アカデミー外国作品賞を取った滝田洋二監督、本木雅弘主演の映画「おくりびと」がもうテレビで放送されて、観ることができた。読者の皆様も観られた方も多かったのではないかと思います。誰もが忌み嫌う「死」というものを送る立場で描いたこの作品はなかなかのものでした。本木演じる主人公が交響楽団の解散でチェロ奏者の仕事がなくなり、故郷の山形に帰り、「旅のお手伝い」という広告を見て、ひょんなことから納棺師になる。納棺師とは、遺体を清め、旅立ちの正装をほどこし、化粧をほどこし、納棺する仕事である。ひとびとはそれぞれの人生を生き、そしていずれそれぞれの死を迎える。人間にとって「死」は最大の恐怖であり、誰もが忌み嫌う。しかし、主人公の納棺師は次第に様々な死というものを受け入れ、優しい慈悲深い心で死体のお世話をするようになっていく。それは観る側も「死は終わりではなく一つの門であり、新たな旅立ちだ」という気持ちにさせてくれる。輪廻という日本仏教の考えはアメリカにはないから、死をこういう視点で考えるのはアメリカ人にとって新鮮にうつったかも知れない。しかし科学的に考えても、人間は細胞60兆個から成り立ち、さらに一つの細胞はミトコンドリアと核というバクテリアから成り立っている。それをさらに最小にしていくと所詮人間は原子の集合体である。原子に死はなく、死によって結合が離散し、また新たな結合で新たに生まれ変わるものである。勿論その後は、原子のあるものは空気になり、あるものは海になり、あるものは土になり、またアリンコになるかも知れない。とにかく現世に生を受け、人間として生き、そして死という新たな門をくぐって、また生まれ変わっていく。その死者に対して、誰もが現世の「おくりびと」であり、やがて自分も「おくられびと」になる時がやってくる。映画の合い間合い間に飛び立つ渡り鳥たち、本木のチェロの響きが、一層、死と生の物悲しさを際ださせていた。
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