係、あるいは日中関係に比べれば、中ロ関係は良好なままなのではないか、と考えられます。

 引用文中には、
二十一世紀の初頭から中盤を見渡した場合、ロシアと中国の関係が悪化していくことは避けられない。だから、今のうちからロシアは日本や韓国との関係改善に動き出すのではないか
とありますが、

 そもそも、ロシアが本当に日ロ関係を改善しようとしているならば、北方領土への視察などは行わなかったはずです。

 したがって、この部分、私には疑問が残ります。



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