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古代日本のルーツ・長江文明の謎(その4)

2021-11-12 08:11:58 | 日本文化の源流

〇日本の神話に残る長江文明の影

以下、安田教授の著述である。”長江文明を築いた人たちは、やがて北からの民に追われ、長江流域から追われていった。ある一派は中国の雲南へ行き、ある一派は日本や台湾へと渡った。古代の日本には、長江文明を担った人たちが遣って来たのである。

そうした視点から日本の神話を見直してみると、仮説の域を出ないもののじつに興味深い解釈が成り立つ。例えば、『日本書紀』にある二二ギノミコトのくだりである。二二ギノミコトは、高天原から日本へやってくるわけだが、まず降り立ったのは鹿児島県の笠沙というところである。

(この笠沙の浜の背後に高千穂があるわけではなく、また韓国に向かった場所でもない。やや解釈に無理があるようだ)

この笠沙の周辺は、非常に意味のある場所だ。笠沙町から車で東へ15分ほど行ったところにある坊津町秋目浦は、753年(天平勝宝五年)、鑑真が長江を下り、沖縄を経て漂着した場所である。中国から海を渡って日本列島にやってくるとき、この一帯は漂着のメインコースになっている。実際、笠沙町の黒瀬海岸には、「密航者にご注意」という看板が立っている。ほかにも日本海では出雲、富山、越後といったところも中国からの漂着のポイントとなっているが、一つのメインコースが九州の南西端である笠沙周辺であることは間違いない。鎌倉時代から室町時代にかけて、坊津は南方貿易の拠点にもなっていたことからも、この辺りが中国大陸との重要な接点となっていたことがわかる。この辺りは、海からの目標になるものもある。鹿児島県の野間岳と開聞岳である。この二つの山を目標に二二ギノミコトは船を動かし、笠沙の浜に漂着したのである。

なぜ二二ギノミコトが笠沙の地に着いたことが神話として残ったのか。そのことを考えていくと、二二ギノミコトは幕末の浦賀に現れたペリーのようなものではなかったと考えることができる。つまり、二二ギノミコトというのは長江文明を担った人たちのことであり、彼らの高度な文明に当時、日本列島にいた人たちは驚いたにちがいない。その衝撃が、笠沙の地の神話として残ったのである。

なにしろ、長江文明という巨大な文明を担っていた人たちである。彼らは、北方の民族に追われて、ボートピープルとして流れ着いたとはいえ、高い文化と技術を持っている。当時の日本は、縄文時代の晩期にあたる。その時代の日本は、長江文明に比べて1000年以上の文化的な落差があったと考えられる。その記憶を、二二ギノミコトの漂着として記憶したのではないか。二二ギノミコトが、いつ日本へ来たかはわからない。けれども、笠沙の地に漂着したという神話は、二二ギノミコトが高度な文化をもった長江文明の末裔だったということを物語っているとは考えられないだろうか。”

う~ん。安田教授は仮説と申しておられるが、これを仮説と申すには多少なりとも抵抗感が残る。鹿児島県の笠沙町が天孫降臨説話の示す笠沙かどうか、それを是とする見解、それを非とする見解、それぞれどうなっているかは知らない門外漢の以下の見解である。先ず古事記の天孫降臨条を御覧いただきたい。

故爾詔天津日子番能迩迩芸命、・・・略・・・天降坐于竺紫日向之高千穂之久士布流多気。・・・略・・・於是詔之、此地者、向韓国、真来通笠沙之御前而、朝日之直刺国、夕日之日照国也。故、此地甚吉地詔而、於底津石根宮柱布斗斯理、於高天原氷椽多迦斯理而坐也。(訳文:故ここに天津日子番能迩迩芸命(あまつひこほのににぎのみこと)に詔りたまひて、・・・略・・・ 筑紫の日向の高千穂のくじふる嶺(たけ)に天降りまさしめき。ここに詔りたまひしく、「此地は韓国(からくに)に向ひ、笠沙の岬を真来通(まきとほ)りて、朝日の直刺(たださ)す国、夕日の日照る国なり。故、此地は甚吉(いとよ)き地(ところ)」と詔りたまひて、底つ石根に宮柱ふとしり、高天の原に氷椽(ひぎ)たかしりて坐(ま) しき。)・・・と記されている。

(天孫降臨伝承で最もふさわしいのは北部九州の糸島平野であろう)

ここで、安田教授は二二ギノミコトが降り立ったのは笠沙と記されているが、それは笠沙ではなく、高千穂のくじふる嶺である。そこは韓国に向かっており、笠沙の岬を真来通りてとあるが、この真来が不明である。安田教授の恩師・梅原猛氏は「真っ直ぐ」と訳されている。韓国に向かっているとのことから、北部九州と考えられるが、そのことはここまでにしておく。

よって教授が記される、呉越の地から二二ギノミコトが笠沙の浜に漂着した云々との説は、多分に疑問符である。但し、笠沙の浜かどーかは別として、越の人々が日本列島に渡来して来たことは事実と考えられ、それを安田教授は二二ギノミコトに仮託されたものと解釈している。

<不定期連載にて続く>