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李登輝の馬英九分析

2011-02-07 | 日記
櫻井よしこ 『異形の大国 中国』 ( p.330 )

 08年1月12日の台湾立法委員(国会議員)選挙はおよそすべての予測を超える野党国民党の大勝利だった。台湾は、総人口の85%を台湾人(本省人)が占める一方で、蔣介石らとともに台湾に逃れてきた中国人(外省人)は約12%である。その台湾で、台湾人の政党である民進党が結党以来の大惨敗を喫したのだ。
 勝利した国民党は、定数113議席の3分の2を上回る81議席を獲得、27議席にとどまった民進党を圧倒した。国民党は総統を罷免することが出来る3分の2を易々と得た。さらに諸派・無所属議員から4人を加えると4分の3の85議席となり、憲法改正さえ可能な圧倒的な力を手に入れたわけだ。3月22日に予定されている総統選挙で、たとえ民進党候補が勝ったとしても、これでは非常に難しい政権運営となる。
 国民党の迫害を受けて長年日本で亡命生活を送った経験のある金美齢氏は、民進党の敗北は07年の日本の参議院議員選挙での自民党の敗北より深刻だと強調する。
「日本には衆参両院がある。しかし、台湾は一院制です。台湾立法院での大敗北の意味は深刻なのです」
 なぜ台湾人の政党は敗れたのか。経済成長の鈍化、失業者の増加、高齢者福祉の停滞といった、国民生活を重視しなかったとの批判に加えて、陳水扁(ちんすいへん)総統の身辺の汚職や腐敗問題、台湾人意識を高揚させようと中国への対立姿勢を煽った結果、中国との関係がまったく進展しなかったなどの指摘がある。
 そうした意見とは逆に、陳政権はよくやったという見方もある。
「陳総統は野党多数の下での議会運営を強いられてきたのです。国民党などの反対で思うような政策が施行出来ないなかで、たとえば台湾の株価は07年1年で8%を超える伸び率を達成しました。一方、日本はマイナスでした。陳政権は日本よりも良い結果を残したのです」と金氏。
 そうした事を忘れ、かつて国民党が継続して行っていた台湾人への迫害、白色テロの恐怖も、有権者は既に忘れているとも、金氏は語る。
「中国の脅威にどう対処するかという国の安全や独立のことよりも、生活第一という馬英九(国民党前主席)の訴えに人々は魅かれるのです。愚かなことだと思います」

★国民党への李登輝氏の懸念

(中略)

 李登輝氏は…(中略)…馬氏の考えは次の3点にまとめられると指摘する。①自分は中国人だという意識、②台湾は(台湾ではなく)中華民国だという信念、③中華民国の(中国重視、台湾軽視の性格をもつ)憲法は維持し、改正しないという立場、である。
 台湾では「あなたは何人(なにじん)か。台湾人か、中国人か」との問いに、70%の人が自分は台湾人だと答えるようになった。ほぼ全員が「自分は中国人」と答えていた李登輝氏の総統就任以前の台湾とは様変わりだ。本省人として初の国民党主席を務め、その後、台湾独立に向けて備えてきた李登輝氏は語る。
「国民はかなり強い台湾人意識を持っています。ですから、馬氏が総統に就任しても、公然と大陸に擦り寄ることは出来ないでしょう。馬氏は今のところ、少なくとも中国の言いなりにならないという印象を植えつけるように、心を配っています」
 だが、自分を中国人ととらえ、台湾は中華民国であり、憲法は改正しないと馬氏が考えていること自体、すでに中国に大きく歩み寄っていることを意味するのだ。その馬氏が率いる国民党の勝利を、中国は明らかに大歓迎している。余裕ある静観を決め込む中国を、李登輝氏は、「弾力的で静かな台湾政策で成功をおさめた」と評す。


 李登輝氏は、馬英九氏の特徴は「①自分は中国人だという意識、②台湾は(台湾ではなく)中華民国だという信念、③中華民国の(中国重視、台湾軽視の性格をもつ)憲法は維持し、改正しないという立場」であると指摘している。
 08年1月12日の台湾立法委員(国会議員)選挙はおよそすべての予測を超える野党国民党の大勝利だった。国民党は定数113議席の3分の2を上回る81議席を獲得、27議席にとどまった民進党を圧倒した、
 と書かれています。



 著者は、
 台湾では「あなたは何人(なにじん)か。台湾人か、中国人か」との問いに、70%の人が自分は台湾人だと答えるようになった。ほぼ全員が「自分は中国人」と答えていた李登輝氏の総統就任以前の台湾とは様変わりだ。
と書いておられます。この調査が「いつの時点の」調査なのか、そこのところが書かれていないのでわからないのですが、

 「台湾人か中国人か」で引用した資料によれば、
 台湾の人口の八四パーセントは、もともと台湾にいた人々ではなく、中国からやってきた人々だといわれている。だが二〇〇四年に台湾の名門、国立政治大学が行なった世論調査によると、四一パーセントの人が自分は台湾人だと答えている。一九九三年、十二年前の調査では台湾人だと答えた人は一七パーセントだったから、この十年あまりで大きく増えたわけである。
 一方、中国人だと思っている人は、一九九三年の調査では、二〇パーセント以上だったが、今回の調査では一〇パーセント以下に減ってしまっている。
ということなので、

 おそらく著者(櫻井よしこ)が執筆した時点(2007~2008年頃)における最新の資料による数字ではないかと思います。傾向として、「自分は台湾人である」と考える人が増えつつあることが、「台湾人か中国人か」で引用した資料には示されているからです。直近(昨年)の選挙においても、「台湾の五大都市市長選結果」には強烈な台湾人意識が示されており、この傾向、すなわち「自分は台湾人である」と考えている者が増え続ける傾向は現在も続いているものと思われます。

 とすると、「台湾人のアイデンティティー」は着実に形成されつつある、とみてよいと思います。



 李登輝氏によれば、馬英九氏の特徴は「①自分は中国人だという意識、②台湾は(台湾ではなく)中華民国だという信念、③中華民国の(中国重視、台湾軽視の性格をもつ)憲法は維持し、改正しないという立場」である、ということになります。台湾に住んでいる台湾人の分析ですから、この分析は「正しい」とみてよいでしょう。

 著者は「自分を中国人ととらえ、台湾は中華民国であり、憲法は改正しないと馬氏が考えていること自体、すでに中国に大きく歩み寄っていることを意味するのだ」と書いておられます。著者が執筆した直後の選挙で馬英九は台湾総統に当選したわけですが、
台湾が憲法を改正して独立を宣言しようとすれば、「中国がなにをするかわからない」以上、この部分は問題視するにあたらない
と思います。この部分は「現状維持」にほかならず、「現実的な選択」だとみなければなりません。

 問題になりうるとすれば、馬英九の「①自分は中国人だという意識」ですが、馬英九が政治のうえで「現状維持」路線をとるかぎりは、問題とするにはあたらないと思います。馬英九が「自分は台湾人だと考えていようが、自分は中国人だと考えていようが、要は台湾にとって最善の政治をすればよい」からです。

 問題は、「なにが台湾にとって最善なのか」であり、馬英九は「台湾問題についての米中台の姿勢」でみたように
台湾海峡で戦争が勃発しても決して (never)米国に台湾への支援を求めたりはしない、などと語った
りして親中路線、経済成長重視の政治を目指したところ、台湾人の支持を失いつつある、と考えられます (上述の「台湾の五大都市市長選結果」参照) 。

 したがって台湾人が考える「台湾にとって最善」とは、「経済成長しつつも、中国とは一線を置いた距離を保つこと」だと考えられます。

 今後、馬英九は中国と微妙に距離を置く政策をとらざるを得ないと考えられ、「すくなくとも馬英九政権においては、台湾と中国がひとつになることは、あり得ない」と考えてよいのではないかと思います。つまり、
「国民はかなり強い台湾人意識を持っています。ですから、馬氏が総統に就任しても、公然と大陸に擦り寄ることは出来ないでしょう。馬氏は今のところ、少なくとも中国の言いなりにならないという印象を植えつけるように、心を配っています」
という李登輝の予想は、「正しい(正しかった)」とみてよいのではないかと思います。



 問題は次の選挙(2012年)ですね。



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