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言語空間+備忘録

メモ (備忘録) をつけながら、私なりの言論を形成すること (言語空間) を目指しています。

林彪事件と人民解放軍人事

2010-11-19 | 日記
陳惠運・野村旗守 『中国は崩壊しない』 ( p.86 )

 中国人民解放軍のなかでクーデター計画が練られ、これが未遂のうちに鎮圧されたことが過去に一度だけあった。言わずと知れた林彪事件である (七一年九月一三日に起こったので9・13事件とも呼ばれる) 。

(中略)

 国防部長だった林彪は六九年に唯一の党副主席となり、毛沢東の後継者と目されるまでになった。しかし、いったん毛に叛意を怪しまれるや、執拗な追及に遭うことになる。以来「毛沢東天才論」を唱えるなど見え見えの阿諛 (あゆ) 追従を繰り返して絶対服従の姿勢を示し続けた林だったが、ついに毛の疑念を晴らすことはできなかった。七〇年前後になると、「右派」の汚名を着せられた林彪は、自身の粛清が近いことを悟るにいたる。
 死は間近に迫っている。こうなったら最期。殺られる (やられる) 前に殺る (やる) しかない。林彪の息子で空軍作戦本部長だった林立果が中心となり、毛沢東爆殺計画が練り上げられた。林彪一族によるこのクーデター計画は、事件後立果の部屋で発見された「571工程紀要」という文書にまとめられていた (571の音は「ウーチーイー」で武起義 (ウーチーイー)〈=武装蜂起〉に通じる) 。それによれば、地方視察から帰る毛沢東の専用列車を爆破して政権を転覆した後、林彪を首班として広州に新政権を樹立することになっていた。

(中略)

 結局、毛沢東らが北京に戻る直前になって情報が漏れたため、この暗殺計画は頓挫してしまう。

(中略)

 ともかく、国防部長を務め、解放軍の陸海空すべての部門の司令官が側近であり、また軍内総政治部、総参謀部、総後勤部のトップもすべて自分の部下であった林彪ですらクーデター発動にまでいたることができなかったのである。このとき、暴発を未然に防いだのは、軍のなかに細密に張り巡らされた党の情報網と、毛沢東に絶対の忠誠を誓わせる共産党の日常的な洗脳教育の成果だったと言えよう。
 林彪亡きあと、十大元帥の一人葉剣英が国防部長に就任し、劉少奇とともに失脚して江西省の片田舎にいた小平も復活を果たした。は林彪のライバルだった。
 林彪事件があってからというもの、毛沢東が常に気に病むようになったのは、軍によるクーデターの懸念だった。一時は後継者にすら指名し、側近中の側近だった林彪に反旗を翻されたショックは、さすがに大きかったようだ。
「どうしたらクーデターを未然に防げるだろうか?」
 と、毛沢東は復活したばかりの小平に相談を持ちかけた。
「……将在軍、君命有所不受 (将が軍に在ると、君命を聞かなくなることがある)」
 少し考えてから、小平はそう答えた。
 これは紀元前の春秋時代に『兵法』で名高い孫子が説いた教えで、司馬遷の『史記』のなかにも採録されている有名な言葉である。つまり、将が軍に居続けると独立王国を築いて勝手なことをやり出す、という意味だ。
「所以 (だから)」
 と、小平は続けた。
「軍の司令官は一個隊に長く留まらせず、できるだけ頻繁に移動させることです。そうすれば隊長と兵士たちのあいだに特別な関係が生まれるのを防げます」
 これを聞いた毛沢東は即座に膝を打ち、眼の前の小さな男の頭のよさに舌を巻いたという。そして直後に小平が副首相に昇格したのは、この卓抜なアイデアを提供したことに対する褒賞人事であったと伝えられる。以後解放軍では、軍区のトップはもちろん、各軍の将校クラスの幹部たちにいたるまで、時期を置かず繰り返し移動させられることになった。


 林彪事件のあと、人民解放軍では人事移動が頻繁になされるようになった、と書かれています。



 中国の「国防部長」は、日本でいえば「防衛大臣」にあたります。日本語の「部長」のイメージとは異なり、「大臣」です。

 その国防部長ですらクーデターに失敗したというのですから、党中央に対するクーデターは、事実上不可能だといってよいと思います。そしてまた、林彪事件以後、人民解放軍における人事移動が頻繁になされるようになった、というのですから、「ますます」クーデターの可能性は低くなっているとみられます。とすれば、

   中国においては、軍が党に反旗を翻すことはありえない、

と考えてよいと思われます。



 「中国は分裂する」と説く人がいますが、

 国が分裂しそうな状況になれば人民解放軍が動き、分裂を阻止しようとするはずです。したがって、人民解放軍の協力 (または黙認) がなければ、中国は分裂しないと考えられます。

 むかしとは異なり、現代の武器は殺傷力が高くなっています。一昔前ならいざ知らず、現代においては、軍隊が動けば民衆の分離独立を求める動きはまず間違いなく、鎮圧されるでしょう。

 そして、その人民解放軍は、「中国人民解放軍における軍内党組織 (政治委員)」の存在、および上記引用で説かれている「頻繁な人事移動」によって、党中央の意向に逆らうことは「まず、ありえない」と考えられます。

 とすれば、軍が党中央に反旗を翻す可能性はほとんどなく、さらに「中国共産党は分裂しない」と考えられる以上、「中国は分裂しない」のではないかと思います。