先にブログで紹介した山内秀夫さんの「石印材」の中にある参考文献で、面白い記述がありました。。
古に篆刻家先生がいて、かつては頼まれると、出来るだけ田黄石や芙蓉石などの銘石に刻したものだが、そういう自分の作はそのうち絶えて無くなることに気づいたというのです。好事家が争って飛びつくような、中国三宝といわれる石は、彫って渡した先からまたどこかに売られ、印面をすり潰されて別の人が彫るので、自分の作品が消えてしまいます。のみならず、潰しては彫るということが繰り返されるうち、長い年月のうちにいつか小片になってどこかにいってしまうのです。
それで、その数世紀前の先生は自作品が残存するのは、一般的に普及する青田石などの印材に彫ったものだという事に思い当たり、以後は出来るだけ安い普及材を使うようにしているということです。ワタシも他人様からヤフオクで始終買い集めていて、よほどの有名人の側款でもない限り、印面をすり潰す作業は欠かせません。飛び切りの高級材を入手することはまず無いので、その先生が懸念するような状況ではありません。
消えて無くなった印材「幻の石」と呼ばれる伝説的な印材があります。篆刻印の雑誌・専門書で必ず記述がある「艾葉緑(かいようりょく)」です。古来の文献では、田黄を差し置いて艾葉緑(または艾緑)が最も上品であるとの記載を目にするのです。よもぎの葉っぱの色、なんとなく想像はつきますが、その色合いの説明が濃淡いろいろあってはっきりしません。なにせ、発見された当時はカラー写真がありませんから。
ただ残念ながら、この石が幻と言われる理由が、産出量が極めて少なく中国の清時代にはすでに産が途絶えた(と言われる)、類似した外観を持つ雅安緑や広東緑・広寧石などと区別がつきにくいというのです。専門家すら目にしたことが無いので、鑑定不能、大まかに広東緑に含まれるとする研究家もいるのです。先日入手した「図説 石印材」の著者小林さんも、艾葉緑とされる銘石の写真を掲げながら、それが真正か否か「疑念を持つ」と述べています。
中国人は緑の石が大好きで、「翡翠」など緑色の装飾品が多いのです。印材も緑色が好まれ、その最高峰がこの艾葉緑。従って、入手して愛し印刻するうちに減っていたのかもしれません。また、大金持ちや特権階級が収蔵したまま世間に出てこないと言ったことがあるかもしれません。
僅かな情報を総合すると、石自体の美しさを愉しむため態と紐や薄意を施さない、田黄石同様彫りやすいのだそうです。
このブログで、緑色の石を取り上げました。
まぁ、そう簡単には巡り合えませんわね(笑)
それでも、ワタシは緑色の石材を見つければ積極的にオークションで落札しております。最近入手した緑石は、いずれも「広東緑」と思われます。
「墨スペシャル」で紹介された艾葉緑の写真がコレ。
似てると言えば似てますが、専門家さえ見分けがつかないのですからワタシが鑑別できるわけもありません。こういうのを緑石混合と言いますな(笑)
追記 狭義の艾葉緑は、杜陵坑の北にある月尾洞付近で産出された物を指します。この月尾洞は、すでに良石材の産出は絶えているようで、「月尾〇」と呼ばれる石もなかなか貴重で高値になる様であります。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます