言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

中国は分裂しない

2011-12-28 | 日記
リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.101 )

春原 中国でこの先も共産党一党支配体制が続くのかどうか不透明な部分もあります。米国内には「いずれ、旧ソ連のように統一国家としては崩壊し、いくつかの国家に分断していくのではないか」という見方すらありますが、どうでしょう?

アーミテージ そうしたことが中国に起こるとは思いません。仮に中国が「連邦制」のようなものを志向するのであれば、それはそれで構いません。しかし、彼らは基本的に漢民族を中心とした中華国家であり、実際、人口の九八%は漢民族系です。客家(ハッカ)もウイグル人もチベット人もとても数としては小さいのです。その事実は中国が今後も「統一国家」であり続けるという見方を裏付けています。

ナイ 私もその見方(中国の分裂と連邦制)には同意しません。二〇一〇年初め、ベトナムを訪問した時のことですが、ベトナム人は「中華合衆国」の一部になることなど毛頭、望んでいませんでした。ご存じのようにかつて、ベトナムは中国の一部でしたが、そのベトナムですら、そうなのです。アジアのいかなる国も中国に支配されることなど望んでいないと思います。

(中略)

ナイ 今後、十年、あるいは二十年という将来を予測した場合、中国が一層、力をつけるのは間違いありません。ただ、一方で状況が悪くなる可能性もあります。つまり、政治的に行き詰まる可能性があるのです。経済成長は鈍化し、軍事支出はかさむことでしょう。日中関係で言えば、すでに東シナ海の海底ガス田開発を巡り、日本と中国はもめていますが、今後はますます日本がやろうとすることに中国は「ノー」と言い、さらに日本を脅すことでしょう。

春原 中国の経済成長についてはこれまでも議論していますが、八%という高い数字を今後二十年間も続けていくのは不可能に近いと思います。

ナイ 経済成長率は間違いなく先細りとなっていくでしょう。日本も一九六〇年代後半には年率一二%を誇っていましたね。どの国も豊かになれば、成長率は鈍ります。それは中国も例外ではないでしょう。一人当たりの年間平均所得が一万ドルから一万二千ドルを超えた時点で経済成長は減速を強いられるでしょう。そして、それが十年以内に起こる可能性はあります。

春原 現在、中国の成長率の原動力となっている労働コストも上がるでしょうし、労働環境の改善、組合活動など様々なマイナス要因が考えられますね。エネルギー資源、水資源の問題、「一子政策」に伴う急速な高齢化、そして「共産党一党支配」という政治体制上の難問……。

ナイ 彼らは政治参加に関する問題をまったく解決していません。これまでの議論でおわかりのように、ですから私は中国に対してあまりに警戒を強めるのは間違いだと思っています。中国は経済的にも政治的にも多くの問題を抱えているわけで、あまり過剰に「中国問題」を心配するのは賢明ではないと思いますよ。

(中略)

春原 「政治体制の改革」という意味では、数人の中国人学者が興味深いことを言っていました。つまり、「これまでは日本から経済成長のモデルを学んだが、これからは政治体制のモデルを学ぶべきだ」と。「それはどういうことか」と尋ねたところ、「表面上、日本は複数政党制の民主主義を標榜しながら、実態は自由民主党という一党独裁体制を五十年以上も続けてきた」という返答でした。

ナイ 確かに自民党は中国にある種のモデルを提示したでしょうね。あと、彼らが参考にするのはシンガポールでしょう。


 中国は分裂しない。中国は今後も統一国家であり続ける、と書かれています。



 この記事も、米国の専門家は「どう考えているのか」を示す目的で引用しています。引用することそのものに意味があると思います。

 しかし今回も一応、私の意見を書きます。



 「中国は分裂しない。中国は今後も統一国家であり続ける」という予測について、私も同意見です。

 経済成長が鈍化すれば中国は分裂する、という意見も(一部には)ありますが、私はこの意見は間違っていると思います。これについては、「中国の最終手段は「戦争」と「革命」」をご覧ください。



 なお、引用部分の最後、春原氏が紹介されている内容はきわめて興味深いですね。

 中国は日本を「見習って」表面的・形式的に複数政党制の形をとりながら、実質的に一党独裁体制を継続する方法を研究しようとしているようです。

 たしかにこの形であれば、中国の「民主化」はあり得ると思います。



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中国における文民統制の弱体化傾向

2011-12-28 | 日記
リチャード・L・アーミテージ ジョセフ・S・ナイJr 春原剛 『日米同盟 vs. 中国・北朝鮮』 ( p.96 )

春原 習近平氏ら中国の次世代、いわゆる第五世代の指導者は「太子党」と呼ばれ、かつての党有力者たちの子弟になります。日本流に言えば、「政治の世襲」であり、「二世議員」となるわけで、これは日本でも今や大変な批判の目に晒されています。中国でも人民解放軍の長老たちはこうした「太子党」に対して十分に敬意を持たず、それだけに軍へのシビリアン・コントロール(文民統制)に不安材料が出てくるという分析もあります。

ナイ 私が勤めるハーバード・ケネディ・スクールで数年前、人民解放軍の大佐クラスを数人招いて、セミナーを開催したことがあります。第一に軍部には軍部独自の利害があり、それはどの国の軍組織にも言えることです。そして彼らは常に最悪のケースについて分析を重ねています。中国人民解放軍もその例外ではなく、彼らもその方向に進んでいるのでしょう。
 一方でハーバードにやってきた大佐たちと話をしてみて大変驚いたことを覚えています。彼らの考えは皆、バラバラで意見も異なっていたからです。そのうちの一人は私に近付いてきて、こう言いました。「自分の子供たちには民主主義体制下での生活をさせてあげたい」と。あの時は本当に驚きました。

アーミテージ 確かに二〇一二年には権力移行があり、胡錦濤、温家宝といった現在の指導者は第一線から退きます。ただ、胡錦濤氏についてはその後も党中央軍事委員会のトップに留まるのではないかと思っています。小平氏と同じパターンですね。そうすることで影響力を保持するわけです。しかし、その場合でも胡錦濤氏は人民解放軍の指導部との関係をさらに発展させなければなりません。そのためには胡錦濤氏は軍人、特に将軍たちがしようとすることを止めたりはしません。そして、それはつまり将軍たちの影響力が増すということです。

春原 その種の将来予測に対して、米国内に懸念はないのですか?

アーミテージ もちろん、あります。私は懸念しています。心配(Worry)ではなく、懸念(Concern)です。我々の(マレン)統合参謀本部議長もかつて、中国に「関心」を持っていましたが、今は「懸念」に変わっています。というのも誰も、恐らく中国人も含めて、彼らが十年後、十五年後にどうなっているのかわからないからです。
 少し前、米国の空母キティ・ホークが嵐を回避するため香港への寄港を求めましたがこれは拒否されました。その前には中国は人工衛星の撃墜実験を強行しました。あの時、人民解放軍は北京の文民指導部にきちんと相談し、許可を取っていなかったのではないか、という見方がありました。それに対して、私の答えは「いや、そんなことはない」でした。もちろん、軍部は文民指導部に報告していました。ただ、十分にというか完全には報告していなかった。たとえば、キティ・ホークの件ですが、彼らは北京に対して「香港への寄港は認めない」と言ったのでしょう。ただ、ひどい嵐の場合は敵であろうと味方であろうと港への立ち寄りを認めるという慣行があることまでは説明しなかった。これは海の男たちの間で過去数百年も守られている慣行であるにもかかわらず、です。
 人工衛星撃墜で言えば、胡錦濤主席に「米国が行ったように我々も衛星撃墜実験を行います」とは言ったでしょう。もちろんですとも! しかし、その実験によって四万個もの破片が宇宙空間にデブリ(宇宙ゴミ)として浮遊するとまでは言わなかった。

ナイ 中国の文民は今も軍部をコントロール下に置いていると思いますが、人民解放軍はとても強い圧力団体でもあります。加えて、中国のシステムというのはとても透明性が低い。だから往々にして、文民側が知らないことも軍部がやってしまうのです。たとえば、人工衛星の撃墜実験について軍部は中国外務省には事前通達はしていなかったと言われています。実験後、外務省は世界に説明するため、全容把握に躍起にならざるを得なかった。このケースでは人民解放軍が文民の統制下にはなかったと言えるでしょう。胡錦濤国家主席が撃墜実験を知っていたかどうかまではわかりませんが、明らかに外務省は知らなかったということです。


 中国人民解放軍の長老たちは太子党に対して十分に敬意を持っていない。そこで、軍へのシビリアン・コントロール(文民統制)に不安があるという分析がある。おそらく胡錦濤は影響力を保持するために、党中央軍事委員会のトップに留まる。そして彼は軍人、特に将軍たちがしようとすることを止めたりはしないはずである。したがって今後、軍部の影響力が増すと予想される、と書かれています。



 今回は、米国の専門家の見かたを「示す」目的で引用しています。「引用する」ことそのものに意義があると思います。

 ですが一応、私の意見を書きます。



 まず、「中国人民解放軍の長老たちは太子党に対して十分に敬意を持っていない」という点についてですが、

 「太子党の絆の強さの秘密」でみたように、太子党の人々も「苦労」してきており、たんなる「二世」とは異なります。

 しかし、「もっと苦労してきている」軍の長老たちからみれば、太子党の人々の「苦労」などは苦労のうちに入らず、十分な敬意を持ちにくい、というのはわかる気がします。

 とすれば、「軍へのシビリアン・コントロール(文民統制)に不安がある」という分析には、十分な根拠があると思います。



 次に、現状について、たとえばキティ・ホークの寄港の件や、衛星撃墜実験などの際に、北京の最高指導部が軍の動きを「完全には」掌握していなかった、という点については、

 私には(情報を持っていないので)わかりません。

 しかし、「まったく知らなかった」のでもなく、「意思疎通が完全にとれていた」のでもない、という米国側の分析は「正しい」のではないかと思います。いかにもありそうな話だと思います。



 次に、「おそらく胡錦濤は影響力を保持するために、党中央軍事委員会のトップに留まる」という点についてですが、

 私も同意見です。これについては、「胡錦濤の幹部人事」などに詳しい記述があります。



 最後に、「胡錦濤は軍人、特に将軍たちがしようとすることを止めたりはしないはずである。したがって今後、軍部の影響力が増すと予想される」という点についてですが、

 これは鋭い分析だと思います。

 私はこれには気がつきませんでしたが、おそらくアーミテージ氏の意見の通りになるでしょう。



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